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🔖禁書探索



 カイナッツォもゴルベーザもまだまだ仕事中だし、バルバリシア様は私を送ってくれただけで帰っちゃった。ゴルベーザに会えないのに人間の町になんかいたくない、らしい。
 機嫌が悪くなってたのはこの際いいや。帰って話したら元通りだ。
 大事なのは今、私が一人だってこと。たぶん夜まで一人だってこと。
 無断で王様のベッドに忍び込もうなんて人は、真面目気質なバロンにはいないから、私を見つけてしまう人はいない。
 一人ぼっちで退屈。しかし! それは同時にチャンスでもあるのです。ずっとやりたいと思ってたこと……。
 バルバリシア様とスカルミリョーネは絶対あるはずって言ってた。その言葉を信じてる。
 私はそれを、畳を剥がしてでも見つけ出すつもり……だってそれが意地ってものでしょう! まあバロン王の部屋に畳なんてないけどね。

「まずは定番、ベッドの下から」
 定番と言いつつも、聞くところによるとあれは隠すことを放棄した選択らしい。勝ちを諦めて開き直ったヤツがやること。だから、カイナッツォはしないだろうなぁ〜。
 案の定、豪華な天蓋つきベッドの下を覗き込んでも磨きあげられた美しい床があるだけだ。
 一応はシーツを剥いでマットも持ち上げてみる。この隙間なんかもわりと……うーん、ない。細工もされてない、裏面側面も怪しいところはナシ。
「ベッドはシロだね」
 これは想定内。ここで見つかっても面白くないもん。
 とりあえずベッドはメイクしなおして、と。帰って寝るだけだからなのか、王様の部屋って物が少ない。趣味の品なんて一つもないんだから殺風景なものだ。
 赤い翼隊長の部屋はそこそこ雰囲気よかったのになぁ。セシルが使ってた頃にローザ辺りが持ち込んだのか、壷とか絵とか美術品も多かったし。
 それに比べるとバロン王って質素だったんだ。執務室もシンプルすぎる内装だったもん。探しやすくて結構でございます。

 次は机を捜索する。けっこう堂々と抽斗に入れちゃってるヤツもいるんだよね。カイナッツォはそんなタイプかもしれない。
 こう、ガッと開けたらドーンと置いて……ないかぁ。……と見せかけて底に細工がしてあったり、ああああった!? 底板が外れて謎の収納が!
 でも違った。抽斗の細工の下にあったのは目的のものじゃない。なんだろうこれ、手紙かな? きれいな字で書かれてる。読めないけど。
 両手で握りしめたようなシワの跡が気になった。見なかったふりをすべきものかもしれない。カイナッツォの私物では絶対ないよ、だって紙の趣味が良すぎる。
 ま、まあ、王様にだってプライベートはあるよね! 人に知られたくない青春の一つや二つ、ね! だから地下におわしますバロン王様、許してください。
「これは元通りしまっとこう。次は……」

 抽斗は一つだけ。自室に帰ってまで書類仕事しないだろうし、王様がこのテーブルを使う機会なんてあるのかな。
 テーブルの後ろにもない、裏側にもない。なんか埃まみれだ、カイナッツォが入れ代わってから掃除してないんじゃないの。
 あ、そうだ。卓上灯の下! ……の敷布の下! ナシ!
「カイナッツォの強情っ張りめ」
 意外と捻ったところに隠してるのかな。こういうことに頭使うタイプとは思えないのに。正直な話、きっと抽斗だろうと思ってた。
 だってカイナッツォの場合、性格的に見つけられても平気そうだもん。

 衣装箪笥は違うと思うんだよね。本人より侍従の方がよく触るはずだから。でも一応は確認しよう。
 うっわ、高そうってより重そうな服ばっかりだ。こんなの着てふんぞり返ってるんだね、カイナッツォは。……ダメだ、どうしてもカメの姿で着てるとこを想像しちゃう。
「底板、壁、天板、異常なし!」
 手触りにも妙なところはない。敵もなかなか手練の様子……人呼んでガサ入れのユリ、燃えてきました。
 ほどほどに使ってほどほどに使わない場所が怪しいんだよね。頻繁に開けるところだと見つかる確率が上がっちゃうし、逆に滅多に開けないところだと思いもしないタイミングで人に見られるかもしれないから。
 それなりに自分で様子を確認できつつも、あんまり他人の意識の向かない場所。

 本棚はややこしいから後回しにして、とりあえず壁、いってみよう。
 壁紙を剥がして埋め込む人がいるらしい。それってもう別種の変態だよね。隠すこと自体が快感になってるんだ。誰かに見つかったとしてもそれはそれで興奮するの。
 ……って、石造りのお城だからたとえこの部屋の壁に埋めてあったとしても私には分かんないよ! つまり床下もダメだ。
 でもたぶん、クリスタルを集める間だけの仮の住み処でそんな手間をかけてはいないと思う。そこまでやってるとしたらゾットの塔の自室でやるはず。
 ここはバロン、人間の住む城の中。見つけにくい場所ではあっても、手軽に取り出せるところにあるはずなんだ。

「やっぱり……犯人は本棚!」
 ビシッと指をさしても本棚は返事しないので黙々とガサ入れ再開。
 本の後ろに隠してるとしたら、不自然な出っ張りをごまかすために他の本も少し前にずらしておくのが基本だ。
 とりあえず背表紙をどんどん押し込んでいく。うーん、隙間はないみたい。どの棚もきれいに整理整頓されて、後ろに別の本が隠されてる様子はない。
「じゃあ、もう……」
 やるしかないのか。始めちゃったんだ、最後まで徹底的にやってやろーじゃん! 本棚を空にして、側板や底板を探す! 泣きそうだけど!

