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🔖31
戦闘用のブリッツボールは、どこへ投げてもスフィアを通じて手元に戻ってくるようになっている。
熟練者なら投げたあとに軌道を変えることもできるほどだ。
……ワッカは、ほとんど四六時中ブリッツボールに触れているから、ボールを手足のごとく操る。
特にこういう狭い通路での戦いで、それは凄まじい威力を発揮した。
魔物にボールを投げれば、脳天を打ち砕いて跳ね返り通路を暴れまわって辺りの敵を一掃してしまう。
「どーだ、羨ましいだろ?」
「べっつにぃ!」
戻ってきたボールを受け止めてのドヤ顔にムカついたので足を踏んでやった。
にしても、なんか戻る道を間違えた気がする。コックピットから来た時はこんなところ通らなかったような。
迷いつつ、スピーカーからシドの放送が聞こえてきたので立ち止まって耳を傾ける。
『あのデカブツと一戦交えるぞ! おめえらは甲板に出て、あんにゃろうを迎え撃て! いいな!』
リュックたちも魔物を倒しに出てるのかな。
「デカブツって何だろう」
「おいユリ、外、見てみ……」
ワッカに肩を叩かれて振り返り、その指し示す方向に視線を向ける。
「ええええっ!?」
飛空艇の真横になんか飛んでた。
デカブツって、まさかあれのこと?
「ありゃ聖ベベル宮の守護龍エフレイエだな。つまり目的地に着いたってわけだ」
そしてあれは歓迎の挨拶ってわけだ。
「味方だったらすごいカッコいいんだけどね!」
この飛空艇って砲台とか積んでないのかなと思う私をよそに、ワッカはシドの言葉通り外に出て戦うつもりらしい。
うぅ……無茶だよ。
「んで、甲板ってどっから出るんだ?」
「エレベーターリフトがあると思う……」
無茶だけど、ワッカが行くなら私も行くしかないよね。
ちょうど回り込んだところにエレベーターリフトがあった。
起動ボタンを探していたところで後ろからティーダたちもやって来る。
「よっ、ユリ!」
「……うっす」
なんも言わないでくれるのはありがたいっす。
「んじゃ、行くか」
ティーダはエレベーターを眺め、全員乗り込んだところでそばにあったスイッチを迷わず押した。
リフトが上昇していく。……どうして操作方法を知ってるんだ。
飛空艇の甲板に出て飛龍と戦うなんて正気の沙汰じゃないっ!
と思ってたけど、いざ外に出てみると強風に吹っ飛ばされることもなく普通に立っていられる。
船が傾く時はさすがに揺れるけれど、自分から飛び出さない限りは空に滑り落ちることもなさそうだ。
雲の上を飛んでるのに呼吸も楽だし……気圧も地上と変わりないみたい。
微弱なシールドでも張られているのかもしれない。
とはいえ、守護龍の眼前に生身で立っているという恐怖には自力で耐えるしかないけど。
スピーカーからシドの声が聞こえてきた。
『近づきすぎると危険だ! 適当に距離とっていくぞ! 船を動かしたい時は閃光弾で合図しろ!!』
「閃光弾?」
「あたしが持ってるよ!」
リュックが鞄から取り出した手榴弾を空に放り投げると、強烈な光が弾け、そっちの方向に飛空艇が動き出した。
「リュック! 投げる前に投げるって言ってよ!」
「ごめんごめん! 次は『投げるよ』って言うから一瞬だけ目を瞑ってね!」
飛空艇が距離をとると、守護龍はこちらを睨みつけながら光弾を飛ばしてきた。
それをアーロン様が太刀で消し潰してくれる。
おぉ……結構まともに応戦できそう?
