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🔖視界領域
前方にスカルミリョーネを発見しました! どうやら向こうも私と同じく途方に暮れているようです!
いや、うーん、違うかな。ただ苛々してるだけみたいにも思える。ここからじゃ顔が見えなくてよく分かんないや。
とにかくスカルミリョーネはその場から動かなかった。私を探そうって気はないらしい。見てないところで死んじゃったらどうする気だろう?
……どうもしないか。追い出す手間が省けてラッキーなんて思われそう。それはさすがに落ち込むよ。
いつも通りスカルミリョーネに付き添ってもらって塔を出て、いつも通り散策に励んでいた私は気づいたらスカルミリョーネの姿を見失っていた。
幸いモンスターに襲われることもなく合流できたんだけどさ。探してたのは私だけってのがムカつくね。
はぐれたのは分かってるんだから、せめて辺りを探す姿勢を見せてほし……ああっ、座り込んじゃったよ! 完全に捜索の意思なし!
くそう、私が行方不明になってもあんな感じって、結構傷ついちゃうんだけど。
とりあえず、どうしよう。ちょっと慌てるところでも見てから爽やかに登場して驚かせようと思っただけなのに、声かけにくいじゃん。
スカルミリョーネめ。ここでへらへら笑いながら戻ったらアホみたいだ。絶対、鼻で笑う。「生きていたのか……残念だ」とか言う。間違いなく言う。
かといって意地になって隠れてても置いて行かれそうだよね。「ユリを見失いました」「そうか」ってゴルベーザがあっさり認めちゃったら私はどうしたらいいの。
さっさと走っていって声をかけて、スカルミリョーネに怒られて「ごめんなさい」って言えばいい。それだけのことではあるんだけど。
「……」
探すそぶりくらい見せてほしい。あまりにも私がいないことに無関心な姿を見ると、つい俯いたまま足が止まってしまう。
「おい、ユリ。いつまで隠れている気だ」
「のああっ、な、ん、後ろからバックアタック!?」
「前からバックアタックできるわけないだろう。馬鹿か」
そんなことわかってますう。なんで後ろから現れるんだよバックアタックかよ、って言いたかっただけですう。
……びっくりしすぎて変なとこで言葉が切れちゃったんだよ! 悪いかっ!
というか、一瞬前まで離れたところで背中を向けてたのにどうして私の背後から現れるの。これだからテレポが使えるひとは、心臓に悪いんだからもう。
「なんでここにいるって分かったの?」
「見えるだろう」
「見えないよ普通」
「そうか」
いや、そうかじゃなくて。疑問に答える気ないでしょ。
ため息を吐きつつ、さっきまでスカルミリョーネがいたところに目をやってみる。……いやいや、あそこで背中向けてたら絶対、私が戻ってきたのに気づけないって!
遠いし、こっち斜め後ろだよ? しかも私はスカルミリョーネの反応見たさに茂みに隠れてたんだ。気づかれないように距離をとるの、どれだけ苦労したと思ってんの。
「もしかして、はぐれる前に気づいてて黙ってたとか?」
「いや。ユリがいないのに気づいたのはつい先程だ」
う、うん。さすがに迷子になるのを見過ごされたわけじゃなくてよかった。
でもいなくなったことに気づいてもらえないってのもそれはそれで悲しい。
ちょっとくらい私の行方を気にしてよ。保護者としての意識はないのかな。ないか。ないよね。本当は私の生死に責任感じる必要ないんだもんね。分かってる。
「……何を落ち込んでいるんだ」
「べつに落ち込んでないよ。でも……スカルミリョーネって……私がいなくなったら……、いなく、なってほしい?」
いなくなっても驚きもしないんだねって聞こうとしたのに途中で変わっちゃった。
あーあ、ダメだよ。こんな直球勝負しかけたってまた落ち込むのは目に見えてる。スカルミリョーネは案の定、めんどくさそうにそっぽを向いた。
「心配させるなとでも言ってほしいのか」
なにそれ、結局どっちなのか答えてない。心配なんてしてないくせに。仮にほんのちょっぴり心配してくれたとしても、そんなこと口がもげても言わないくせに。
「……いなくなったのに気づいたが、すぐに戻ってきて茂みの陰に隠れるところが見えたからな」
「んんー? 見えたって、あそこから?」
だから変だってば。スカルミリョーネはこっちを振り返りもしなかったじゃん。どうして見えるの?
そんなの最早人間の視力じゃ……うん、確かに、人間じゃないんだった。
ちょっとした好奇心。スカルミリョーネの背後に回り込んで手を翳してみる。
「ねえ、振り返らないでね。これ何本でしょうか?」
真後ろの絶対に見えないところでピースサインをしてみる。スカルミリョーネは、こっちを見るどころかまったく動かないままあっさり答えた。
「二本」
「ええっ、見えるんだ?」
「そう言っているだろう」
すごいなぁ。遠く離れてても気配を感じられて、視界も考えられないくらい広くて、テレポがあるからあっという間に距離を詰められる。
さすがモンスター、人間レベルじゃ比べ物にならない。私なんか仮に襲われてもどう足掻いても逃げられないね。
それより、逃げても追いかけてもらえないのが一番こわいけど。
「そんなに視界が広いんだったら、今度はもっと見晴らし悪くて入り組んだとこに連れてってよ」
「勝手にうろちょろしないと約束するならな」
「えー、それは断言できない!」
「……………」
スカルミリョーネは少しだけ私に顔を向けてからすぐに戻して、あからさまに重いため息をついた。厭味っぽいなぁ。ムカつく。
……あ、だけど、振り返らなくても私はスカルミリョーネの視界に入ってるんだよね。なのに今は振り返ってくれた。目を合わせるために。
たかがそんなことで胸の中があったかくて嬉しくなる。
「私って単純かもしれない」
「……知らなかったのか」
「それどういう意味かな」
「気が済んだならそろそろ帰るぞ」
誤魔化さないでよ、もう! ……まあいっか。今日は許してあげよう。ちゃんとこっちを見てくれただけでも嬉しくなっちゃったからね。
もし本当にはぐれて私が自分では戻ってこられなかったら、スカルミリョーネは探してくれるのかな?
まだそこまでは近づいてないかもしれない。でも初めて会った時よりは、少しずつ距離が縮まってる実感もある。
一緒に出かけて同じものを見て、時間を過ごすたびに近づいていけるなら、いつかきっとスカルミリョーネも私を探してくれる気がする。
「次はスカルミリョーネも一緒にうろちょろしようよ」
「動き回るのは嫌いだ」
「ついてこなきゃまた勝手にどっか行っちゃうかもよ?」
「私の見える範囲でなら好きにしろ」
なにそれ。だってスカルミリョーネの見える範囲、広すぎるじゃん。それでもちゃんと見ててくれるの? 私が遠くに行っても?
それとも、見えないほど遠くには行くなってこと? ……私がいなくなってもどうでもいいなら、普通そんなこと言わないよ。
ああ、もう! たったこれだけのことで無理に驚いて慌ててくれなくてもいいやって思っちゃってる。スカルミリョーネなりに心配してくれてるならそれだけで。
「スカルミリョーネは恐ろしいね」
「それは……褒めているのか?」
「うん」
「……そうか」
言葉の裏側まで探るのは苦手なんだ。でも、素直じゃない言葉にもよく考えれば嬉しくなる意味がいっぱい詰まってる。
もっと知りたい。もっと、もっと探し続けたい。……ただし、スカルミリョーネの見える範囲でね。
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