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🔖純粋童心



 子供ってのはとても無邪気です。だからこそ残酷です。言ってはいけないことをサクッと言えてしまう、そしてそれが許されるのが子供の特権なのです。
「またクリスタル取られちゃったの?」
 あまりにも直球、尚且つ正しすぎるルカのツッコミにヤンがお茶を噴いた。汚いなあ、もう。
「わ、我々が不甲斐ないばかりにとんだ失態を……」
 しどろもどろになっちゃってまあ。いや、誰にでも丁重な態度ですごいとは思うよ。ヤンは私にも敬語で話してくれるくらいだもんね。一応ドワーフの姫君であるルカを敬うのは当たり前だ。
 私は年齢も身分も気にしないけどね。だって、悪の一味だもん。
「でもさぁ、一番守らなきゃいけない場所にあっさり忍び込まれてるこの城の警備もゆるゆるすぎだよねー。そこんとこどう思うの、お姫様?」
「えー? あたし子供だから、よくわかんない!」
「あっ、こんな時だけ免罪符を使いおって!」
「ほほほ、それが子供ってもんなのよ!」
「つっといて普段は子供扱いされると怒るんだよ、あーやだやだ!」
「お二人は会ったばかりというのに仲がよろしいな……」
 それは精神的に同レベルって言いたいんですか? なんて聞くとまた生真面目なヤンが本気で焦っちゃうから黙っといてあげよう。

 ルカとじゃれあって時間を潰す私を眺め、なんとなくヤンはホッとした顔をしてる。
「少しは気力も戻られましたかな?」
「どうですかねー」
 セシルたちが武器防具屋から戻って来たら、即出発だ。まずはバブイルの塔に行って、そこではクリスタルを取り戻せないから引き下がるはめになって、えーっと……ヤンとシドが離脱して、そのあとはどういう展開だっけ。
 ああ、もう地底には戻らなかったかもしれないなぁ。ルカとも別れたらそれっきり。エンディングに参加するならまた会えるけど。
 私……どうしたらいいのかな。ゴルベーザのところに帰って、ゼムスとの戦いを見届けた後は……。
「あーっ、考えたくない。なんにも考えたくなーい」
「ユリ……、元気ないの?」
 心配そうに覗き込む幼女がとても可愛かった。

「ルカの頬っぺた、ぷにぷにだね……ぷにぷに……」
「ふへっ? ひゃ、やめへよー!」
「ユリ殿……嫌がっているようだが」
 うん、そうだね。ちょっと現実逃避したくってさぁ。
 考えれば考えるほど泥沼に嵌まって抜け出せない。嫌なことばっかりだ。いっそのこと、セシルにはついてかないでシドが戻ってくるのを待ってようかなー。ストーリーが終わるまで引きこもってようか。
 もう完全に見なかったふりをする決意。そしたら少しは気が楽かな? ……でも、行かなきゃいけない気がするんだよね。ここで逃げ出したらまた知らない間に失うだけなんだ。
 やっぱり私、どうするにしてもまずはゴルベーザのところに帰りたい。

 あーあ、楽しくない。全然楽しくないよ。こんなに先のことばっか考えて、気が重くて。せっかくゲームの世界なんだから、辛いことなんか無ければいいのに。
 クリスタルなんて叩き割ってやればよかった。あんなもの、無くてもいいじゃん。偶像が力を持ってるから面倒が起きるんだよ。クリスタルなんか存在しなければよかったのに。
 そうしたらゼムスだって諦めたかもしれない。ゴルベーザは苦しまなくて済んだかもしれないのに。
 ……でも今さら過去は変えられないし。

 硬くて尻が痛くなるドワーフ製の椅子に深く腰かけて、偉そうな態度でヤンを見つめた。
「私があなたたちについて行くの、どう思ってるの?」
「どう、とは……?」
「戦えなくて邪魔だとかこんなやつ信用できないとか、置いて行きたいとか、ヤンは言わないから」
 きっと「こいつ何考えてるのかさっぱり分からない」ってのがほとんどで、その中の半分くらいは「ゴルベーザに操られてるんじゃないのか」と疑ってるはずだ。
 信用されたいとも思わないんだけどね。人間として正しくあるなら私はたぶんセシルの仲間になるべきで、それができないなら一緒にいるべきじゃない。単純な話だ。
 なのにいつまでも……どっちにもなりきれなくて、一人で勝手に辛い気持ちになってるだけ。

 じっと私を見つめ返して、ヤンはなにやら頷いた。
「幼子とて自らの道を選ぶ権利はあろう」
「私、セシルを選んでついて来てるわけじゃないよ。成り行きだし」
「これから選ぶためにこそ、今はここにおられるのでしょう」
 そうかな。そうだったのかな。……いやいや、ただ逃げてるだけだよ。買い被らないで。私は勇者になれないし、なりたくない。嫌なものは見たくないんだよ。怖ければ逃げたいんだ。めんどくさいこと考えたくない。
「……っていうか、幼子って。私は一体いくつに見られてるのでしょうか」
「あたしとおんなじくらいでしょ?」
 何言ってんだって顔してるルカに唖然とする間もなく、ヤンも彼女に同意して私は絶望した。
「私もそのような年頃だと……な、何故泣かれる!?」
 それはないでしょ……いくら何でも……。この日本人顔がヨーロッパ風世界観ゲームの住民には多少、童顔に見えるとしてもだよ。ルカっていくつなんだ!? うー、そんな子供だと思ってたから優しかったのか!

「どっちかっていうとローザと同じくらいなんですけどぉ……」
「ええっ!」
「なんと……!」
 こらそこのオッサンと幼女。……絶句して目を合わせないで。悲しくなっちゃうでしょ。自分の頼りなさをまざまざと見せつけられた気分。
 あー、やっぱり留守番なんかしてないでセシルについて行かなきゃダメだ。たとえ自分の考えも持たず成り行きに流されるだけだとしても、起きることをきちんと見つめてなきゃ。
「ってわけで、そこまで子供じゃないんで、あんまり甘やかさないでくださいな」
「そ、それは失礼した。これからは女性として扱いましょう」
 まあ大人の女性扱いされるのも困るけど。何だろう、魔物だらけのところにいたせいか、人間との関わり方がいまいち分かんなくなっちゃったよ。

「ルカも私のことは『お姉ちゃん』って呼んでいいからねー」
「ねえ、ユリも白魔法を使えるの?」
「無視ですか。……どうせ使えないよ。白魔法も黒魔法も剣も槍も爪も弓も使えませんよ!」
「ルカ殿、踏んではならぬ部分を踏んだようだ、謝られた方が……」
「よわっちいのね、ユリって」
「うがああああ! 子供だから何を言っても許されると思うなよー!」
「ユリ殿、落ち着かれよ! 相手は子供ですぞ!」
 子供の特権はね。同じ子供には、通用しないんだよ。
 今の内にぽっきり折れといた方がいいんだよルカは。何もかもうまくはいかないんだってことを、人生は苦悩と理不尽に満ちてるんだってことを、思い知るべきなんだ。そうこれはれっきとした教育的指導であって、八つ当たりじゃないんだから!
「ルカの頬っぺた……ぷにぷに……フフフ……ぷにぷに!」
「ちょ、にょばしひゅぎ……いひゃいよ! やめれよー!」
「わ、私はどうすれば……セシル殿、セシル殿はまだ戻られぬか!」
 どうせ子供扱いされるなら、大人になんかなってやらないんだから。


🔖


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