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🔖強風警報



 風が吹くのに意味なんてない。私たちのような魔物は自然現象がごとく、ただそこに存在するだけ。いつか消えてしまうことさえ怖くなんてなかった。
 人間とは違う。死に対して恐怖など抱いてはいなかったのに。
 ゴルベーザ様に出会い、生きることに目的を持つようになった。あの御方に尽くすことが生き甲斐となった。けれどユリに会うまでは幸せなんてもの望んでいなかったのよ。
 出会わなければ知らずに済んだ。一度手に入れると失うのは辛いのね。ユリが生を望み、死を厭うていた理由、魔物である私にも分かってしまった。
 次の生に移るということは即ち今あるすべてに別れを告げるということ。死んだらもうあなたにも会えない。魔物のくせに、くだらない感情を知ってしまったものだわ。

 ローザが現れてからユリはあの小娘に御執心で、それはそれは腹が立った。今こうして死に瀕して思う。目の前で私が死ねばユリの心を独占できるかしら。いっそあなたに殺してもらおうかしら。
 そうすればきっと、あなたは永遠に私を忘れないでしょうよ。
 ああ、先に死んでいったやつらが憎らしくて羨ましくて堪らなかった。誰も伝えてはいないのにユリはあいつらの喪失を感じ取っていた。あいつらがどれほど強くユリの心を占めていたのか、開いた穴の大きさから目の当たりにしたわ。
 あれほどまでに彼女の心を奪っておきながらもうそこに喜びを見出せないなんて。でも気にすることはない。私もじきに、彼女の心に風穴を開けるはめになる。

 すべてを預けられる存在がいる。使命を果たす喜びを教えてくれたひとがいる。移ろうだけのモノだった私に生命の輝きを与えてくれたのはゴルベーザ様。そして、ユリと出会わせてくれたのも……。
 ユリを大切にすることと、ゴルベーザ様を想うこと、それは私にとって同義だった。だから私が為すべきはただ一つ。セシルの殺害など眼中にない。私はユリを守るのよ。
 この体から赤い血なんか流れない。崩れ落ちて、あとには何も残らない。肉体に重きを持つ人間とは違うもの。魔物であればこそ……死してなお、力を振るうことができる。
 ただ人間であるというだけでユリと同じ場所に立てる者を憎らしくも思ったけれど、やはり私は魔物でよかった。

 ユリが私を見ている。冷たく凍りついた石の体に、目だけが輝いてまっすぐ私に向かってくる。彼女の瞳に映るのは私だけ。なんて心地いいのだろう。
 スカルミリョーネもカイナッツォも愚かだわ。ユリの目の前で死ねる私はこんなにも喜びに満たされている。彼女の視線が届かぬ場所で一人淋しく朽ちるのはどんなにか無念だったでしょう。いい気味ね。
 でも、駄目よ。ユリはゴルベーザ様を見ていなさい。そうすればあの御方にも、私が感じている幸せを与えて差し上げられる。

 私の命も定めもゴルベーザ様のもの。けれどユリ、心はあなたにあげる。それはあなたのお陰で生まれたものだから。
 そこでしっかりと見つめていて。過去も未来も必要ない。この一瞬を瞳に焼きつけて、永遠を共に歩むのよ。
 そして……私の心を抱えて、これからもずっと、ゴルベーザのそばにいてね。あなたは私に甘いもの、これくらいの我儘、聞いてくれるでしょう?


🔖


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