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category:[FF4]


身寄りのないセシルからすると“バロン王に目をかけられている”というのが自身を支えるすべてだろうし、暗黒騎士の道を勧められれば逆らおうという発想すらなかっただろう。
ひたすら腕を磨いて、見捨てられないように踏ん張り続けるしかない。
確固たる地位を持ってるカインの存在はさぞ眩しかったに違いない。
セシルから見て、どこまでもカインは“自分より上位の存在”なんだよな。

そういう関係にあるからこそカインも素直に嫉妬心を抱けないというか、抱かせてもらえないというか。
たぶん客観的に見るとセシルがカインを「羨ましい」と言うのは当然のように許されて、逆にカインがセシルを「羨ましい」と言うのは地位的に許されない。
お前がセシルを羨む部分なんかないだろ? と。
持てる者の烙印を押された側の苦悩。

でもカイン視点から見れば自分の腕一本で勝ち上がっていくセシルの方こそ憧れの対象になり得る。
竜騎士になる道は始めから用意されていて、世襲で竜騎士の座を継いだ自分と比較すると暗黒剣を極めて独力で自分と並び立つ地位にまで這い上がってきたセシルは脅威だ。
実力じゃなくて王の寵愛(贔屓)を受けてるからってだけだろ、みたいな偏見を抱くタイプではないしな。
むしろそうやってセシルを貶められる程度にカインの性格が曲がってたら、もう少し楽に生きられたと思う。
セシルを見下すことができれば嫉妬で歪むこともなかったのだから。

カインが道を踏み外した原因はローザへの恋心だけど、ライバルがセシルでなければああもこじれなかっただろう。

ふらふらと頼りなく、行く先も自分のルーツも真っ暗闇の一匹狼セシルにとって、カインやローザのような自分の立ち位置が明確な貴族ってのは眩しかったと思う。
そして一人の武人としてカインにとっては、歩む道を自分で見定められるセシルの自由さと、その自由に臆さず自分の意思で歩いていける強さが眩しかったと思う。
こう、お互いの、自分にとってのコンプレックスが相手の憧憬と重なってる感じ?
「お前のそういうところが羨ましい」(違うだろう、それはこっちの台詞だ)みたいな、噛み合わなくて互いにモヤモヤしてる不毛さが好き。

自分で欠点だと思ってる部分をそう認めてもらえないのって結構なストレスだよな。
捌け口を奪われてしまう。
あれだよ、ちょっとした愚痴を吐いたら「そんなの全然大したことないじゃん、不幸自慢すんなよ」って言われてイラッとくるやつだよ。
べつに同情してほしいわけでもないが不幸に思うことさえ許されないのかよ、っていう。
他人にとっての幸福であれ、自分が不幸に思う権利くらいはあるべきだよね。

前に“ゴルベーザとセシルは自分より可哀想な人が苦手そう”ってのを考えてたけど、カインにはそういう面がないな。
セシルの抱えた苦しみに比べれば俺の劣等感など顧みるに値しない些事だ、くらいに思っちゃいそう。
そうやって親友への同情に気を取られて自分が不幸だってことに向き合わずに鬱憤を抑え込んで結果があれだ。

ああ、TAでカインが「道は自分で切り開くものだ」つってたのもすごくいいなー。
黒カインはセシルへの素直な嫉妬心で、謎男さんはセシルへの素直な憧れの化身だったのかもしれない。
一度バロンの竜騎士カインであることを捨てて、だからこそ本当にセシルの気持ちを理解することができたのかもな。
寄る辺ない孤独を味わって、かつてのセシルがどれだけ“カイン”を頼りにしていたのか、あてにしてるぜ、って言葉の重さを理解したからこそ、自分の価値にも目を向けられたのかな、とか。

ずっと“ローザに相応しい男”という基準しかなくカインは敗者である自分にしか目を向けられなかったようだが、ほかでもないセシルがその自分をあてにしてるという事実にTAを経てやっと気づけたんじゃないかな。


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