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🔖相談



 居並ぶ面々を見てファンタジーに出てくるモンスターっぽいなと思う。
 従姉がよくやるゲームにもこういう敵キャラクターがいた。

 始めに口を開いたのはローブを被った男性だった。老人のようなしゃがれ声だけれど、たぶん男性……だと思う。
 すごく腐ったみたいな匂いがするのが気になる。でも指摘するのも申し訳ないので口を噤んだ。
「ゴルベーザ様は精神支配の術に長けている。そう簡単に乗っ取られるとは思えん」
 その発言を受けて燃えている彼が睨みつけるものの、ローブの男性は見事に無視していた。

 甲羅を背負った青い亀人間が続ける。
「認めろよ。どう考えてもこれをやったのはゴルベーザ様だろ」
 ……ん? この事態を引き起こしたのはゴルベーザ様自身だったってこと?

 とりあえず、現状あまりにもこんがらがっているので一つずつ紐解いていくことにしよう。
「はい」
 挙手すると全員が一斉に私を見た。居心地が悪い。
「まず自己紹介をしませんか。私はユリというものです。体はゴルベーザ様ですけど、中身はゴルベーザ様ではありません」
 見た目は子供、頭脳は大人、みたいな自己紹介をして様子を窺う。無視されると辛いところだけれど。
「風のバルバリシアよ」
 今まで黙っていた超長髪の美女が名乗ってくれた。よかった。
 みんなあの燃えている彼みたいに真っ当な会話をしてくれなかったらどうしようかと思った。

 真っ先に答えたバルバリシアさんを煩わしげに睨みつつローブの男性も後に続く。
「スカルミリョーネだ」
 バルバリシア、スカルミリョーネ。よし、覚えにくいぞ。ちょっと冷や汗が出てきた。
 聞き返したら悪いから一度で記憶しないと。
 続いて青い人面亀に視線を移すと彼も口を開いた。
「カイナッツォ。そこで不貞腐れてるのがルビカンテだ」
「誰が不貞腐れている」
 明らかに不貞腐れてるルビカンテさんは置いといて四人の名前を確認する。
 向かって左から順番にスカルミリョーネ、カイナッツォ、かぜのバルバリシア、ルビカンテ。

 ああ、“かぜの”って“風”か。風のバルバリシア。
 他の三人を見た感じおそらくそれぞれに属性があるんだろう。
 ルビカンテさんは分かりやすく火、カイナッツォさんは水だろうか。となるとスカルミリョーネさんが土かな。
 ますますもってゲームじみてきた。
 ゴルベーザ様は何属性だろう? 残ってそうなのは雷、金、木、毒辺り。光か闇という線もあるけれど光はないと思う。
 だってここにいる人たち、明らかに悪役ポジションだもの。闇闇してる。

 ひとまず彼らに私の状況を説明する。といっても「朝起きたらゴルベーザになってた。理由は分からない」と極々簡素な事実のみだ。
 これが私にとっても不測の事態だとは理解してほしい。
 人外の力なのか、この肉体の中にいるのがゴルベーザ様ではないというのは見れば分かるらしい。
 そしてスカルミリョーネさんによれば、精神支配の術に長けたゴルベーザ様が誰かに体を乗っ取られるなんてあり得ない、と。

 精神支配が得意ってすごく突っ込みたいけれどそこは後回し。
 さっき話してたのはカイナッツォさんだったかな。
「カイナッツォさんは、そのゴルベーザ様が私の精神を自分の体に入れたと思うんですか?」
「あ、ああ……」
 妙な顔をしつつ、カイナッツォさんが続ける。
「相手の精神に接触して言動を支配し、意のままに操る。ゴルベーザ様の得意な術だ。お前みたいなやつが体を乗っ取ろうとしても返り討ちにされるに決まってる」
「それが成功してるんだからゴルベーザ様自身の意思で私を招いたとしか考えられないってわけですね」
 なんて迷惑な。というか、何のためにそんなことを?

「皆さんはモンスター……ですよね?」
 聞くまでもないことだけれど一応は確認を。皆、愚問だとばかりに頷いている。
「私のいた場所にはモンスターなんていません。魔法もないです。なんだか物語の中に迷い込んだ気分です」
 魔法がないと言ったところでルビカンテさんが意外そうな顔をする。
「これがゴルベーザさんの仕業だというなら、異世界から無力な私を引っ張り込んだ理由は何でしょうか」

 精神支配の術と召喚魔法を組み合わせれば自分の体に他人を憑依させることも不可能ではないという。
 これがゴルベーザさんの意思で為されたと主張するからには、彼がそれを行う理由に心当たりがあるということだ。

 四人は顔を見合わせ、しばらく考え込む。やや敵意の薄れたルビカンテさんが私に問いかけた。
「お前……ユリだったか。ゴルベーザ様の記憶を覗くことはできないのか?」
 記憶を覗くとは一体。
 ゴルベーザさんには魔法が使えたかもしれないけれど、私は魔法の存在しない世界の生き物だ。他人の記憶を覗く方法なんて見当もつかない。

 首を傾げる私にスカルミリョーネさんのフォローが入る。
「それはゴルベーザ様の体だ。もちろん脳もな。自分の記憶を思い出すようにゴルベーザ様の脳を使えば、お前を呼んだ理由も分かるかもしれん」
「なるほど」
 確かに、脳みそだってゴルベーザさんのものだから、いま彼の肉体を所有している私にも彼の記憶を読み取れるかもしれない。
 ……他人の肉体の中にあって“ユリ”という存在の根拠はどこにあるのか気になるけれど。

