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🔖交譲悶着



 ユリに話したいことが、というか……聞きたいことがあったんだ。なのに彼女の肩越しに見えた緑色が、それまでの思考をすべて吹き飛ばしてしまった。
 足を止めた俺に気づいてリディアの視線がこちらに向かう。その途端、奇妙に歪んだ表情を訝しんでユリが振り返る。
「あっ、カイン、ちょっとこっち来て」
 ひらひらとユリの手が俺を招いた。リディアの複雑そうな表情が気になるんだが、あいつは気づかないのか。セシルとは違って俺とリディアは未だ打ち解けていない。……あまり近づきたくないだろうに。
 それでもユリを間に挟めば少しは緊張が緩和されるだろうかと歩み寄る。
「さてここに取り出したるは“ねこみみフード”にございます。さあ、カイン!」
 懐から取り出したものを早く受け取れとばかりに突きつけてくる。思わず踵を返して逃げようとした俺をユリの手が引きずり込んだ。

「リディア、鞭で麻痺らせて」
「えっ、それはいくらなんでもやりすぎじゃない?」
「大丈夫だよ」
「待て……なぜ俺に装備させようとする!?」
「カインはそんな感じのキャラだから!」
「意味が分からん!!」
 俺を何だと思っているんだ、こいつは。ユリは俺の頭を抱え込んで離さない。無理に引き剥がせばいいものを、どうも力が入らなかった。ユリを傷つけてはならないという命令が体に染みついているのだろうか。

 思ったほど緊張していない様子のリディアが俺とユリの攻防にのんびりと口を挟んだ。
「でも、それって帽子でしょ? カインは装備してもうまく扱えないんじゃないかな」
「効果を引き出せなくてもいいと思うんだ。ねこみみフードの真価は違うところにあるから」
「そうなの?」
 効果も出ないのに装備して何の意味があるんだよ。その猫耳の飾りも何の意味があるんだ。そんなふざけた装備、俺は絶対につけないからな。
「それで、どんな効果があるの?」
「全属性を半減して素早さと魔力が上がったうえに回避まで上がってさらに取得ギルが2倍になります」
「ええっ!? 思ってたよりすごいね!」
 なんでそんなものをユリが持ってるんだ……? いやそれよりも、なぜそこまで高性能な帽子がこんなふざけたデザインなんだ! もったいないというか、作ったやつは馬鹿だろう。
「そしてなんと、これを装備して戦闘すると、」
「ま、まだ他にも効果があるのか?」
「心が和む!」
 得意げに言うことじゃない。まあ、分からなくはないが……装備するのが俺では誰も和まないだろう。というか俺がまず和まない。むしろ荒む。すごく荒む。
「…………でも、すごい性能だよね」
「リディア、なんかリアクションしてよぉ」
 無茶を言うなよ。ユリの性格に慣れていないリディアがあからさまに目を逸らして困惑してるだろうが。

「俺が装備してもせっかくの高性能が無意味になるぞ。どちらかというとローザが装備すべきものじゃないか?」
「このど変態が」
「なっ……く、首を絞めるな……っ」
「カインって、そういう趣味があるんだね」
 リディアの冷たい視線が突き刺さった。何なんだその変態を見るような目は。俺は別に、何も、ローザが着てるところを見たいというわけじゃないぞ!
「お、俺はただ、性能の話を……魔力と素早さが上がるなら、白魔道士が……ダメージを軽減するためにも……」
「ねえユリ、どう? なんか嘘くさいよね」
「絶対ねこみみローザが見たいだけだよ。私も見たいけど」
 こいつまさか本当にローザを狙ってないだろうな。セシルの予感が当たったのか? というかユリも見たいならなおのこと、ローザに渡せばいいじゃないか。どちらにせよ、俺は見たいわけではないぞ!

 ようやっとユリの腕から逃れて息を整える。もしかするとユリは弄んでからかう相手がいなくなったから俺を代わりにしてるんじゃないか。とてつもなく迷惑だ。
「カインってまだ全然ローザのこと吹っ切れてないんだねー」
「ち、違う。俺はただ純粋に、パーティのことを考えてだな……戦闘の効率化をはかるために誰が装備するのが一番いいかと、」
「……魔物の命を奪うのに、効率のこと考えるなんて、ひどいよカイン」
「そーだそーだ。性能効率ってこだわるヤツが竜騎士なんかになるなー!」
 なんで俺が責められてるんだ。竜騎士云々は関係ないだろう。

「というわけでカインが装備すればいいと思う」
「うん、いいんじゃないかな」
「一つも良くない!!」
「私が物理的に説得しとくから、リディアはローザ呼んできて」
 このうえローザまで呼ばれて堪るかと逃げようとしたところをまたユリに捕まってしまった。こいつ、戦闘能力は皆無のくせにどうしてこういう時だけやたらと素早いんだ。
「あ、待ってユリ。離してあげて」
 リディアの声にハッと顔を上げるが、それは俺を救うためにかけられた言葉ではなかった。
 渋々とユリが俺を解放した瞬間、激しい竜巻に襲われる。悲鳴をあげる間もなく厚い風の壁に巻き取られた。リディアは掲げたロッドを降ろすと、身も心もボロボロになって床に放り出された俺を見もせず、ユリに手を振りながら駆けて行った。
「ローザを探してくるね!」
「ありがと〜、瀕死になったから作業が楽になるよ!」
 ……やはりまだ許されてはいないようだな。


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