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🔖05
船旅日和の快晴だ。リキ号は順風満帆にポルト=キーリカを目指している。
普段はろくに乗客のいないこの船も、ブリッツシーズン直前にはオーラカのメンバーを運ぶので賑やかだった。
まして今日は召喚士ユウナ様御一行も乗船しているわけだし。
……ルッツたちと一緒に、昨日の便で行っとけばよかったかな。
甲板でだらだらしてると後ろから肩を叩かれる。ティーダだった。
「ユリも乗ってたんだ。やっぱユウナのガード、なのか?」
「んーん。私はただの……お見送りです!」
勢い余って桟橋を乗り越え船まで乗っちゃったお見送りってことで。
曖昧に笑う私を見てティーダは不思議そうに首を傾げ、その背後でワッカが肩を竦めている。
「どこまで見送るつもりだよ」
「だってルカまでは行くよ? それとも試合を見られたくないわけ?」
「そっ……、そうだな。うん。よし、引退試合、よく見とけ!」
「うっす! 応援してます!」
ルールーの視線が怖い。問い質されるのも時間の問題かな、っと。
たぶんルカの先までしばらく一緒だけどね。
ザナルカンドにも船くらいあったと思うけれど、ティーダは物珍しげに船内を探索していた。
それも数時間で終わり、今は舳先でのんびり景色を眺めている。
昨日はほとんど話をする暇がなかったから、ユウナとティーダは楽しそうに話し込んでいた。
特にユウナはかなり打ち解けた笑顔を見せている。
ああやってずっと笑っていてほしいな。
死に向かう不帰の旅路じゃなくて、たくさんの人に希望を与え、彼女も笑顔で帰ってくる……そういう旅ならいいのに。
その平和な光景が突然ぐらりと揺さぶられた。
船がほとんど垂直にまで傾いて、甲板から海に放り出されそうになる。
「ルー!」
思わず伸ばした左手が近くにいたルールーの腕を掴み、右手は船縁を掴んだ。裂けそう。
「ユリ! 大丈夫だから離して、あんたが危ないわ!」
「全然だいじょばない! 私より運動音痴なくせに!」
「なんですって!?」
「あわわわ」
ってそんなことで言い争ってる場合ではないのだ。
勢いよくひっくり返った船は再び勢いよく水平に戻った。
こんな晴れた日にどうして高波が起こるのかと振り返れば、リキ号の真横にシンの背鰭が。
「えぇ!」
そしてワッカの向こうに、背鰭にワイヤーフックを打ち込もうとする船員の姿が。
「おぉい!」
マジかと叫ぶ間もなく射出されたフックがシンを捕らえる。
いや、捕らわれたのは船の方だ。フックなんて気にも留めないシンに引きずられ、海面を滑っていく。
ルールーの腕を掴んだまま、振り回される船から落ちないよう船縁にしがみついた。
「なに、キーリカを襲う気なの!?」
「ユリ、コケラが来る!」
「だああっ、もう!!」
短剣しか持ってないし、ルールーは魔法しかないし。
ちょっと離れたところでもワッカとキマリとティーダが戦っている。
ティーダがコケラを排除して、ワッカとキマリが背鰭を攻撃してるみたいだ。
ユウナがこっちの支援をするべく走ってきた。
とりあえず全員無事でよかった。それにしてもなんというバランスの悪いパーティ編成。
ルーの黒魔法で怯ませては私が短剣で引っかけてコケラを海に叩き出していく。
攻撃を避けられないのでボロボロだけれども、ユウナが回復してくれるので死ぬ心配はない。
際限なく湧いてくるコケラをちぎっては投げちぎっては投げ、やがてまた船が大きく揺れた。
ワイヤーが切れたらしい。これで解放されるとホッとしたのも束の間……。
「ワッカぁ! ティーダが落ちた!!」
「今行く!」
言うなり飛沫をあげて海に飛び込む。
そこで迷いなく突っ込んでいける性格が、好きだけど心配させられるんだよなぁ。
まあ、あっちは大丈夫だろう。
船員の何人かも落ちたようだ。幸いにもまだ近くに浮かんでいたので、浮き輪を投げて回収する。
最後のコケラをキマリが槍で突き倒し、ユウナが怪我人を治療して回っているところでティーダを連れてワッカが船に這い上がってきた。
問題ない。全員無事だ。……船の上の、私たちは。
リキ号を振り切って一度潜ったシンは、ポルト=キーリカの間近で浮上した。
おそらくあの町の出身であろう、浅黒く焼けた肌の船員が呆然と膝をつく。
もはや私たちにできることは何もなかった。泡沫のように無数の命が消える光景を、ただ見ていることしか。
もしも……、今ここに、究極召喚があったなら、誰であれその力を行使するのに躊躇わないだろう。
目の前の惨劇を止める術があったなら、犠牲を厭う余裕もなく、誰だってそれを使うだろう。
警備の強固なルカを目前にして、腹いせのようにキーリカを破壊すると、シンは悠々と海中に消えていった。
ブラスカ様のナギ節が始まって、まだ十年。キーリカにも棺の用意は少なかった。
死者を丁重に送るため、桟橋の残骸で簡易式の棺桶を作るしかない。
オーラカの面々と共に、私も作業を手伝った。
遺体を集め終えたところでユウナが異界送りを始める。
……こんなに早く初仕事をさせなくてもいいじゃないか。
ティーダのザナルカンドは例外としても、アルベドの船が襲われ今度はキーリカ。
シンが活発化してるのは明らかだ。もうほとんど猶予はないのだと実感させられる。
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