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🔖訣別談義



 沈黙が気まずい……。ローザはセシルと話し込んでたから連れて来られなかったんだ。戻ってきたらユリはいなくなってるし、なのにカインはねこみみ帽子を被ったままだし。
 まさかとは思うけど、装備してみたら気に入っちゃったのかな? びっくりするほど似合ってないよって、正直に言ってあげた方がいいのかなぁ。
 ……でも兜は脱がないんだね。上から無理やり被せてるせいで帽子ピチピチになってて破れそうだよ。

 意を決して、私からカインに声をかけてみる。
「ユリはどこ行ったの?」
「リディアには行き先を言うなと念を押されたんで言えない」
「え……」
 何だろう、それ。そんな言い方されたら気になっちゃうな。
 そりゃあカインはゴルベーザに操られている間だけでもユリの仲間だったわけだし、他の人より打ち解けてるのは分かるけれど。カインには言えて、私には言えない? ……なんとなく淋しい。

 蟠りが全然ないと言えば嘘になる。でも、幻界で十年も過ごすうちに憎む気持ちは薄れていた。セシルに対するのと同じように、カインのことも今はもう恨んでない。
 憎しみの連鎖は何も生み出さないんだって、分かってるもの。ただ……負の感情を取り払った上で、この人とどう接したらいいのかがまだよく分からない。
 ユリがいてくれたらいいのに。彼女は明るくてまっすぐで、気まずい空気を賑やかに吹き飛ばしてくれるから……ユリが間にいてくれたら、カインとでも普通に話ができるのに。

「……帽子、とらないの?」
 迷いに迷って結局は意味のない会話になる。カインはなぜか深刻な顔で俯いた。
「取ったら恐ろしいことが起きるんだ」
「えっ?」
 帽子を脱いだだけでどんな恐ろしいことが起きるっていうんだろう。もっとちゃんと説明してほしいのに、カインってすごく無口ね。それとも私とは話しにくいから、かな?
 ユリが帽子を脱いじゃダメとでも言ったのかもしれない。
 三人いたらまともに話せるんだけど。私とカインとユリ、お互いによく知らない者同士だからこそ素直でいられる。一人欠けて、二人きりになると気まずい。
 カインのことがまだ少し怖いという気持ちも確かにあって、向こうもそんな私の気持ちを悟ってるのが分かるから余計に居心地悪いんだ。

 どうしよう。何の話をしたらいいんだろう。セシルの話、ローザの話はダメ、これからの戦いについて話すのも、ゴルベーザに操られてたカイン相手にはなんだか悪い気がするし。
 やっぱりユリの話が無難だよね。それにしても、カインがねこみみフードを被っててよかった。茶化してしまえば緊張なんて感じなくなるって、ユリが言った通り。
「そういえばユリは異世界から来たって聞いたんだけど、本当なの?」
「ああ、そう聞いている」
 その言い方だとカインも詳しくは知らないのかな。……私だっておしゃべりが得意な方じゃないし、そっちも会話を続ける努力をしてほしい……なんて、私の我儘?

 カインは元々バロン王国の人で、ゴルベーザに操られて彼の手先にされていた。ユリはカインが加わる前からゴルベーザのところにいたらしい。そして本人いわく操られてもいない。
 もし本当にユリが異世界から来たのなら、自分の意思でゴルベーザのもとに来たの? それは……考えにくい。だって彼女からは少しの魔力も感じられないもの。次元を越えて別の世界からやって来るなんて無理だと思う。
 それじゃあ、ゴルベーザが彼女を召喚したのかな? 召喚獣みたいに……。
「もしユリが異世界から召喚されてここにいるなら、どうやって留まってるんだろう」
「……留まる?」
「幻獣はね、こっちの世界に長く留まってくれないの。ここは本来、彼らのいるべき場所じゃないから」
 異界から呼び出された存在は、召喚者と交わした契約が履行されればすぐに還ってしまうはず。なのにユリはゴルベーザから離れてさえ“こちらの住人”のように存在し続けている。
 すごく不思議だった。

 召喚士ではなく魔法の心得もないカインは、何が変なのかいまひとつ分かってないみたい。
「ユリは幻獣なのか?」
「厳密には違うだろうけど、この世界に来る方法は似たようなものだったのかなって」
「異界の存在には違いない、か。……ゴルベーザに使役されている風ではなかったが」
「じゃあ友達なのかもしれない」
「友人、家族、仲間……、そうだな。ユリとゴルベーザは対等だった」
 ユリがどんな理由でどこから来て、どうやって留まっているのかは分からない。でも彼女とゴルベーザの関係はたぶん、私とタイタンみたいなものじゃないかな。
 本当は違う世界の住人……だけどとても特別で、大切な友達。私たちのところにいるのは辛いよね。ユリにとってはそれだけで、ゴルベーザと敵対しているようなものだろうから。

 それきりまた話が途切れてしまったけれど、ありがたいことに私たちが気まずくなるより早くユリが帰ってきた。
「ただいまー、っとリディア戻ってたんだね!」
「うん。おかえり、ユリ」
「やけに長かったな。体調でも悪いのか?」
「今どうしてローザがカインじゃなくてセシルを選んだのかなんとなく分かったよ」
「な、なんだそれ……どういう意味だ」
 その言葉で私もユリがどこに行ってたのかなんとなく分かった。でもそれって普通は、私よりカインに隠すべきことだと思うけど。女の子として。

「ちょうどユリの話をしてたんだよ」
「ええっ!? 言わないでって頼んだのにカインのバカ!」
「俺は何も言ってない!」
 ……ふふ。もう空気が変わっちゃった。三人揃うことで和やかに過ごせるなら、もっと打ち解けられるまで一緒にいたいなぁ。だけど……きっと無理なんだ。ユリの居場所はここじゃない。
「えっとね、トイレの話をしてたんじゃなくて」
「カインのばかああああ! あのことローザに言いつけてやる!!」
「だから、俺は言ってない! リディアの察しが良すぎるだけだ!!」
 あ、やっぱり何かで脅してたんだ。二人とも仲良しなのか何なのかよく分かんないね。ゴルベーザのところにいる時もこんな調子だったのかな。なんだか楽しそう。

「もう一度会えたら、今度はゴルベーザのところに帰るの?」
 私なりに頑張って吐き出した言葉。じゃれあってた二人の表情が凍りついた。カインは兜で見えなかったけれど、ユリの表情が曇らなかったことに救われる。
 淋しいとは思う。でも仕方ないよ。今は一緒に笑っててもユリの幸せも不幸も私たちのそばにはない。昔は私もタイタンに「帰らないで」って駄々をこねたけれど、ずっとこっちにいるわけにはいかないのよ。
「そうだね。次……ああ……うん。帰るよ。私やっぱり、ゴルベーザのそばにいたいんだ」
「そっか」
 なんだかいろいろふっ切れたように笑うユリに、物言いたげな顔をしつつカインは何も言わなかった。
 私には分かるよ。ユリがゴルベーザのところに帰るってことは、私たちの敵になるってことだもの。淋しいし、彼女と戦うのは嫌だよね。でも……家族を捨ててこっちに来てくれなんて言えるわけもない。

 ユリは彼女の居場所に帰って、私たちはルビカンテと戦って。決着がどうなるかは分からないけれど、どうなったとしても誰かが傷つく。
 ただ、そう……ユリが異世界の存在なら、ゴルベーザが彼女を元いた世界に帰してくれたらいいと思う。ユリを戦いから遠ざけて、ゴルベーザ自身も争いをやめて。
 そしてすべてが終わったあとに、違う形で出会えたら……なんて、無理な願いなのかなぁ。


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