 とりあえず、昨日なにがあったのか記憶を手探りしてみる。
 昨夜は特番があったので従姉と一緒に夜の11時過ぎまでテレビを見ていた。
 その後お茶を飲んで歯を磨いて冷蔵庫の中を確認し、卵と醤油がなくなりそうだったので明日買いに行こうねと言い合ってから就寝した。
 ……うん。違う。これは“ユリ”の記憶だ。

 この脳に蓄えられているはずのゴルベーザの記憶に届かない。
「ダメです、私自身の記憶しか見えません」
 ただし、まったく見つからないわけじゃない。
 記憶を手繰る時、デジャヴュのように過る微かな思考がある。それを捕まえようとしても何かに阻まれてしまうのだけれど。

 ゴルベーザさんは自分の心に防壁を築いていたのかもしれない。
 誰かが乗っ取りを仕掛けても返り討ちに遭うというほどだから、そうやって記憶を封じて対策していたんじゃないかな。

 この事態がなぜ起こったのかは依然として分からず、解決法も思いつかない。
 四人、というかルビカンテさんはかなり苛立っていた。それを嗜めるでもなくむしろ煽るようにカイナッツォさんが呟く。
「だからよぉ、やっぱり人間を滅ぼすのが嫌になって身代わりを立てたってこったろ?」
「ゴルベーザ様が逃走などするものか!」
 ゴルベーザさんは逃走しないタイプなのかぁ。

 憤るルビカンテさんに、カイナッツォさんも退かない。
「他にどんな理由があるってんだ。中にいるのは魔力もないただの小娘だぜ。で、俺たちはゴルベーザ様を呼び戻す方法も分からねえ。後を追えないようにしたってことだろーが」
「使命を果たせぬこの状況がゴルベーザ様の意思によるものだと? 侮辱が過ぎるぞ、カイナッツォ」

 言い争いを始めてしまった二人からちょっと距離をとる。ルビカンテさんの火がまたまた勢いを強めていて怖い。
 それを鬱陶しそうに見やりながら、スカルミリョーネさんもカイナッツォさんの言葉を肯定した。
「ゴルベーザ様は、バロン侵略をずっと躊躇っておられた。使命のためとはいえ同族に仇なすのに嫌気がさしたというのはあり得る話だ」
 なんだか複雑だ。ゴルベーザさんは人間でありながら他の人間を滅ぼそうとしていたらしい。つまりモンスターの味方ということだろうか?

 やる気のなさそうなカイナッツォさんとあまり喋らないバルバリシアさんは何を考えているかよく分からない。
 でも激昂しているルビカンテさんと消沈してるスカルミリョーネさんからは、いなくなったゴルベーザさんへの敬意が感じられる。
 いきなり知らない人の体に入ってしまった私と同じくらい、いきなり知ってる人が他人と入れ替わってしまって彼らも困惑しているんだ。

 ひとまず一番冷静さを保っているバルバリシアさんに確認する。
「ゴルベーザ様は皆さんの上司で、人間を滅ぼそうとしていたんですね?」
「そうよ。でもあの方が使命から逃げるはずがないというルビカンテの意見には、私も同感だわ」
「その使命について詳しく教えてもらえますか」
 バルバリシアさんは面倒くさそうに顔をしかめた。

 言葉のやりとりを止めて魔法で戦い始めたルビカンテさんとカイナッツォさんから離れ、こちらに避難してきたスカルミリョーネさんが代わりに答えてくれる。
「ゴルベーザ様は青き星と月の民の間に生まれた御方だ。この地上を席巻する人間を滅ぼし、月の民を迎え入れるために戦っている」
 いきなり宇宙規模の話になってしまった。
 月の民が文字通り月に住んでいる人のことを指すなら青き星は地球のようなものか。ゴルベーザさんは宇宙人とのハーフ?

「半分青き星の人間だから使命を嫌がっていたんですね。ちなみに、ゴルベーザ様はここに閉じ込められてたんでしょうか?」
 その使命が強制されていたものなら逃げ出すのも分かるけれど。しかしバルバリシアさんは否定した。
「ゴルベーザ様は我々の誰よりも強いのよ。使命を果たしたくなかったのなら、仮に引き留めようとしたって不可能だわ」
 スカルミリョーネさんも頷く。
「昨日までは、あの御方自身の意思で人間どもを侵略していた」

 そもそも彼ら四人を集めて配下にし、人類滅亡を企んだのはゴルベーザさんの方だったという。
「じゃあ、使命が嫌になったら出て行くだけでよかったんだ。でもそうはしなかった。体だけここに残ってる理由は……」
 戻ってくるつもりがあったのか、あるいは始めからどこへも行くつもりはなかったか。
 単なる事故ってことはあり得るだろうか? 偶然ゴルベーザさんと私の精神が、入れ替わってしまったとか。

 まだ喧嘩を続けている二人の注意を引くため両手を叩いて音を立てる。野良猫の喧嘩を仲裁してる気分だ。それにしてもゴルベーザさん、手が大きいな。
「私の方では、昨夜は何の異変もなかったんです。いつも通り眠って目が覚めたらこの状態。ってことは、もしかして私の体に」
「ゴルベーザ様がいらっしゃる? その可能性は高いな」
 四人の瞳が希望に輝いた。一応、無事でいてほしいとは思っているんだ。

 意図して私を呼んだのなら迷惑だから元に戻してもらわなければ。
 もし意図せず起こった事故でも、やはりゴルベーザさんに帰って来てもらわなければならない。
「この体が魔法を使えるなら私にも同じことができるはず。ゴルベーザ様を呼び戻すのを手伝ってください」


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