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🔖外套障壁



 魔法の力がこめられた道具って言われると、ぼんやりだけどイメージは浮かぶんだよね。
 たとえば風の力でふわっと空中に浮くマントとか、氷で作られた盾とか、炎を帯びた剣とか、雷を投げかける弓だとか。
 なんかよく分からないけどすごい! 不思議な力でお役立ち! それが魔法ってものだ。
 そう。「よく分からない」「不思議な力」なんだよね。
 具体的にどういう仕組みになってるのか聞いてみたけど、ゴルベーザはどう説明すればいいのか、私はどう理解すればいいのかサッパリで二人して諦めた。魔法の力って何なんだよ!
 今、私の手には炎の力がこめられている(らしい)外套がある。いわゆるマジックアイテム。炎吸収はもちろん、自分の火属性魔法も強化してくれるみたいだ。
 とりあえずこれを渡すために、私はルビカンテを探して塔をさまよい歩いてる。……ゴルベーザから渡してくれたらよかったのに。

 塔のあちこちを巡りながらなんとなく外套を羽織ってみる。炎の力が〜なんて言いつつも特に暖かかったりはしない普通のコートだ。
 魔力の正体を知らない私には、そこに秘められた力を実感できない。けど実際に効果が付加されてるんだから何かがあるんだろうなぁ。魔法ってやっぱり不思議。
 ルビカンテの身長に合わせた防具だから私には大きすぎて、裾を掴んでないと床に引きずっちゃう。サイズだけ合わせて私にもこういうのを買ってくれたらいいのに。
 元の世界から着てきた服はもうかなりボロボロになってきた。ゴルベーザたちが手に入れてくる服も段々マシになってはきたけど、やっぱりどっか極端なんだよね。
 やたらキラキラしてたり露出が激しかったり果ては鎧だったり。着られないし、着ても動けないし。もっと普通の村人風な服がいいんです。
 今度これと似たようなのを用意してもらおうかな。

 そんなことをぼんやり考えてる間に、私の歩ける範囲内で塔をぐるっと一周しちゃった。……ルビカンテ、どこにいるんだろう? 出かけてるのかな。
 部屋に行ってみようか。どうせいつもいないからって避けた場所に、裏をかいて居るかもしれない。いや、べつに避けられてるわけじゃないけど。
 転送機に乗っかってルビカンテの部屋までの道程を思い浮かべる。広間に転移したところで探してた影を見つけて、せっかく思い出したマップは無駄になった。
 まあ、これで目的は果たせるから、いいんだ。
「どっか出かけてたの? 探しまわっちゃったよ」
「ああ……、それはすまなかったな。大した用ではなかったんだが」
 歯切れが悪い。私に言えないところに行ってたらしい。あんまり詳しく聞きたくないし、どうせ答えてもらえないからスルーした。
「おかえりなさい。で、これプレゼント」
「私にか?」
 羽織ってたマントを脱いで手渡そうと差し出したら、なんとなく避けられた。ルビカンテはそれを見つめたまま受け取らない。
 危険な感じだ。やんわり断られそうな気がする。困るよ。受け取ってくれなきゃ困る。
「ユリには悪いが、」
「いやいやゴルベーザからの贈り物だよ!」
「君が頼んだのだろう?」
 う、一瞬でばれた。だからゴルベーザから問答無用で渡してほしかったのに……。

 ルビカンテは服を着ない。でも、これなら鎧とか他の防具よりも着てて邪魔にならないからいいと思うんだけどなぁ。
「軽いし、火属性だし、きっと役に立つよ〜」
「私には必要ない。自前の炎が遮られるのは不快だ。それに、道具で能力を強化するのは性に合わない」
 そうきたか。ルビカンテって意外と頑固だよね。困ったなあ。
 ルビカンテのマントもバルバリシア様のビキニアーマーも、一応は服みたいな形態とってるけどあれは魔力の塊みたいなもので実体はないらしい。つまり全裸。
 それが普通なモンスターにとっては衣類なんて素材がどうだろうが軽かろうが結局は邪魔でしかないのかもしれない。
 ……でもさ、犬や猫だって飼い主の趣味に付き合って無意味な服着てくれるのに。それとも私が飼い主じゃないからダメなのかな。

