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🔖崩壊カウントダウン



 泣いても笑っても物語は終わり。
 私にできるだけの準備はすっかり整えた。
 あとはガレキの塔に乗り込み、世界に毒をばら蒔き続けているケフカを殺すだけだ。

 ここまで来たら禁じ手もあったものじゃないので、持てる知識のすべてを惜しみなく使おうと思う。
 ファルコンが塔の中腹に近づく。かつてベクタを照らしていたようなサーチライトが塔の威容を浮かび上がらせる。
 三闘神が塔の一部と化したように瓦礫の中に埋もれているのが見えた。

 舵をきりながらセッツァーが胡散臭そうに呟く。
「迎撃されるかと思ったんだが、なんにもねえな」
「魔大陸の時は、ガストラに我が身を守る気があったから。ケフカにはそれがないってことでしょうね」
 その余裕、すぐにもブッ壊してやる。
 でもケフカって確か破壊が好きなんだったか。それならヤツの望むハカイなんぞ与えてやらない方がいいかもな。

 荷物を改め、必要物資が揃っているのを確認してからセッツァーに向き直る。
「この塔は三闘神およびケフカの魔力で保たれている。あいつらを倒したら崩れ落ちるはず」
「なら、俺は船に残るか」
「そうしてもらえるとありがたいです」
 巨大な塔が崩れ落ちる中、ファルコンを動かして迎えに来られるのは船長だけだろう。
 ゲームではウーマロを置いていくこともあったけれど、現実的に彼は相当な強キャラだから連れて行かねば。

「あ、それから戦いが終わった後のことだけど、中のモンスターが這い出してくる可能性がある」
「そうだな。お前らを塔に届けたら俺はアルブルグに伝書鳥を飛ばしておく」
「よろしく!」
 念のため、バハムートの魔石だけはセッツァーに預けておくことにした。
 本当ならケフカ戦に全力投球したいところだけれど、安全対策を怠ってはならない。待機組に何もないとは限らないのだから。


 甲板に全員が集まる。まずはパーティ編成だ。といっても会議はしない、私が勝手に組ませてもらう。
「まず魔神に繋がるルートにティナ、ストラゴス、ゴゴの三人」
「分かったわ」
 ここは大したボス敵もいないので雑魚を避けつつさくさく進んで行けるはずだ。魔導士二人にゴゴがいれば攻撃・逃走手段に欠けることもない。

「次、女神に繋がるルートにエドガー、カイエン、ガウ、リルム」
「こっちは四人なのか? すると……」
 このパーティは悪くするとアルテマバスターや八竜と遭遇する可能性がある。
 できれば避けて通過してもらおうと思っているが、仮に戦闘になってもこのメンバーなら問題ない。

「最後、鬼神に繋がるルートにセリスとロックとマッシュとモグとウーマロね」
「ちょっと待て、なんか俺たちのところに偏ってないか?」
「うん。そこが一番キツいと思うから。理由は……とりあえず全員これを見て」
 皆もいろいろツッコミたいだろうが無視して手描きの地図と無線機を配る。

 そう、優しい私は夜なべして攻略マップを三枚描いておいたのだ。
 いちいち指示を出しながら進むのがめんどくさかったわけでは決してない。
 塔にある仕掛けとスイッチ、各エリアに出現する敵とその倒し方をリストにしてある。
 これがあれば連携を取りながら各自最短ルートでケフカのもとへ行ける。

「その赤いバツ印はスルーできる強敵なので避けていってね。特にエドガーのルートにいるアルテマバスターは絶対に無視で」
「あ、ああ。……またフェニックスの洞窟みたいな仕組みなのか」
「セリスのところ、ガーディアンにはスロウ、鬼神にはストップが効くので有効活用して。前半のボス二体にはサンダガが有効。ラムウも預けとく」
「あ、ありがとう……だけどユリ……あの、」

 エドガーにセリス、ロックも揃ってなにやらモゴモゴしている。
 言いたいことはよく分かる。こんな情報をどこから仕入れたんだ? って聞きたいんでしょう。
 ガレキの塔はできたてホヤホヤの新生ダンジョンだし、三闘神の倒し方なんてこの世界に生きてる誰も知ってるはずないのにね。

