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🔖もう一度、なんて愚かな願い



 水源地に行って大量の毒消しを投げ込んだり、エスナをかけまくってもらったりしたけれども、やはりドマ城近辺から毒を除去することはできなかった。
 さすがケフカの用意した毒だけあって凄まじく執念深い。
 試しにライブラで川の様子を調べてもらったところ、エスナはちゃんと効いているのだ。
 しかし毒が治ったそばから毒入りの水が混じって無意味になるとはセッツァーのお言葉。

「土地全体に魔法がかかってる、って感じだな」
 あの孤島でシドが使っていた、周囲の生物から魔力を吸い上げてケアルを唱え続ける装置のように。
 ケフカが毒を投げ込んだところからバイオが発生し続けているらしい。
 ……触れただけで死ぬ毒だと言ってた。城内皆殺しになるわけだ。

「これが魔法効果なら、たとえば私が水源に飛び込んでみたら毒の効果が消えたりしないかな」
「魔法が消えてもお前は毒で死ぬんじゃねえか?」
「……」
 冷静なセッツァーのツッコミに押し黙る。ご尤もだね。
 川を蝕み続けるバイオの魔法は私が触れて消滅させられるかもしれない。
 だが“毒に蝕まれた川の水”は消せないのだ。私には既に発生してしまった魔法は消せない。

 忌々しげに地面を見下ろしていたセッツァーがレイズを唱えると、枯れていた草が一時的に蘇る。でもすぐにまた毒で枯れてしまう。
 やはり三闘神を倒して魔法が滅びるのを待つしかないのだろうか。
 ケフカが植えつけた毒の魔法も消えて、大地が自らの力で蘇ることができるようになるまで。


 私とセッツァーは水源を離れてドマ城に向かうことにしたのだけれど、道中たびたび雑魚モンスターに襲われる。
 ここは今や無人島となってしまったせいかモンスターがやたらめったら多い。城の中が安全な分、外は危険地帯だ。
「面倒だな」
 雑魚戦にうんざりしたのかセッツァーは襲いかかってきたモンスターをブレイクで石化させて毒の川に投げ込むという鬼畜じみた所業に走る。
 いくら面倒だからって非道すぎやしませんか、船長。

「なんつーことするんですか」
「どうせ殺すんだから同じこったろ」
「いや殺す側の気持ちの問題というか……でも、そうですね、まあいいや」
 剣で斬られるか石化して壊されるか、殺される側にとっては確かにどっちでも同じだな。
 むしろ私のような拙い剣技で何度もチクチクやられるより、さっさとブレイクで痛覚をなくして気づかない内に死ぬ方がマシか。

 というわけでセッツァーがブレイクを唱え、私が川に投げ込むことにした。わー、手早く終わる。
 石化といったものの実際には肉体のあらゆる箇所が石のように硬化して動けなくなるだけで、本当に“石”になっているわけではなさそうだ。
 だって、私にも持ち上げられるくらい軽いし。すごく重度の角化症ってなところだろうか。

 見た目にはストップとブレイクの違いが感じられない。
 ブレイクは脳も含めた全身が硬直し、機能が停止している状態だ。
 ただしストップと違って時は止まっていないため、石化中にも老化は起きていると思われる。
 ……古代城の王女様にエスナを唱えても、彼女は生き返らなかったから。
 ブレイクにかかったまま数十年が経過すれば、悪くすれば老死するわけだ。

 そしてストップは、対象の存在ごと時を止めてしまう。
 実はストップをかけた時、そいつに傷をつけることができなくなるのだ。なぜなら時が止まっているから。
 しかし魔法が解けた瞬間、ストップ中に食らった傷を同時に受けることになる。

 ひたすらモンスターの石像を川にぶち込みながら歩いていると、そんなどうでもいいことばかり考えてしまう。
 魔法は……もうすぐこの世界から消えてなくなる。
 魔大戦の終わりとは違う、真の滅びを迎えるのだ。何かの終焉を見届けるというのはどうにも物悲しくて嫌になる。
 だから最近、魔法のことばかり考えてしまう。