「って俺やることなくない? 接近戦に持ち込むッスよ!」
「毒ガスや石化攻撃を食らいたいのならそうしろ」
「やっぱ今のナシで。ワッカとルールー、ファイトだ!」
「お前、調子いいこと言ってんなよ……」
キマリが竜剣で、ワッカはボールで、ルーは魔法で応戦し、あちらの攻撃はティーダとアーロン様が対処してくれる。
時折エフレイエが接近しようとすると、リュックが閃光弾を投げて飛空艇を誘導した。
見てるだけってのもあれなので、リンさんから買った武器で私も参加しよう。
短剣をシールドの台座にセットして、狙いを定めて、このトリガーを引いて……。
「てぇっ!」
「うおぉ!?」
猛スピードで射出された短剣がエフレイエ目掛けて飛んでいく。
狙い通りに眼を斬りつけると、ワイヤーで繋がってでもいるかのようにシールドのもとへ戻ってきた。
戦闘用ブリッツボールと同じ仕組みだ。
「どーだワッカ! 私だってやればできるんだからね!」
「ユリじゃなくて武器がすげえだけな気がすっけど、お前なんで肩押さえてんだ?」
「……これ、一発で肩が外れそうなほど痛いっていう欠点があるみたい」
「宝の持ち腐れだな、おい!」
うるせーやい。目ん玉潰して大ダメージ与えたんだから充分でしょ。
「フラガラッハって名前つけよう……」
あと、肩の関節を鍛えよう。
反撃を避けながらじわじわと敵の体力を削ぎ、途中からは砲撃のやり方を発見したらしくアニキさんが援護射撃に加わる。
十数分くらいだろうか、やっと守護龍の撃墜に成功した。
『ルホッサエ!』
が、スピーカーからアニキさんの悪態が聞こえてくると同時、飛空艇が大きく傾いた。
「あわわわわ!」
出力が落ちてるよ!
なんとか皆で甲板にへばりついたけれど、あと何度か傾いただけで空に放り出されそうだ。
落下防止の柵をつけてもらおう。
『イネサボ! ベベルガ!!』
傾きながら飛空艇がベベル宮に接近していく。
どうか町中に落ちませんように。
目まぐるしく揺れる視界の端に、ちらりとユウナの姿が見えた気がした。
「ど、どうやって着陸すんの!?」
「これ船だもん、着陸はできないよ!」
リュックの返事に青褪める。
じゃあどうするんだ、と思ったら飛空艇の横っ腹からワイヤーフックが飛び出した。
そのワイヤーに吊り下げられたカーゴがベベル宮に向かって降りていく。
「あれに飛び移ろう!」
マジですか!?
軽く白目を剥きそうなくらい怖かったけど、なんとか全員、ベベル宮の広場に降り立った。
……キマリがルーを、ワッカが私を抱えてくれなかったら、二人で甲板に取り残されてたと思う。
危険率100%の超高速綱渡りとか聞いてルーも密かに戦慄してたもん。
さて、無事に着陸したものの、周りは僧兵だらけだ。
民に人気のある召喚士二人の結婚式ってわりに物々しい雰囲気。
ユウナはシーモア様に腕を掴まれて壇上に立っていた。
ああ、花嫁姿はもっと幸せそうな顔で見たかったな。
「ユウナ!」
キマリとティーダが先陣を切って、僧兵を薙ぎ倒しながら進んでいく。
あと数歩、というところで、抜け切れない数の兵士が立ちはだかった。
……囲まれちゃった。
全戦力をベベル宮に集めてるんじゃないだろうか。
おめでたい結婚式の警備だってのに、襲撃されることを予想してたみたい。
されるかもしれないって心当たりがあったわけだね。
「茶番は終わりだ」
キノック老師が片手をあげる。僧兵たちが機械銃の引き金に指をかけた。
形勢逆転の作戦は……思いつかないな。
「偽りの花嫁を演じてまで私を異界へ送りたい、と? 強情な方だ」
シーモア老師の声に視線を移せば、ユウナが隠し持っていた錫杖で異界送りを舞うところだった。
「それでこそ我が花嫁に相応しい」
老師様は余裕綽々だ。
……一度は送られているはず。それでも留まった魂、素直に異界へ行ってくれればいいのだけれど。
残念ながら、ユウナが異界送りを終える前に邪魔が入った。
「やめよ。この者らの命が惜しくはないのか」
マイカ総老師が、銃を突きつけられている私たちを指し示す。ユウナの顔が強張った。
「そなたの選択が仲間の命運を決めるのだ」
やめてよ……。助けに来たのに、足を引っ張るだけなんて……。
強引に送ってしまえばいい。ユウナは知名度も高く人気のある召喚士だ。
その結婚相手となるはずだったシーモア老師が死人だったと知れば、僧兵の一部くらいは動揺させられる。
でも、ユウナは錫杖を捨て、足を止めてしまった。
「ユウナ!」
「……それでいい」
ちっとも良くない。
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