 まずは並んでる順番に右から本を抜き出して、戻す時に混乱しないように向きを揃えて床に積みあげる。
 字が読めないからプレッシャーだ。戻す時に間違えたらバレちゃうもんね。
 それにしても何冊あるのかなぁ。どうせカイナッツォは読まないんでしょ? 資源の無駄遣いにも程がある。そんなところで、とりあえず本棚は空になった。
「よし。……棚の中に隠すスペースはないみたい」
 凝った人は手作りで隠し扉をつけたりするんだよね。でも板の厚みを見る限り、ごく普通の本棚だ。底板は一枚板なのかな、剥がせないや。
 本棚そのものに隠し場所を作ってある気配はなかった。

 あとは本棚の後ろ、あるいは置いてあった床の部分。力持ちのカイナッツォは、たぶん本が詰まったままでも動かせるから本棚の下敷きにしてある可能性も高い。
 空にしたから、今なら私でも動かせるかな? というわけで、飾り細工の隙間に指を突っ込んで本棚を持ち上げ……ようとしたんだけど。
「ふぬっ、ぅ、お!? も、た、いっ!」
 なんだこれ! びくともしないんだけど! なんだこれ! さすが高級家具は無駄に重い、重すぎる!!
 ううう、動かない。引っ張ろうとしても私の足がズルズル滑るだけで、本棚はストップのかかったデモンズウォールのごとく動かない。
「ぐうぅ……っは、もういい、やめた!」
 私は息があがってるのに、一ミリも動いてないじゃん。でもカイナッツォなら軽々と移動させられるんだろうなぁ。くっそー、これで本棚の下にあったら悔しすぎる!

 もう探すところはない。それに、そろそろ片づけないとカイナッツォが戻ってきちゃう。……本棚から引っ張り出した本の山を片づけないと……。
 ……多いなぁ。誰がこんなに山積みにしたの? 私だ。
「うおっ、何だこの惨状は? おいユリ、何してくれてんだお前」
 ああ、天の助けだ。神様は私を見捨てなかった。
「おかえりカイナッツォ〜〜」
「な、何だ、飛びかかるな!」
 もういい、もういいんだ。私は頑張ったと思うよ。できることはやりきった。だからもう、答えを聞いちゃってもいいよね。
「エッチな本どこに隠してるの?」
「はあ?」
「ないとは言わせないよ! さあ白状しろ! まさか執務室にあるの!?」
「あででで! 首引っ張るんじゃねえよ、そこにあるだろうが!!」
 そこにあるって、この本の山に? なんだと……、じゃあ普通に本棚にしまってあったのか! お、男らしい!! さすがカイナッツォだ!
 でもカイナッツォは堂々と置いてそう、って私の推測は正しかったんだ。じゃあ今回は引き分けでいいよね。

 それにしても、小説だったとはね〜。てっきりビニ本的なものだと思ってたよ。小説かー。読めないんだもん、探し出せなかったのは仕方ないよ。
 むしろハンディキャップを考慮すると総合的に見て私の勝ちでいいんじゃないかな?
「いてえ、くそ……首が伸びた……」
「そっかそっか、隠してなかったか〜」
 こんなに堂々としてるなら二冊や三冊はあるかもね。真面目なルビカンテにでもお土産に持ってったら面白そうだし、魔物に読めるヤツで一番どぎついのを借りちゃおう。
「で、どれがその本なの?」
「どれって、だからそこにあるだろ」
「うん、だから、この中のどれが?」
「それ全部だ」
 なん……だと……? いや、いや、まさか。そんなはずない。いくらなんでも。

 王様の部屋だよ。こんな高級感に塗れた立派な本棚にぎっしり詰まってた、こちらも上品な装丁を施された本の山。
 ほらこの本なんか辞書みたいに分厚くって濃い赤に金の縁取りで、格調高いオーラを放ちまくってるよ。わけわかんない学術書とかに決まってる。
 これがエッチな本だなんて認めない! でも、カイナッツォは愕然とする私を無視して馬鹿にしたように笑ってる。
「どうせそんなとこ覗くヤツはいねえからな。何を詰め込もうと俺の勝手だろ? 前の野郎が持ってたクソつまんねえ書物と全部入れ換えてやったぜ」
 クカカカカ……って……何やってんの……。
 あれ、なんだろうこの敗北感。よく分からないけどわたしの負けだ。なし崩し的に私の負けだよカイナッツォ。

「おいユリ、それちゃんと片づけろよ。俺は手伝わんぞ」
「見直したよ。私はやっぱりカイナッツォに比べると肝の小さい小市民だね」
「ハァ? ……お前本当に大丈夫か?」
「うん」
 少なくとも私にはそんな度胸ない。王様らしく格調高い部屋の上品な家具に大量のエロ本をぎっしり詰め込むなんて。
 近衛兵長やメイドさんやゴルベーザだって出入りするはずの、私的でありつつ王様の立場からは公的な面もある部屋に、大量のエロ本を堂々と置いておくなんて。
 ……でも、カイナッツォは魔物だもん。相手が悪かっただけだよ。明日があるさって言うじゃん。そうだ、おれたちの戦いはこれからだ。
 ふふ、ふふふ、待っていろ、ゴルベーザ! 次はあなたの部屋に行くわ!


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