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 ティーダのテンションはシパーフに乗ってもまったく下がらなかった。
 幻光河は広大だ。さすがに渡河を終えるまで一日もかからないけれど、そろそろ落ち着いてほしい。
 ……べつに彼がはしゃいで籠が揺れるのが怖いってわけじゃなくて。
 落ちてもワッカがいるから平気だし。
 実は私が泳げないとかも、全っ然関係ないけど。
 と、とりあえず、安定感のあるキマリの腕に掴まっておこう。

 岸から離れたところで、ワッカに促されてティーダは水面を覗き込む。
「街が沈んでる!」
 あんまり身を乗り出さないでほしい、見てる方が怖い。
「千年以上前にあった機械都市の残骸だ。河に橋を架けて、その上に町を作っていたらしい」
「その重さで橋が崩れて、河の底に沈んでしまったそうよ」
 すんごい欠陥工事だったんだなぁ。
 誰がどう責任をとったのか知らないけど、とんでもない数の人が首を括ってそうで怖い話だ。

 ほへーと感心する私とティーダを交互に見やり、ワッカは呆れたように呟いた。
「まあ、いい教訓だよな」
「教訓?」
「何のために、わざわざ河の上なんかに都市を作るんだ?」
「うーん。水がたくさんあって便利だから、とか」
 ティーダの答えにワッカは肩を竦めた。
「うんにゃ、違うな。ただその技術……力を試したかっただけだ」
「そうかなあ」

 ティーダは納得いってない顔で頭を捻っていた。私もワッカの言い分には頷き兼ねる。
「でも機械があるのが当たり前の世界なら、そんなことで技術力なんて示せなくない?」
「あ、それそれ!」
 そういうことが言いたかったの俺は、とティーダも頷いている。
 千年前ではそんな光景も「今さら」と思うくらい当たり前だったんじゃないかな。
 だって、河どころか海の上に家を建てるくらい、ポルト=キーリカでもやっている。
 ただ建材が変わっただけに思えるんだ。技術なんか、そんなにいらない。

「じゃあお前は、なんでこんなところに町を作ったと思うんだ?」
「うーん。ありそうなのは人口過多、土地不足問題の解消とか」
 水上都市が建設される理由なんて大抵そんなものじゃないかな。
「シンがいない時代は人間がどんどん増えて、住処を作るための土台が足りなくなるでしょ。だから新しく地面を作った」
 これは前世での常識だ。だから、ワッカたちだけじゃなくティーダまでぽかんとしてるのは謎だった。
 ザナルカンドではそういう問題がなかったんだろうか? 私の前世と似た世界のはずなのに。

「でもまあ、結局沈んじゃったなら『力を試した』は当たってるのかもね。技術不足。この規模で試験運用して失敗するのは洒落になんない」
「いや、崩れなきゃいいとか、そういう問題じゃねえだろ……」
 心持ちの問題だとワッカは言う。エボンの教えに反した精神に、罰が下ったのだと。

「人は力を持つと、使わずにいられない。禁止しなけりゃキリがないってわけだ」
「それが『教え』か? でも結構いろいろ使ってるだろ。スタジアムとか、あれって機械だよな」
「寺院がね、決めるの。この機械は可、あの機械は不可、ってね」
 分っかんねーなと首を傾げるティーダにワッカとルールーは言葉に詰まった。

 私を前にして他の人が言いにくそうなことを、自分でさっさと言っておくことにする。
「ミヘン・セッションで見たでしょ。ああいう強すぎる兵器が、寺院に禁止されてる機械だよ」
 物言いたげな視線を感じたけれど、風が気持ちいいので無視した。

 みんなティーダが“知らない”ことに慣れてきたようで、スピラの常識を説明するにも淀みがない。
 ミヘン・セッションから話題を逸らしてユウナが話を続ける。
「千年以上前にね、機械の武器をたくさん使った戦争があったんだって」
 戦争の間も、おそらく戦争の間にこそ武器はどんどん便利で強力なものへと進歩していった。
 そのうちに町一つどころか世界を破壊し尽くすような兵器が作られた。
「このままでは、スピラがなくなってしまうかもしれない……。そんな段階になっても、戦争は終わらなかった」
「ど、どうなったんだ?」
「シンが現れて、町も武器も破壊した……」
 言ってみれば殺し合いをやめさせるために皆殺しを行ったわけだ。

 ルカで過ごしていると機械はそれなりに身近な存在だった。
 電気で動くものに限らなければ“からくり”なんてどの町にもある。
 力を持てば人はそれを使わずにいられない……理屈は分かるけれど、そんなの使い手の問題であって機械は悪くないじゃない。