 そういえばと、セッツァーを見る。予てより気になっていたこと、聞いておこうかな。
「船長、船長、お願いがあるんですけど」
「ああ? 断る」
「カッパーを唱えてみてくれません?」
「嫌だ」
 二重に断られた。しかし諦めてなるものか。
 仮に三闘神を倒してカッパーという魔法が消滅するとしても、カッパソングやカッパになるゆめなどの技は世界に残される可能性がある。恐怖!
 なんとかしてカッパ対処法を見つけておかなければ私には生涯カッパの懸念があるのです。

 幸か不幸かこれまでの旅ではただの一度もカッパ状態に遭遇したことはない。私も、仲間もだ。
 他作品にあるカエルやブタの状態異常はなんとなく想像がつく。実在の動物だからな。
 しかしカッパは妖怪だ。こっちの世界的にカッパって何なんだ? そういう妖怪がいるのか? なぜカッパだけ輸入されたのか?

 仲間側のドット絵だと可愛いけれど敵モンスター側のグラフィックでは絶妙にキモ可愛かった。
 どちらかと言えばリアル志向な、ティナの緑髪が一際目立つほど“普通”な人の多いこの世界で、カッパになるってどんな状態。
 セッツァーならまだなんとか耐えられると思う。エドガーとマッシュは見たくない。ティナとセリスのカッパ化など論外だ。
 だから、カッパになってもよさげな相手で試しておきたい。

「見てみたいなー、カッパになった船長!」
「……そりゃ船に帰って酒飲んで寝てもいいってことか?」
「なぜそうなる」
「違うのかよ」
 なぜカッパになることがファルコンに帰って酒を飲むことになる。

 あんた単に疲れたから帰りたいだけだろうとねめつけたものの、セッツァーの方でも怪訝な顔で私を見つめていた。
 なんか……カッパの認識に齟齬があるような気がするのは私だけだろうか。
 不安になって一応、聞いてみる。
「カッパって、あのカッパだよね? 私の知ってるカッパで合ってる?」
「お前、大丈夫か?」
 大丈夫ではないかもしれない。

 カッパって、あのカッパじゃないの? 全身緑色で嘴と水掻きを持ち甲羅を背負ってて頭の上に皿を乗せた相撲が好きな妖怪……じゃ、ないの?
「カッパって……何でしたっけ?」
「酔っ払いのことだろ」
「は?」
 掻っ払いではなく? カッパだけに。
 いや、ちょっと待て。セッツァーに嘘を吐いてからかっている様子はない。マジで言っている。
 つまりステータス異常のカッパって肉体がカッパに変化してしまうわけじゃなくて……もしやまさかの比喩表現だったのか!?

 でも、あり得なくはない。
 ところどころ笑いが混じるとはいえ大筋としては完全にシリアスなこの世界、魔法で“カッパ”にされるなんてコミカルすぎて違和感がある。
 酔っ払いのことをカッパと言う。こっちにはそういう表現があるのだ。向こうの世界でいえば虎にあたるだろうか。
 つまり例のカイエン暴走カッパモードは言うなれば泥酔無差別殺人鬼状態だったわけだ。なにそれ超こわい。

「ちなみに、フィガロのお酒って度数が高かったりするのでしょうか」
「あ? そりゃ、ものによりけりだが、ナルシェ山脈側の村で作ってる酒なんかはかなりキツイぜ」
 砂漠手前のステップ地帯になっているところだな。
 じゃあゴゴの洞窟にいるモンスターが使ってくる技の名にある「フィガロのさけ」はテキーラみたいなものだったのか。
 まあ今は地図が変わってしまったのであれはいずれ“ナルシェの酒”もしくは“コーリンゲンの酒”に変わるかもしれないが。
 それで酔っ払うとカッパになる、と。