 無言の問いかけには答えず皆に背を向ける。
「さあ、ケフカのとこまで突っ走ろー!」
 そしてシャドウの腕を引っ張ってスカイアーマーに乗った。
 他の皆が慌てて他のスカイアーマーに分乗していくのを尻目にガレキの塔へと飛び立つ。

 帰ることを諦めた私は、もうシナリオ通りにゲームをクリアしようなんて考えは捨てた。
 あそこで暴れてるやつらをこの世界から速やかに排除できればそれでいいんだ。
 正々堂々と戦闘する気はないのである。タイムアタックを始めるには遅すぎるけれど、ここからは飛ばしていくよ。

 私の同乗者であるシャドウはオーディンとケーツハリーの魔石を持っている。
 遊軍としてあれこれやってもらうにはシャドウが適任だったのだ。マッシュは私が無茶したら怒るし。

 えーと鬼神の真下だから……合流地点はあそこだな。
 さすがに瓦礫を積み上げただけあって外壁は着地するのが困難だ。
 いつもより少し時間をかけて、三つのパーティは無事スタート地点に着陸した。
 それを確認後、もう一つの指示を出すべく無線機をオンにする。

「魔神と女神はシャドウが一人で殺っちゃうからティナとエドガーのパーティは先へ進むことだけ考えて」
『や、やっちゃうって、大丈夫なのかい?』
「オーディン様の斬鉄剣があれば塔を支えて動けない三闘神の搾り滓なんぞ敵ではないのだよ!」
『ユリ、あの古代の城で見た技を使うつもりなのね』
「そそ。だからこっちのことは心配ご無用」

 斬鉄剣は命中率の低さが難点だ。しかしバニシュデスやバニシュデジョン同様、透明状態の敵には必中攻撃になる。
 効果が不確かな内は危なっかしくて試せなかったけれど、古代城で思いがけずブルードラゴンを倒せたのは幸いだった。
 あの瞬間にバニシュが効かない鬼神以外の三闘神は雑魚と化したんだ。

 たぶんケフカにも効くと思う。しかしプレイヤーの存在に気づいているらしいケフカが素直にバニシュさせてくれるとも思えない。
 決戦ではあいつの注意を引きつける囮が必要だ。
 まあ、まずは目先の敵から、ってことで魔神を瞬殺してしまおう。
 女神はバニデスするにしてもちょっと危険だからな。


 スカイアーマーから降りてまっすぐに進む。
 塔の内部は雑魚がうじゃうじゃいたが、シャドウのバニシュとオーディンの斬鉄剣で薙ぎ払って駆け抜ける。
 三つのパーティが合流する部屋に着いた。
「この重りでスイッチを……重っ!」
 四トンの重さに振り回される私を見兼ねてシャドウが蹴落としてくれる。
 仕掛けが作動し、まだどのパーティも到着していないのに扉が開く。

 その光景を見ていたシャドウは呆れたように呟いた。
「これは……確かに、ゲームだな」
「あいつが私にムカつく気持ちも分からないではないよね」
 ラストダンジョンは攻略できるようになっている。ラストボスは倒せるようになっている。ゲームはクリアできるようになっている。
 ケフカにどんな思いがあろうと、ヤツが何を望んでいようと、プレイヤーが勝てるようになっているのだから分の悪い勝負だ。
 いや、勝負になってさえいない。

 ケフカは殺されるために生きているようなものなのだ。
 だってこれはゲームの世界だから。
 正規のシナリオという強固な運命を握っている。それが私の強味。


 さて、最初は魔神。
 魔導研究所に似た通路を抜けて、床から天井までぶち抜く巨体が視界に入るなりシャドウがバニシュを唱え、オーディンを召喚する。
 小気味のいい音が響いて巨体は両断された。
「いっちょあがり。楽すぎて腹立たったりしない?」
 最終決戦に神を倒すというのにこんな具合では理不尽に感じるのではないか。
 ふとそんなことを考えて尋ねてみたらシャドウは首を振った。
「無報酬なんだ。楽な方がいいに決まっている」
「なるほど。それもそっか」

