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では、契約を。

フラップの一言をきっかけに、何故か狼狽えていたオズが、気を取り直した。

「おう……おう! どっからでもかかって来い!」

言って私をチラ見した。えっ、なに。
瞬いていると、吹き出す声が。クロウさん、何がそんなに可笑しいの。

「ふ、く、くくっ、……メグミさん、私達は外で待ちましょう」

オズが頬を上気させてクロウさんを睨むからか、彼は笑いを収めて何時もの柔らかい物腰へ戻る。赤くなるまで怒らせちゃ駄目だよクロウさん……。

「いえ、私は此処で」
「此処では危のうございます」
「え? 危ない?」
「ですから外へ」
「あ、え、ちょっと待って! 危ないの!?」

背中をそっと押され、慌ててオズを振り仰ぐ。

「何それ、危ない事なの? ねえ、」
「クロウ、余計な口を出すな」
「……申し訳ございません」

オズは私に背を向けた。じゃあな、とばかりにひらりと手を振る。

「待って、ねえっ! 何するの!?」

嫌だ、行きたくない。焦る私はクロウさんに手を引かれるも、必死になって逆へと足を踏み出す。流石に力任せとはいかないクロウさんが、諭すように私を呼んでいる。それでも嫌だ。

「オズ!」
「外に居ろ、メグミ」
「やだよ! 何するの! ちゃんと教えて!」
「クロウ」
「言ってくれなきゃ動かな、ふんぐっ!?」

突然のお腹からの圧迫に、変な悲鳴が飛び出た。見れば腕が巻き付いていて、見た瞬間身体が持ち上がる。く、苦しい!

「えっ、ちょ、クロウさん!?」
「失礼、3代目の命令ですので」
「わ、あ、待って! オズ! オズ!」

ほんの少し振り向いた精悍な横顔は、私の知らない男の人だった。




約束の代償





身体が壁に打ち付けられる。何度も、何度も。
己の中で眠っていた神とやらは、再度己に力を宿さんとすれば、とてつもない苦労を要した。
制御は苛烈を極め、その膨大な力は一瞬でも油断すれば意識を刈り取り、逆に飲み込まれてしまうだろう。

畜生。こりゃ難しいなんてもんじゃねえぞ。
口の中に溜まる錆び味のそれを、勢い良く吐き出す。
どれくらい時間が経ったか、1時間か2時間か。それ以上か、否、もっと少ないかもしれない。時間の感覚が失われている。

あいつ、心配してっかな。

『素質は充分』
「は、は、はぁ、くそ、」
『後は……覚悟、でしょうか』
「覚、悟だあ?」

余裕そうな神を憎々しく睨み付ける。バカでかいナリしやがって。

「何の、っ、覚悟だよ」

ぼろぼろで何とか立っている俺に、何の覚悟も無いと? 笑わせるな。
小さな身体に、世界を背負わせる気なんて、とうに無い。此処は俺が生まれ育った世界。自分の世界は自分で守ると決めた。それを覚悟と言わずなんとする。

満身創痍の俺の睨みなど物ともせず、煌めく翼をゆるりと広げて、優雅に、孤高に、神は俺の前に立ちはだかる。

『あの子と共に行く覚悟』
「!!」

息を飲んだ。
浮かぶのは、あまりに柔く、あまりに脆い笑顔。緩く、優しく笑う、あいつの顔だった。

にやりと口角が上がる。きっと俺は今、凶悪な顔をしている。

「は! そうかよ」

共に行くのなら。共に在るのなら。
俺は俺の全てをかけて、あいつを守らなくちゃならねえ。
その覚悟。

「なら、問題ねえな」

腹に力を込める。

知らない世界に落とされて、絶望の淵に立たされて、それでも。

「あいつ、不安で仕方ねえはずなんだ。なのに、自分の道を探して踏張ってやがる」

弱音を吐いたのは最初の1度きり。隠れて泣いてる癖に、誰にも見せまいと心の奥に閉じ込めて、緩く淡く笑うんだ。

「泣きたいなら泣けってんだ畜生」

そうしないのはきっと、俺が頼りないからだ。俺が覚悟してなかったからだ。

「約束した」

帰すと。俺が帰すと約束した。

「守ってやろうじゃねえか」

あの笑顔を。
あの間抜けな笑顔を。

「てめえの力を従えてなあ!」

俺が足に力を込めると同時、部屋中を照らす輝きを放った神から、強大な力の渦が生まれる。
躊躇う事無く身を投じれば、神が笑った気配がした。

『良い、覚悟です』











(俺は強くなる)
(強くなるから)
(弱音も憤りも全部)
(受け止められるくらいに)

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