「カッパが泥酔状態ならバーサクとどう違うんだ……」
「バーサクと酔っ払いは全然違うだろ」
「でもバッカスの酒を飲むとバーサクになるじゃないですか」
「陽気な酒の暴れっぷりを狂戦士にたとえてるだけだ」
「な、なるほど……?」
 精神が高揚して凶暴になってるのがバーサク、べろべろに酔っ払って使い物にならないのがカッパってことなのか……。
 バッカスの酒もネガティブな人や酒に弱い人が飲んだらバーサクじゃなくカッパになるのかもしれない。

 カッパーとは本来、敵を酩酊状態に陥らせて弱体化する魔法だったのだ。
 しかし魔法をかけた相手によっては、つまりカイエンにかけると、酔拳の使い手かのごとく強くなってしまうこともあると。
 つまり私は、身も心もカッパになってしまう心配をしなくても良くなったんだ……!
 長きに渡って私を苦しめてきた恐怖に、遂に終止符が打たれた。めでたい。ファルコンに帰ったら祝いに酒を飲もう。

 それにしてもカイエンは酔拳ならぬ酔剣が使えるのか。ちょっと見てみたいな、暴走カッパモード。しかし瓦礫の塔で酒をしこたま飲ませるのも気の毒だ。
 ……なんてしょうもないことを考えている内にドマ城に到着してしまった。
 せっかくなので様子を見るため中に入ってみる。

 帝国兵がここから撤収するのは魔大陸浮上以降だった。しかし兵士に見張らせはしてもケフカの毒のお陰で占領どころではなかったようだ。
 城内はさほど荒れた様子もなく綺麗だった。で……毒の川を避けながら、誰が死者を集めて弔ったのだろう。

 惨劇を生き延びたドマの住民は、ゲーム中ではカイエン以外に一人しかいない。けれど彼が帝国兵の去った隙を見計らって戻ってきたとは考え難い。
 同様に、城を出ていた人や遠くの町村に住んでいたドマ人という線も薄いだろう。
 毒を除く魔法を使えない人がここへ近づくのはかなり命懸けだし、危険を侵してまで皆の弔いのために城へ来たのなら、今もここにいるはずだから。

 毒を怖れずこの場所にやって来て、ドマ人でもないのに皆の墓を作り、その後はどうしてか一切顔を見せない何者か。
 正直、見当はついているんだけどな。ユラだって先日までは生きていたんだ。
 サマサ襲撃を逃れて“彼”が無事なら、帝国のなくなった今、ドマを気にしてここへ来る可能性は低くない。


 休憩室の様子を見に行くと、ベッドで眠るカイエンの周りで崩れ落ちるようにティナたち三人が寝転がっていた。
 ただならぬ様子に私の背後から覗き込んだセッツァーがちょっと焦っている。
「おい、これ放っといて大丈夫なのか?」
「アレクソウルを倒したら戻ってくるから平気」
「何だよそれ……ユリ!」
 肉体的には寝ているだけだから放っておいても大丈夫だ。そして精神的にも、ティナたちなら無事にカイエンを助け出してくれると信じている。

 さて、砲撃を受けたと思われる港の瓦礫は撤去されていたし、今のうちにやっておくべきことは他にあるだろうか?
 ケフカを倒したあとにカイエンがここに戻ってくるとしたら……、王様はどうするんだろう。
 王族が生きているといいのだけれど、長いこと帝国と戦争していたうえで本拠であるこの城を包囲されるに到ったのだから……かなり厳しい状況だ。

 休憩室を出て、王の間にも行ってみる。まさかとは思ったけれど空の玉座には供え物のようにアレクサンダーの魔石が置かれていた。
「なんでこんなとこに魔石があるんだ?」
 それを無造作に取り上げたセッツァーが、何気なく召喚しようとして……って、
「うわっ、ちょっと待って!」
 それはかなり大規模な破壊をもたらす召喚だから城内で呼び出すのは!