 わりと切実なんだよ。いっそバルバリシア様くらい開けっ広げならいつか見慣れることもできたかもしれない。でもルビカンテはホラ、普段はマントで見えないじゃん?
 だから普段は平気なの。だけど……気を抜いた時にチラッチラ見えるから! 見てはいけないものが見えるから!
 あんまり勢いよく目を逸らすのも微妙だし、見えてなくても「動いたらヤバイ」って思ったら気になるんだよ! 困っちゃうんだよ!!
「あーあ、せっかく用意したのになぁ」
「……気持ちはありがたいが、やはり人間の衣類を身につけるのは」
「そうだよね。しょーもない人間の小娘が用意したものなんて、誇り高いルビカンテ様には着られないよね」
「ちょ、ちょっと待て、私は何もそんな」
「こんなもん着れるかって破いて燃やされて突き飛ばされて足蹴にされなかっただけでも泣きながらありがとうございますと縋りついて感謝しなくちゃいけないくらいだよね」
「分かった、着ればいいんだろう」
 見たか、これが必殺の泣き脅し! 効果は抜群だ。バルバリシア様とルビカンテにしか効かないけど。

 すごーく嫌そうな顔で外套を受け取ってくれる。着方が分からないらしいルビカンテに後ろを向いてもらって、肩にコートを引っかけた。
 ちょっと心配だったけど、火属性だから燃えちゃったりはしないみたい。そして赤いので似合ってる。
「意外といいかも」
「私は落ち着かない。妙な気分だ」
 ルビカンテは見慣れない着衣姿のまま、珍しく機嫌悪そうに眉を寄せてる。よっぽど嫌なのかなぁ。
「やっぱ、ダメ?」
「そうだな……カイナッツォは普段からこんなものを身につけて過ごしているのかと考えたら、今度労ってやらなければならないと思うくらいには」
「そ、そっか」
 うっかりカイナッツォに同情したくなるくらい、なんてつまりものすごく嫌なんだね。
「はぁー、仕方ないなぁ。もう脱いでもいいよ」
「しかしユリはこれを着ていてほしいのだろう?」
 そりゃまあ正直、何か着ててくれた方が嬉しい。悪い意味で目の毒だもん。でも……。
「嫌なんでしょ?」
「喜んで受け取ってやりたいが、こればかりはどうにもな」
 自分の炎が遮られるのは不快だなんて言ってたくせに、絶対に「嫌だ」とは言わないんだ。私に気を遣って。……なのに私の価値観だけを押しつけられるわけないよ。

「もったいないけど、仕方ないね」
 申し訳なさそうにしながらも、脱いでいいとなるとルビカンテはさっさと外套を脱いで私に返してきた。えっと、返されても困る……レディさんに売りに行ってもらおうかな。
 抑えがなくなってルビカンテの体に炎が躍る。これが自然な姿なんだから私の方が慣れるべきなんだよ、たぶん。慣れるかなぁ。
「私よりもユリ自身の服を買えばいい」
「そうしたいのはやまやまだけどさ、なかなか町に行かせてもらえないもん」
「ならば私が町の入口まで送ってやろう」
「え、でも一人で行動していいの?」
「すぐには無理だが、その内ゴルベーザ様に頼んでおくよ」
 なんだか思いがけずラッキー。でもなんか変な気もする。
「もしかして、これ突っ返したから悪いなーって思ってる?」
「……まあ、少し、な」
 いいのに。そんなこと、べつにいいのに。気にしないのに。

「ユリ? どうかしたのか」
「ううん。なんでもない!」
 私たちの間には簡単に乗り越えられない大きな壁がある。だけど考えて迷って、受け入れようとしてくれてるんだ。なんかすごく、嬉しい。どうしよう。
「……ありがとう、ルビカンテ」
 突然の言葉に首を傾げつつ、なんとなく申し訳なさそうな顔になる。厭味じゃないよ、本心だよ。
 私が慣れればいいって思える。人間と魔物が違うなら、私の方が受け入れたらいいんだ。何も無理に変える必要なんかない。


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