 ケーツハリーに乗って魔神部屋を出るとガーディアンの上を飛び越えて反対側に渡り、女神も同様に排除する。
 よく考えたら、ヒット&アウェイができる現実の方がゲームより楽かもしれない。
 危なくなったら一旦逃げて、回復後また攻撃に戻ればいいのだ。三闘神はその場を動けないのだから。

 あとはセリスたちが鬼神を倒すだけ。たぶんインフェルノを倒してる頃だろうか?
「……思ったんだけどさ」
「部屋に隠れたまま、あのガーディアンを倒しておくか?」
「おお、すごい以心伝心」
 こっちが思ったより早く済んだからね。セリスチームを手伝おう。

 シャドウは、扉から顔を出してサンダガを放っては部屋に引っ込む、というまったくFFらしからぬ戦法でガーディアンを追いつめていく。
 向こうも遠距離攻撃で反撃してくるが、私たちの隠れているのは女神の攻撃にも耐え得る頑丈な部屋だ。
 いわゆる安置。アサシンらしく狙撃で安全にガーディアンを機能停止させることに成功した。

「あー、あー、こちらユリ。魔神と女神とガーディアンは撃破完了しました。そっちの進捗はいかがですか?」
 最初にエドガーから返事があったけれど、凄まじい爆発音が聞こえて何を言っているかよく分からなかった。
 あの音はアレクサンダー? 聖なる審判で無理やりショートカットしている予感。大丈夫かな……塔が崩れやしないか心配だ。

 そしてティナとセリスのパーティからは返事がなくてちょっと焦った。
 無線を睨みながらじっと待っていると、ようやくロックの声が聞こえてくる。
『悪い、鬼神と戦ってた。こっちも終わったぜ』
「えっ?」
 ガーディアンが健在だったのだからここまで来てないはずなのに。と思ったら心なしか得意気なロックの声が更に語る。
『お前の地図を見て、鬼神のところへ直接行ける道を探したのさ』
 おお、さすが冒険家。場馴れしている。

 感心する私をよそに、ロックの後ろで仲間たちは憤慨しているようだ。
『あれは道じゃなかったクポ!』
『ウーマロがいなきゃ進めなかったわよね』
『崖に向かって投げ飛ばされるとは思わなかったぜ』
『ウガー!!』
 よく分からないけれど、ロックのトレジャーハンタースキルとウーマロの雪男パワーが活躍したようだ。
 フェニックスの洞窟でも帰り道に凄まじいショートカットを披露したものね。壁を伝うとか天井を進むとか。

 ガーディアンは無理に倒さなくてもよかったかもしれない。……まあいいか、帰りのこともあるし。
 雑魚敵を探してシャドウの魔力を回復する。そんなことをしてる間に背後から猛スピードで近づいてくる人影が。
「ユリ!」
 トランスしたティナがゴゴとストラゴスをぶら下げて飛んできた。その二人、目が回ってるみたいだけど大丈夫か?

「返事ができなくてごめんね。両手が塞がっていたから」
「うん……」
 襟首を掴んで提げているせいか、ゴゴは動かないしストラゴスも締まってるような気がする。本当に大丈夫か。

 とりあえずこっから先は徒歩でいいので、ティナには変身を解いてもらった。
 すかさずシャドウが二人にレイズを唱えている。やはり気絶していた……!
 意識を取り戻してふらふらしている二人を見ないようにしつつ、ティナに向き直って鞄を漁る。
「ちょうどよかった。ティナに預かってほしいものがあってね」
 私が取り出したものを見て彼女は首を傾げた。

「これ、ナルシェで見つけた……」
 そうだよティナが炭坑で見つけてくれたうちの鍵だよ。
 なくさないようファルコンに置いておくことも考えたのだが、やはりティナに持っていてほしかった。
 自分の懐に入れておくと、ケフカを倒してエンディングを迎えた瞬間……“うち”に帰ってしまいそうで怖いから。
「私が帰るべき場所に帰るために必要なんだ。ま、一緒に帰るための御守りかな」
 無事に彼女のもとへ、この世界へ帰れるように。