 と慌ててセッツァーの腕に縋りついたものの。魔石は一瞬強烈な光を放っただけで、アレクサンダーが顕現することはなかった。
「何も起きねえな。力がなくなってんじゃねえのか?」
「そ、そんなはずは……」
 どういうことだろう。これは夢のダンジョンで手に入れるはずなんだけどな。

 なんでカイエンの夢をクリアしてアレクサンダーの魔石なのかも謎だった。
 アレクソウルと名前は似てるが、向こうは魔大戦時の怨念の塊で、こちらは聖なる審判を行う魔導機械とまるで正反対の性質を持つ。
 アレクサンダーが幻獣と化した時にまだアレクソウルは存在しないはずだし……。
 もし、アレクサンダーもユラたちと一緒に封魔壁から出てきたのだとしたら……サマサの村からレオを連れ去ったのは……。

 うん、まあいいや。
 不発だったのが気にかかるけれど、マッシュたちが戻ったら使えるようになるのかもしれない。
 アレクサンダーはとりあえず回収だけしておこう。


 ドマ城で夜を明かす気にもなれず、ファルコン号に戻って四人が帰ってくるのを待つことにする。
 セッツァーは不自然な様子で眠っていたティナたちを置いていくのを渋ったけれど、結局は私の「大丈夫」だという言葉を信用してくれたらしい。
 最近ではあまり熱心に隠すつもりもなく、私の嘘にはあちこち綻びが出てきている。
 ロックにエドガー、セリスに加えてセッツァーも、私が何かを知っていることには気づいているのではないかと思われた。

「……船長、私……」
「何だよ」
 不機嫌そうな返事に足が竦む。それなりに付き合いも長いので、これはべつに怒っているのではなく単に疲れているだけだとは分かる。
「黙るなよ。何かあるならさっさと言え」
「うん。私、ブラックジャックが壊れてしまうこと知ってたんです。ジドールで会った時……そのずっと前から」
「だから何だ?」
「え、っと……」
 だから何と言われてしまうと私も返す言葉に困るのですが。

 驚きとか怒りとか詰問には身構えていたのに、スルーされるとは思わなかった。
「そんな覚悟も決めずにあいつらに賭けたわけじゃねえ。負けたのは俺だ。ブラックジャックを奪われたのは、お前のせいなんかじゃねえよ」
「でも……」
 ブラックジャックをなくしたのが賭けの代償なら彼は負ける必要のないところで負けたのではないか。

 たとえば、ブラックジャックはオペラ座にでも退避させておいて魔大陸にはスカイアーマーで突っ込む。
 シャドウを回収してケフカのところへ直行することもできた。
 そしてそのままスカイアーマーで脱出すれば少なくともブラックジャックが引き裂かれることは防げたはずだ。
 それだけ強引なことをやるには、私が始めからすべての展開を知っていたと、皆に打ち明けておかねばならなかったわけだが。

 いろいろと言いたいことはあるのに言葉にならず、俯いたまま歩いていたらセッツァーの背中にぶつかった。
「あれは……!」
 呆然と空を見上げる船長につられて視線を追う。飛空艇並みに大きな影が二つ、ぶつかり合いながら飛行している。漆黒の翼を広げた……巨大なドラゴン?
「バハムート! なんで……」
 どこかで裁きの光を受けて傷ついているのか飛び方もかなり危うい感じだ。
 後ろから追っているのはおそらくデスゲイズ。今にも喰われそうになっている。ファルコンに駆け戻っても間に合わないだろう。

「セッツァー、城で見つけた魔石をもっかい試して!」
 私が叫ぶなりセッツァーはアレクサンダーの魔石を掲げた。
 さっきはなぜか不発だったけれど、今度こそ要塞のごとき巨体が現れて、顔らしき部分の砲台から一条の光が放たれる。
 地上を駆け抜けデスゲイズを切り裂くように、光線の軌跡に沿って凄まじい爆発が起きた。

