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🔖クレイジー・トゥ



 ガストラ皇帝にはドマ王国を占領するつもりがないらしい。

 皇帝はレオ・クリストフを首都に呼び戻し、ドマ攻略はケフカ・パラッツォが後を任された。
 しかしケフカは同時にナルシェの幻獣強奪の命もくだされている。
 そして私は、魔導の力を合成して半永久的に効果が持続する毒薬の存在を嗅ぎつけていた。
 これらの事実を吟味して出した結論は、ドマ王国の寿命が尽きかけているということだ。

 昔から小競り合いを続けてきた相手だし、南大陸にあった三国のように吸収して支配するのは難しいと判断したようだ。
 従わないのなら国家ごと破壊してしまえってわけか。

 手早く片づけるために魔導師ケフカは毒を使うだろう。そして城内の人間が全滅したらさっさとナルシェに向かう。
 後は雑兵に毒消しでも与えてドマ城に突入させ、死に損なった敵兵を殲滅する。それで軍を立て直すことなど不可能になる。
 帝国の大勝利だ。

 始めは帝国軍が退くのを待って戦場漁りでもしようと思っていたけれど、どうやらもっと美味しい戦果にありつけそうな予感がする。


 私は早速、帝国軍のキャンプに潜り込むことに成功していた。
 指揮官の交代には大なり小なり混乱がつきもの。まして雑魚兵士に人気が高いレオの後任が悪名高いケフカとなれば兵の士気はガタガタになる。
 装備をくすねて帝国兵になりすますなんて簡単な仕事だった。あとは機を見て城内に入り込み、宝物庫を探るだけでいい。
 ガストラの目的がドマの支配じゃないのなら城も用済み。ユルい監視のなかで私は略奪したい放題ってね。

 その完璧な作戦を遂行するためにも鋭気を養わなければいけない。というわけで私は時期がくるまで魔導アーマーに隠れて昼寝をしていた。
 しばらくして陣地が騒がしくなった。たぶんケフカが毒を使ったんだろう。
 もうちょっと寝てても大丈夫そうだな。
 長く繁栄してきたドマ王国も終わりの時を迎えたわけだ。彼らが遺した宝物は私を生かす糧となる。だから安心して霊界に旅立つといい。

 戦利品を売りさばいてウハウハしている夢を見ていた。
 そこへ疫病神が現れたのだった。


 気配を感じて体を起こす。短剣の柄に手をかけると同時にガタイの良すぎる金髪男が私のいる魔導アーマーに乗り込んできた。
「うわっ! ……誰だ?」
「こっちの台詞だし」
 帝国兵か? いやそんなはずない。毒で死に絶えたドマ城に突入するのに魔導アーマーは要らない、だから私は誰も来る予定のないこの場所に潜んでいたんだ。

 悪いことは続くもので、隣の魔導アーマーにもそいつの仲間らしき男が乗り込んでいる。
 彼らは彼らで私にどう対応すべきか迷いを見せていた。
 即断即決! こいつらが帝国兵であれ無関係な侵入者であれ私にとって邪魔になるのは確かなこと。殺そう。

 指先に触れていた短剣を抜き逆手に男の喉元を突き刺した……つもりだった。
「マッシュ殿!」
 私が振るった刃が煌めくと同時に隣の魔導アーマーに乗る男が気色ばむ。
「あぶねえな。名乗りもせずにいきなり殺そうとするか、普通」
 金髪男は片手で易々と短剣を受けとめた。
 刃先を握られたまま動かすことができない。見た目通りだけど、なんつー馬鹿力だ。

 そいつはそのまま何食わぬ顔で私の腕をひねりあげる。
「ちょっ、いででででで!!」
 うぅ、まずい、思わず手を離して短剣を奪われてしまった。形勢逆転、今度は私が切っ先を突きつけられている。
 不意をついて逃げるにも金髪男が覆い被さるように魔導アーマーの上にいるから私は降りられない。