「戦争は終わったわ。でも、代償としてシンが残された」
「な? シンは調子に乗りすぎた人間への罰ってわけだ」
「……キツい話ッスね」
「ああ、キツいな」
 それに戦争だってただ無益に人を殺して終わるだけとは言い切れない。
 生物の進化は“戦い”と密接な繋がりを持っているものだ。
 兵器以外の機械、寺院が認めた機械だって戦争から生まれたものがたくさんある。

 でもきっと私の思考は、シンの存在しない世界で生きた人にしか理解できない。

 なんとなく、ティーダのザナルカンドは戦争と縁遠かったのかなと思った。
 やっぱり千年前のザナルカンドから来たというのとは違う気がする。
 彼の故郷が戦争で滅びたとしたらこんなに平和ボケしてるはずがない。

 水面を見つめてしばらく考え込んでいたティーダだけれど、黙考は長く続かなかった。
「でもさ、機械が悪いわけじゃないだろ?」
「そう。使う側の問題ね」
「アルベドみたいなのがいるから駄目なんだよな」
 ワッカが吐き捨てるように言ったところでシパーフが大きく揺れた。
 落っこちそうになり慌ててキマリにしがみつく。

「何か変だ〜ぞ?」
 御者の声に気を取られて皆が前方に視線をやり、ユウナが立ち上がる。
 水面から何者かが飛び上がってきて彼女を捕らえた。
 ゴーグルにダイビングスーツ。アルベド族だ。
「ユウナ!」
 武器をとる間もなく、アルベドはユウナを水中に連れ去った。
 ティーダとワッカが飛び込んで後を追う。

 立ち上がって自分も行こうとしたキマリを慌てて抑えた。
「水の中で戦えるのはあの二人だけだよ。信じて待とう」
「……!」
 もどかしい気持ちはよく分かる。
 敵は深いところに逃げたようで、上からではワッカたちがどこにいるのか分からなかった。

 やきもきしながら待つこと数分。
 少し離れたところで三人が水面から顔を出し、泳いでこっちに帰ってきた。
 私とルールーでユウナを引っ張りあげ、ワッカとティーダは自力で籠によじ登ってくる。
「怪我はない?」
「うん、大丈夫」
 びしょ濡れになっただけでよかったよ。
「お騒がせしました、出発してくださーい」
「はぁ〜い、シパーフ、出発進行〜〜」
 うーん、あのテンポ。癒される。

 着替えるのは対岸に着いてから。ひとまずタオルを渡して三人に体を拭かせる。
 ユウナとティーダはともかく、案の定ワッカの機嫌が急降下してしまった。
「ちっ! アルベドめ、何だってんだあ? ルカでのことと関係あんのか? 試合に負けた腹いせか! あ!? ミヘン・セッション失敗の腹いせか!?」
 ただでさえユウナがへこんでるのに、このまま喋らせておけないな。
 と思ってワッカの向こう脛を蹴り飛ばす。
「いって!」
「ミヘン・セッションはユウナと関係ないでしょ。それとも参加してた私への嫌味?」
「い、いや……すまん。そんなつもりじゃねーよ」
 分かればよろしい。

 河面は何事もなかったかのように穏やかだ。
 別動隊なんかいないと思うけど、一応は岸に着くまで注意しておこう。
 同じく周囲を見回しながら、ルールーが言った。
「キマリの知り合いが言ってたでしょ。最近、召喚士が消えるって」
「ああ、イサール様のガードの人もそんな話をしてたね」
「それがアルベド族の仕業ってことか! くっそう……あいつら、何考えてやがる」
 ルカでの誘拐騒動はユウナの母親絡みかと思ってたけど、他の召喚士も狙われてるなら違ったのかなぁ。

 またしても嫌アルベド感情が爆発しそうなワッカを見て、ティーダはあえて興味なさそうに言ってのける。
「どーでもいいって。アルベド族のことをここで話しても仕方ないだろ」
 確かに、ワッカがいると話がややこしくなっちゃうし。
「誰が相手でもユウナを守る。それだけ考えて、俺はやるッスよ」
「やー、さすがティーダ選手! かっこいい! サインください!」
「はいはい、オフィシャルボール買ってきた? あ、ペンは俺が持ってるから大丈夫ッス!」
 おだてるとすぐ調子に乗る軽い性格、わりと好きだよ。

「何はともあれ、召喚士は急に立ち上がらないこと。ガードは気を抜かずにちゃんと周りを警戒しておくこと。そっちのが大事だと私は思います」
「う……」
「ごめんなさい……」
 気を抜きまくってたワッカも反省したところで、話は一旦終わり。
 アルベド族がユウナというか召喚士を攫う理由は、たぶん、想像がつく。
 気持ちは本当によく分かるけど賛同はできないな……。


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