 あまりの威力にびびって立ち尽くす私たちを尻目に炎と聖属性が弱点のデスゲイズは退散していった。
 さすがに一撃では決まらなかったけれど……恐ろしきかなアレクサンダー。
 こんなものを魔大戦以前に作り出してしまうのだから、そりゃあ魔導士も狩られるわけだ。
 そういえばデスゲイズも魔法生物だったはずだが三闘神を倒したあとには消滅するのだろうか? それとも魔導の力だけを失って相変わらず空を飛び回っているのか。

 デスゲイズの追跡を逃れたバハムートは私とセッツァーの前に降り立ち、こちらを睥睨している。
 傷はかなり深いようだ。セッツァーが回復魔法を唱えようとするけれど、竜王様は拒否した。
「審判を生き延びし者たちか……。最早この空に同胞の気配はない。我が力も、其方らに託すとしよう」
 もう他の幻獣も皆……裁きの光にやられてしまったのか。バハムートは自ら肉体を解き放ち、セッツァーの手の上に魔石が落ちてきた。

「なあ……ユリ」
「……はい」
「幻獣ってのは、三闘神の力で姿を変えられたものの総称だろ。あの塔に乗り込んで、三闘神を倒したら……」
 その先を尋ねることなく、セッツァーは手にした魔石を眺めている。

 バハムートを知っていたのだろうか。
 ゲームではスロットで出てくることもあったし、空の覇者として飛空艇乗りの間では語り継がれる伝承があったのかもしれないな。
 でもそのバハムートも、三闘神の力がケフカに握られたままの世界では生き延びられなかった。
 三闘神を倒せば、世界から魔法の力が消えてしまう。魔石も砕け散り、彼らは皆、完全な死を迎える。
 闘争のために与えられた命に終わりがくる。……彼らには、二度と会えない。残されるのは胸に秘めた思い出だけだ。


 ファルコンに戻るとセッツァーはさっさと自室に入ってブランデーグラスを傾け始めた。カッパになって見せてくれるつもりだろうか。
 今はもうそんな気分じゃなくなったのだけれど、せっかくなので私も御相伴に与ることにする。

 バハムートは、アレクサンダーを知っていた。あの魔導機械はそもそも何のために作られたんだろう?
 三闘神の三つ巴の戦いが終わって魔大戦が始まる前、人間と幻獣が共存できていた僅かな期間に、何の審判が必要だったというのか。
 そういったことに答えをくれるはずの存在も、じきに消滅してしまう。
 三闘神を倒すという行為もある意味では一つの世界の崩壊となるのかもしれない。魔法の存在した過去と今を永遠に未来から切り離す……。

 きつい酒に頭がくらくらしてくる。
「……船長」
「ああ。何だよ」
「実は私……目覚めた時に、ブラックジャックの操舵輪を見つけて……オペラ座に預けてあるんですけど」
「ふーん」
「あと、オークションでブラックジャックの模型を見つけて……」
「お詫びの印に買ってくださったってわけかい」

 そんなものが代わりにならないのは分かっている。どれほど思い出に取り縋ったところで失ったものは二度と帰らないのだと。分かっている、けれど……。
「ごめんなさい」
「ふっ」
「なぜ笑う」
「お前ってホント、馬鹿だな」
 なにそれ酷くない? いくら酔っ払いの愚痴だからって、わりと頑張って白状しているのに。

 先程アレクサンダーが放った光線を目撃したのか、ドマ城近辺を探索していた皆が戻ってきてファルコン内が騒がしくなってきた。
 五月蝿そうにドアを睨みつつ、セッツァーはまたグラスに口をつける。
「ブラックジャックは俺の宝だが、命より大事なもんじゃねえ。物は物だ。あいつをなくしたお陰でファルコンを蘇らせてやれたんだ……あんまり気にすんな」
「船長……」
「でも舵と模型はもらってやるぜ。部屋に飾る」
「じゃあ、ケフカを倒したあとに回収して来ます」

 もう他に縋れるものはない。
 取りこぼしてきた過去、失ってしまったもの、どんなに手を伸ばしても二度と届かない。
 思い出を胸に抱き、新しい世界を生きていくしかないのだ。


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