「お前、帝国兵じゃないな? だったら一緒に来い」
「はあ? 行くわけないでしょ。厄介事に巻き込まれるのは御免だね」
「そもそもが厄介事に首突っ込もうとしてる火事場泥棒にしか見えないぜ?」
 うっさい。邪魔さえ入らなければ厄介なことなんか何もなかったんだ。
 陥落した城に忍び込んで人知れず宝物を盗み出すだけの簡単なお仕事だったのに……。

 金髪が外を窺う。なにやらテントの周囲が騒がしい。兵士どもがこいつらを追っかけてきたのだろうか。
 見つかったら私もヤバイな、と思ったのと同時。短剣の先を私に向けながら、心を読んだみたいに男が囁いた。
「一暴れしたんで殺気立ってるな。お前さん、俺たちの仲間じゃないって悠長に説明してる余裕があるのか?」
「うぐっ……」
 もし帝国兵が駆け込んできたら、こいつらと一纏めに殺されてしまうだろう。
 仮に詳しく調べられても私だって立派な不審人物なのだ。

 ため息をひとつ。降参の意を示して両手を挙げる。
「分かったよ。あんたらのことは誰にも言わないから私のことも見逃してよね」
「なあ、お前こいつの動かし方を知ってるか?」
 聞いてんのかよ熊男。追われる者同士の誼で穏便に済ませようってんだから、早く操縦席から退けっての!

 無理やり押し退けて脱出を試みる。けれど筋骨隆々の体を動かすどころか逆に私が操縦席に押し戻される。
 金髪は私の目の前で短剣を煌めかせてやけに爽やかな笑顔を浮かべた。
 うっそでしょ。こいつまさか……。
「魔導アーマーの操縦方法、知ってるんだろ?」
 ……火事場泥棒を恐喝するとか非常識すぎる。私に操縦させて逃げるつもりだ……。


 テントの外で響く声は随分と数を増やしていた。包囲して侵入者が出てくるのを待ち構えているんだ。
 今更こいつらと離れても時間が経つほど逃げるのが困難になることに変わりはない。
 だったら、とりあえず軍のキャンプを脱出するまでは脅しに乗っかるしかないか。

「あーもう。そっちのおっさん、レバーを引いて」
「肝でござるか!?」
「そのレバーじゃない! 右手側にある取っ手!」
 私が魔導アーマーを起動させたところで、髭を生やした黒髪の男も慌てて同じようにする。
 そして起動するなり即ビームを発射した。テントに火がついて騒がしさが一気に増す。
 ちょっとちょっと、私まで巻き込まれちゃうじゃん。
「真ん中のレバーを倒してテントの外に出ろ!」
「これでござるか!?」
「いやそれミサイルの発射スイッチだから、あっ」
 なぜレバーとスイッチを間違えるのかとつっこむ間もなくおっさんの魔導アーマーからミサイルが連射、テントを包囲していた帝国兵が吹っ飛んだ。
 ま、まあ、ラッキーかな。

 そこから魔導アーマーの快進撃もとい大暴走が始まった。
「あわわわわ! マッシュ殿、あべこべでござるーーーー!!」
「……うーん。カイエンのやつ、実は操縦に向いてるんじゃないか?」
「むしろ一番乗っちゃいけないタイプでしょ」
 偶然とはいえ敵だけを攻撃してるのは幸いだ。
 近くにあるものすべてを薙ぎ倒しておっさんは突き進む。指揮官が兵を落ち着かせる前に、こっちも突破するか。

 これは一人乗り用の魔導アーマーだ。しかし金髪男はハッチから足を突っ込んで、私を操縦席に押さえつけるように無理やり座っている。
「あのー、走り出すとかなり揺れるけど大丈夫ですかね?」
 落ちるかもよ。むしろ落ちろ。落ちて頭打って気絶しろ。
「しがみついてるから大丈夫だ。振り落とされそうになったら、このナイフがうっかりあんたの体に刺さるかもしれんがな」
「……」
 はい、あなたさまを落とさないように安全運転がんばります。


🔖


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