 ティナは受け取った鍵をじっと見つめ、自分のペンダントにそれをくくりつけた。
 ちょうどエドガーたちも合流してきた。
 結局、女神ルートに二つのパーティが揃ってしまうという異常事態。
 地図を描いた甲斐があるような、ないような、どのパーティも目的地の方角が分かっているので強引に押し進んで来たようだ。
「そんじゃまあ、ラスボス戦といきますか」



 ガレキの塔の天辺は、魔大陸にあった玉座がそのまま使われているようだ。
 本当に瓦礫の寄せ集めなんだ。そのゴミ山の上で道化がふんぞり返っている。とてもとても滑稽だ。
「ようこそ諸君。必ずいらっしゃると思って相応しい言葉を一生懸命に考えていましたよ」
 ケフカのもとへ行けそうな足場は見当たらない。神々の像がどんな風に出現するかも分からないし、ほぼフルパーティとはいえ油断できないな。

「年貢の納め時だ、ケフカ!」
「あなたを倒して世界に平和を……!」
 こちらの士気は高い。しかしケフカは意に介さない。
「私は最高の力を手に入れた。お前らなど問題にならない!」
 放たれるミッシング。岩壁が崩れ落ち、散り散りになった仲間たちはそれぞれ幻獣を呼び出して耐えた。

「みんな壊れてしまえ。すべてはいずれ壊れるんだ!」
「何度壊されても……人はまた新しいものを作り出すことができる」
「それさえもいずれは滅びる! なぜ滅ぶと分かっているのにまた作る? 死ぬと分かっていてなぜ生きようとする? 死ねば全て無になってしまうのに」

 そんなもん、作りたいから作り、生きたいから生きるのだ。そこに疑問を感じるのなら一人で勝手に死ねばいい。
 私が今ここにいるように、その先にもまだ世界が続いているかもしれないが。

 足場が更に崩壊し、転がり落ちてきた岩からマッシュとエドガーが私を庇ってくれた。
「死んだあとのことなんて知るか。俺たちには、今を生きる理由がある!」
「生きて、守らなければならないものがある」
 愛する人のために、守りたいもののために、忘れ得ぬ思い出のために。
 生きる理由なんてわりとそこら辺に転がっている。

 死にたくないから生きるだけ。死なせたくないなら守るだけ。
 心の壊れたやつには分かるまい。べつに分かってもらわなくても結構だ。
「うきゃーー! ならばそれも私が消し去ってしまいましょう。お前らの生きる糧を!」


 地面が不気味に揺れ始め、競り上がってくるのは神々の像……ケフカが取り込んだ三闘神の力そのものだ。3D化を阻む第一の要因であろう、アレ。
 実際に見るとさすがに圧巻だな。こんなもの人間に倒せるわけがないと絶望しそうになる。
 まあ向こうの世界で私は数えきれないほど何度もこれらを倒してきたけれど。

「この世で一番の力を私は取り込んだ。それ以外の者などカスだ! カス以下だ! カス以下の以下だ! ゼ〜ンブ破壊して死の世界を作るのだ!」
「命は……夢は、生まれ続ける!」
「それもこれもゼ〜ンブ、ハカイ! ハカイ! ハカイ! 命も夢も、希望も、運命も! ゼ〜ンブ、ハカイだ!!」
 トランスしてケフカに斬りかかったティナが弾き飛ばされる。ああ、てめえ、この野郎。怪我をさせやがったな。

 神々の像を相手に奮戦する皆を横目に、ケーツハリーに乗ってケフカの頭上へ向かう。
 高いところが大好きな馬鹿野郎よりも更なる高みへ昇りつめ、ヤツを見下ろしてやる。
「馬鹿の一つ覚えみたいに破壊破壊って、シナリオに動かされちゃって。運命は壊せなかったんだ?」
「死のない破壊など面白くもなんともないわ! お前たちみんなみんなみんな、壊し尽くしてやる!」
「どうせ殺されるのを知ってるくせに、ご苦労なこってすね」
「お前に何ができる? 世界を守れなかった虫ケラ以下のクズが!!」

