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🔖衣類検分



 ゴルベーザ様とバルバリシアは互いに黙り込んだままベッドを覗き、頭を捻っている。二人の間にはユリが脱ぎ捨てた服が広げられていた。
 ……バルバリシアは、まあいいとしてだな。仮にも人間の中年男であるゴルベーザ様がそんなもんを観察してる光景ってのは、反応に困る。なんで部屋に持ち帰ってるんだよ。
「見れば見るほど不思議な衣服だわ。何で作られているのかも分からない」
「ユリは、ぽりえすてるひゃくぱーせんと、と言っていたが……」
「それは一体どんな動物の毛皮でしょうか?」
「私にも分からぬ」
 どうやらあいつの服について調べているらしい。ユリ本人に聞いても自分の身の回りの物が何でできてるかなんぞ分からんと言っていたからな。
 しかし調べたって無駄だろう。どうせ向こうにしか存在しない素材で作られているなら、同じ物を手に入れるのは不可能だ。
 大体そりゃ動物の毛じゃねえと思うぜ。合成繊維だとかなんとか言ってたしな。帯電しやすくて俺は好きじゃねえ。

 着の身着のまま何も持たずに召喚されちまったから、ユリの生活用品を集めるのに手間取っている。ゴルベーザ様が用意した替えの服は気に入らないらしい。なら同じ女にとバルバリシアに選ばせた服も駄目だった。
 といっても、俺の見てる限りではユリの選り好みが激しいわけではない。単に持って来られる服が極端すぎるだけだ。材料がどうとか元の世界とは文化が違うとか、そういう問題じゃねえんだがな。
「もう少し軽い布製の服がいいと言われたな」
「私にはもっと露出が低いものを、と言っておりました」
「何だと? 両立できるのか、それは」
 普通にできるだろ。この二人にとっての衣服ってのは、全身鎧か下着みてえな服の両極端しかないのか? 町で普通に売ってるモンを与えるって発想はないのかね。
 戦場に出さないなら防具なんぞ必要ないし、露出が嫌だってんなら農民が着るような服でも与えときゃいい。実際あいつが望んでるのもその辺りだろう。みすぼらしいのが嫌なら修道服を買えばいいしな。
 まあそんな“常識”ってヤツをゴルベーザ様に教えてやらない俺も悪いが、この混乱ぶりを見てると面白いんだよなァ。

 悩み抜いた末、ゴルベーザ様の口から新たな案が飛び出した。
「いっそスカルミリョーネのローブを与えるのはどうだろう」
 根本的な解決になってねえ、下の服をまず用意しろよ。それとも裸にローブを着せる気なのか? 変態的だな。
 俺は一向に構わんが、ユリとスカルミリョーネは大いに構うだろう。そしてもちろん、バルバリシアも不満そうだ。
「それはいけません! スカルミリョーネの服など洗っても腐臭が染みついておりましょう! 毒素が残っていたらどうなさるのですか!」
 おお、案外まともな抗議だ。と思ったのは一瞬だった。
「ユリに近寄ったら奴の匂いがするなんて耐えられないし、何よりユリがなんとなく喜びそうなのが一番気に入らないわ!!」
「……そ、そうか」
「スカルミリョーネごときの衣類を貸し出すくらいならばいっそ私のコレを!」
 目が血走ってんぞバルバリシア。ならばでどうしてそこに繋がるのか分からんが、とりあえずユリは引くだろ、お前の服。
「それは、ユリが着るとずり落ちそうだな」
 他に言うべき事はないんですかゴルベーザ様。こんなに面白おかしい人だったっけか。ユリのお陰か順当に人間らしくなってやがるぜ。しかも結構惚けている。
「確かにユリが着るには胸の肉が足りませんね」
「では、まず彼女の食から考えた方がいいのかもしれぬ」
 ……着替えの話、だったよな? どこまで暴走する気なんだ。ツッコミ待ちなら悪いが俺は知らんぞ。
 また見当違いな展開でユリがあたふたすんのを想像したら面白すぎるぜ。

 ユリを買い物に連れて行って自分で選ばせれば簡単に済む話だってのになぁ。そんなに素顔を見られるのが嫌なのか。ゴルベーザ様の面倒臭さも結構なもんだ。
「私は、ゴルベーザ様の服を着るユリというのもよろしいのではと思うのですが」
「それはサイズが……しかし……いや、」
 何やら葛藤しているようだ。でかすぎるが、布面積は充分だ。バルバリシアの服よりは拒まれないんじゃないか。
「か、……考えておこう……」
 さて、これが駄目だとしたら果たして次はどう出るやら。また失敗したら、トロイアには女物の服もいろいろ種類が揃ってますよ、とか言ってやるかな。

 家具にせよ衣類にせよ食事にせよ、他人のために何かを用意するということには徹底的に向かない者ばかり揃っている。
 ユリが現れたことで、自分の生にさえ無頓着だったゴルベーザ様が“人間らしい生活”ってものに目を向け始めた。
「年頃の娘を持つというのは大変だな」
 なんか違うような気がするが……まあいいか。
「まったくです。しかし……この苦労は、どこか楽しく感じるのです」
「ああ、私もだ」
 あいつが来るまで「困る」だとか「悩む」だとか、「楽しい」という感情さえなかった。それを思えばユリに振り回されるのはいいことだ。
 ゴルベーザ様は成長している。人間なんぞに歩み寄る必要のない俺たちと違って、この方はユリと同じ人間だからな。


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