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ふと思い立って足下の雪を掴む。強く握れば凝固して、砂のように零れ落ちはしない。
雪には慣れない。私の生まれた場所では滅多に雪など降らなかった。
彼女と初めて会った日のことを思い出した。
ビーカーの中で獣が息絶えそうになっていた。これを装着すれば力を制御できるだろう、と皇帝陛下が機械の輪を差し出した。
『あの中では魔導の力を使うことができぬ。お前の身も危険だ』
『私は構いません』
隣でケフカ様がつまらなそうに余所見をしていた。
ビーカーの中にテレポすると、獣は私に襲いかかってきた。それが私に噛みついている隙に輪をつける。
途端に獣は人間の姿へと変貌した。彼女は人と幻獣の間に生まれた娘だった。
光が瞬くのを見て岩陰に身を隠す。やがて静かになってから顔を出してみると、彼女に同行していた二人の兵士の姿がなかった。
ティナは幻獣との共鳴で気を失っている。
陛下から彼女を連れて帰れとは命じられていない。しかし放置すればナルシェの連中に殺されるだろう。ティナは容易には捨てられない“鍵”だ。
どうするべきか考えた末に、ティナを抱えてリターナーの老人の家へと連れていく。ドアの前に彼女を寝かせ、離れたところから扉に石を投げる。
しばらく警戒するような間があったあと、老人が出てきてティナを見つけた。辺りを見回し、彼はティナを部屋の中に入れた。
それを見届け、私はナルシェをあとにした。
陛下の言葉を待っている時間が好きだ。次は何を命じられるだろう。どんなことをするんだろう。心の底からワクワクしてくる。
「見張りの兵は消えたか。消滅したのか、あるいはどこかに飛ばされたのか?」
「はい。デジョンと似た消え方でした。どこか別の場所へ飛ばされた可能性が高いと思われます。念のためナルシェ近辺を捜索しましたが、見つかりませんでした」
「ふむ。幻獣同士の共鳴現象だ。あるいは……封魔壁の向こうへ送られたのかもしれん」
しばらく陛下の頭脳が策を練る間があった。
「反乱組織に潜り込め。アジトの場所を探り出すのだ。レオがサウスフィガロ攻略の手を進めておる。あの街が陥落次第、やつらを巣穴から炙り出すこととなろう」
そして陛下は仰有った。
「期待しておるぞ」
「必ずやお応えします、陛下!」