 本当にプレイヤーが見えているのなら、本当に“私”を知っていたのなら、こいつが壊れてしまうのも無理はない。自分の人生に意味を見失うのも。
 だが同情などしない。
 仮に“ケフカ”がどれほど哀れな人間であれ今ここにいる“こいつ”は破壊を楽しむただのクズだ。
 運命を知りながら悪役の座を降りなかった。たとえ決められたシナリオだとて、その道を歩んできたのは己自身の意思だ。
 悪となる運命を受け入れたのなら、ここで勇者様に殺されるのも本望だろう。

「あんたの嫌いな命も夢も希望も、未だここに残されている。神の力を手にしても世界を壊すことさえできないクズ以下のミジンコに言われたくないね」
 ケフカの形相が憤怒に歪む。もう一押し。
「あ、ミジンコは“前々作”だっけ。なんて言っても分かんないよなぁ、この世界から逃れられないあんたには」
 サマサでは幻獣たちに、魔大陸では三闘神に負けたが今ばかりは譲らない。私を見ろ、ケフカ。私を憎め。私だけを。

「命……夢……希望……どこから来て、どこへ行く? そんなものは……この私が破壊する!!」
「あんたを倒せば世界は救われる。夢は蘇る。この世界に残された、たった一つの希望は貴方だよ、ケフカ!」
 裁きの光が瞬き、ケーツハリーを焼き払おうと追ってくるが、私はそれを握り潰した。
「あれぇ、怒っちゃいました? いいんだよ、気にしないで。世界を壊せなくたって仕方ない。だって運命だもの。作り物の貴方にはどうしようもないことだ!」

 絶望と悲しみに満ちていても、やっぱり私は、この壊れかけの世界が愛しい。
 これを創ったの、お前だからな。
 ケフカという絶対的な悪が存在することで、悪を倒すという希望が芽生える。
 ケフカのお陰で誰も打ちひしがれずに済んでいる。まさしく我々の導き手よ!
 しかし、もう幕引きだ。

「この世に君臨し、私たちに目標と希望を与えてくれてありがとう、救世主様! アッハッハッ、ぅおっと」
 調子に乗っていたら時間切れでケーツハリーが消えた。
 神々の像を相手に仲間たちが戦う空間を落下していく。高みに立ったまま私を見下ろしている男に向かって叫んだ。
「来いよケフカ! 私を殺して運命を変えてみろ、できるもんならなァ!」

 地面に叩きつけられる直前、私の体をユラが受け止めた。
 遥か頭上で奇跡のごとく美しい光が空から降り注ぐ。心ない天使と化したケフカが私を殺すために天上から降りてきたのだ。
 まりあ、ねむり、まほう、きかい、とら、神々の像が崩れ去り、空は黄昏。
 ケフカは私の姿しか見えていない。猛スピードで突っ込んで、私を瞬殺することしか考えていない。バニシュの恰好の的だった。

ーー曰く、幻獣よ、もし邪なる者来たりて我らが封を解かんとせば、光ある者どもにその力を貸し与え、世の滅するを阻むべし……。
 ラグナロックとジハード、そしてセッツァーの持つバハムートを除きユラを加えた二十四体の幻獣たちがここにいる。
 神々の争いに巻き込まれた者はそれこそ無数にいただろうに、残されたのはたったこれだけ。
 せめて彼らの苦痛は解放してやらなければ。

「ケフカ!!」
 私の視界を破壊の翼が覆うと同時、皆が一斉に魔石を掲げ、世界を包み込むかのごとき光がケフカを焼いた。
「壊してなんかやるもんか。あんたは跡形もなく消え去るのがお似合いだ」
 神と共に、魔法と共に、魔列車ですら運んでくれない虚無の彼方へ消えるがいい。

 もし破壊するばかりではなく何かを残せたなら、ティナのように、あるいは他の死んでしまった者たちのように、誰かの心で生きてゆけたのに。
 これは自分で選び取った物語の結末。
 破壊への愉悦と運命への憎悪を浮かべたまま、私の眼前でケフカは消滅した。


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