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🔖魔法無用



 改めて見てもやっぱり二足歩行のブタは気持ち悪い。うん、二回目ともなったら多少は慣れるかなって思ったのに、やっぱダメだった。
 せめてデフォルメされた着ぐるみっぽい外見だったらよかったんだけどね。生々しいほどリアルだからこそ見慣れなさに生理的嫌悪を感じるっていう……。
 視線を逸らして二足歩行のカエルを見る。こっちは平気だ。むしろカワイイ。
 両生類や爬虫類なんて元から作り物っぽい姿形だから、二足歩行とか多少不自然な動きをされても気にならないのかもしれない。
 カイナッツォが立ち上がってもべつに気持ち悪いとは思わないし。
「……何を一人でぶつぶつ言ってるんだ」
 用が済んだなら早く帰らせろって、十六回くらい言われたのをひたすら無視してたらもう言わなくなったスカルミリョーネが不機嫌そうに呟く。
 振り返ったついでにその姿を見つめてしみじみ思った。モンスターなら平気なんだよね。どんなに異常な形でも。

 こっちに来てから何度か「どうして怖がらないんだ」って、いろんな人に聞かれたなぁ。
 そりゃ向こうの世界にモンスターはいないけど、本やゲームや映画なんかの仮想世界にはありふれた存在だし、ある意味では慣れてるんだ。
 ましてゾットのみんなは私に殺意が向けないって分かってるから恐怖なんか感じない。
 だけどうまい説明が思いつかなかった。モンスターに慣れてるとか慣れてないとか深く追及されると「だったらどうして戦えないんだ」って聞かれそうだもん。
 だから私は笑って誤魔化す。「モンスターを、見たことは何度もあるけど個人的に関わる機会はなかったんだ」って。
 もしかしたら、あっちの世界も魔物が闊歩する似たような世界だって誤解されてるかもしれない。本当のことなんて確かめられないんだから別にいいけどね。

 早く塔に帰りたくてイラついてるのが丸分かりなスカルミリョーネ。目を逸らして、自分の右腕に視線を移す。
 鈍い銀色の腕輪には複雑な模様が彫り込まれていて、どういう仕組みかは分からないけど毒を防いでくれるらしい。
 めっちゃくちゃ安かったから本当に効くのか不安だったけど、今こうやってスカルミリョーネの近くにいても平気なんだから、まあたぶん効果はあるんだよね。
 それよりこのやたらと凝ったデザインはどうにかならなかったのかな。でこぼこしてるからカッコ悪い日焼け跡がつきそうですごく嫌だ。
 装飾品じゃなくて毒を防ぐ“防具”なんだから、もっとシンプルな腕輪でいいのに。それともこういう変な模様や凹凸にこそ防御の魔法が籠められてるのかなぁ。

 アイテムに頼るより、いっそ私自身がエスナでも習得した方がよかったのかもしれない。
 だけど魔法ってイマイチよく分かんないんだよね。ゴルベーザが、私はこれっぽっちも魔力を持ってないって言ってたし、ケアル一回で干からびるんじゃ話になんないし。
「はー……もっと簡単に魔法が使えたらいいのに」
 せめて白魔法くらいは庶民にとっても手軽になればいい。禁呪にされるような強い魔法の研究するより先に、まず便利魔法の簡易版を作ってよ! って思っちゃう。
「立ち上がって取りに行くのがめんどくさい時に弱めのテレポで物を引き寄せたりしたーい」
「何だそれは……」
 あと弱めのヘイストを使って家庭で手早く簡単に漬物作りとかできそうだね。
 うっかり割れ物を落とした時にもストップをかけてその間にキャッチ。暑い夏にはブリザガで氷を作ってクーラーだ。魔法すごい! 便利! 私も使いたい。

「生活に役立つ魔法はまさしく科学の代わりだよね」
「そんなくだらんことに魔力を使おうとするのはユリくらいだ……」
「だってさー、そりゃ戦闘でも魔法は強いかもしれないけど、それより大切なのは毎日の暮らしでしょ? しかも家事に必要な程度の威力でいいなら魔力もほとんどいらない、とってもエコ!」
「魔法があまりに手軽なものになっては、これまで過酷な修行中に果てた人間どもは報われんだろうな」
 うわーそのバカにしきった態度。ちょっと聞くと死んだ人に同情してるみたいだけど、単にざまあ見ろって思ってる顔だね。
 ……っていうか、新たな力を得るのに失敗して死ぬなんてバカみたいだって思うから、もっと簡単に使えるくだらない魔法が増えればいいのに。

 何か他のことを考えて塔に帰れないイライラはおさまったみたい。スカルミリョーネはじっと私を見つめる。
「ユリは……」
 そして何かを言いかけて止まった。
 うーん。早く帰りたい帰りたいって言ってたのに、結局は私に乗せられて雑談しちゃってる自分に気づいてムッとしてる顔、と見た。
「……ユリは黒魔法には興味がないのか」
 あれ、外れちゃったか。じゃあ誤魔化してるんじゃなくて本当に聞きたいんだね。
 えーと、黒魔法に興味ないのかって? そんなこと言って、もしあるって答えても教えてくれる気は全然ないくせに。
「あるといえばあるよ。一度くらいファイガなんかぶっ放してみたいし」
「何故わざわざそれを選ぶ」
 アンデッドは火属性が弱点とかそんなことは関係ないよ。うん、全然関係ない。
「弱っちいモンスターだってぽんぽん魔法うってるのにねー」
「…………」
 ん? いや、今のはべつにスカルミリョーネのこと言ったわけじゃないんだけど。被害妄想で睨まないでよ。
 なんだかんだですごーく気にしてるのかなぁ。いいじゃん、弱いって言っても私よりよっぽど強いんだから……って慰めにならないか。

 ふと思い至って買ったばかりのアミュレットを見る。鈍い光……今度、大きめの手袋かアームバンドみたいなのを用意してもらおう。この形に日焼けしたらやっぱり嫌だ。
「こういう魔力を上げるアイテムをたくさん買えば、もしかしたら私にも魔法が使えるようになるのかもね」
 そう言うとスカルミリョーネも私の腕にあるアクセサリを見た。何かを考え込んで、何も言わずにぷいっと横を向いてしまう。
「……使えたらどうするんだ」
「え? 弱めのテレポとか?」
「違う」
 ああ、黒魔法のことね。ファイガとか、デスとか、メテオとか? 使えるわけないって。
 でも、たとえ私に魔力があったとしても、仮にそんなすごい黒魔法を万が一使えたとしても。
「使わないよ……、攻撃魔法は」
 だってゴルベーザに逆らう理由ができちゃう。逆らえる力を、手に入れてしまう。
 そんなものいらない。私は弱いままでいい。……あったら使っちゃうかもしれない。
 持ってないから欲しいと思う。欲しいと思ってる内なら仲間でいられる。手に入れちゃったら、全部が崩れ去ってしまうんだ。


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