20


救世主である。

それは本人の私を除く他の人達によって、間違いようのない事実として認定された。ただし、私自身は何の変哲もないただの一般人で、それも漸く双方の理解に及んだ。
そこでだ。
神様の解放、救世主の役目、私の唯一の帰る手立て、それをする為にどうしたらいいのか。


「解放とな……それは如何にして成せるものなのじゃ?」

「そう、言われたんですけど、あの、出来れば私が訊きたいというか」


眉を下げて、風影様を見返す。逆に返されて、風影様はちょっとだけ眉を寄せた。


「すみません、私、具体的に何をしたらいいかとか、知らないんです」


へらりと笑う、私は多分、この上なく頼りない救世主だろうなと、思った。











はじめのいっぽ














風影様が、精霊さん達に訊ねたところ。
『神子! 神様と一緒!』
『神子! 神様起こす!』
『神子! 神様と一緒!』
と返ってきたそうな。

うん、あの…………………言葉が解ってもてんで意味不明なんですけど。しかも最初と最後なんてそれおんなじじゃねーか

どうにもリアクションがとれず、とりあえず瞬いた私の前で、風影様はうーむと唸り、黙り込んでしまった。髭を撫でる彼は何かを考えいたようなので、私もその間に考える事にした。

まずみこ。なにそれ。落とし子の例があるので、また別の呼び方があっても不思議ではないが、みこ、私の中でそれは“巫女”に変換される。余計解らない。私信心深くないし。恐山とか行ったことすらないし。
次に、神様と一緒。取り敢えず周りを目を凝らし見回してみた。いや神様居るのかと思って。オズに変な目で見られた。
そして、神様を、起こす。
私の中で、これが最も有益な情報に思えた。私の役目は神様の解放。神様は眠っている。オズがそう言った。眠っているのを起こす。それが解放?

…………叩き起こせばいいの?


「もっと穏やかな回答はねぇのかよ」

「ちょ、心の中に返事しないでくださいよ」

「メグミさんの心の中ってすごく簡単に判るんですね」

「まじすか」


足元の方から飛んで来た声に驚いた私に、クロウさんはにこにこと朗らかな笑顔を向けている。


「口からだだ漏れ」

「まじすか」


言われて慌てて両手で口を押さえると、おせーよ、と笑われた。


「3代目、社の件を報告なさってはどうでしょう」

「んむ!」

「ああ、だなぁ」


クロウさんの提案に、私ははっとしたのだが、オズはいたってのんびりと、同意の声を上げた。


「じいちゃん、メグミを神の社に連れて行ってやりてーんだ」

「む………社へか。うーむ」

「なんだよ、別にいいだろ?」


風影様は、難しい顔で唸り、答えを渋られたオズは、口を尖らせた。
私はそれに言葉を挟もうとして、むむ、と全然言葉でない声が飛び出し、口が手で塞がっている事に気付いて、慌てて降ろす。間抜けだ。恥ずかしい。そんな焦りが改めて出した声を裏返させた。逃げたい。


「す、すみませ、」

「そう慌てなさんな。ゆっくりでええ。時間はまだあるからの」

「はい、あの、私、セーレシウスに会ったんです」

「ほう…………」


風影様の、あまり大きくない瞳が細くなる。


「星の精霊はなんと?」

「えと、神を解放しろって、言ってました。確かー、世界が、正常になると?」


思い出し、思い出し、話す。つい最近の事なのに、もう記憶が曖昧だ。なんとか記憶から絞り出し、セーレシウスが言った言葉をなるべく正確に、なるべく同じ言葉で、再現する。


「違うな、正常な、清浄な、気が満ちれば………世界に清浄な気が満ちれば、あの方の力も満ちる」


そうだ、そうそう。


「あの方の力が満ちれば、私を帰す事が出来るって………」


そう言った。だから私は神様の解放とやらをしなければならない。ところであの方って誰だっけ。これ最初の方に言ってた気がするんだけど、最初戸惑いのが大きかったから、あんまちゃんと聞けてないんだよなぁ。


「帰る、とは?」


ん、と顔を上げる。声は、背後から。


「何処へ、帰るんです?」


首だけで振り返る。目が合ったクロウさんは、にこり、笑んだ。前に向き直る。風影様は、瞳を伏せていた。その色は、見えない。


「あー、と、自分のうちです。その、我が家。家族と一緒に住んでる、普通の、家で」
「どちらにお住まいなのですか?」


旅先の食堂で、どちらからお越しなんですかーと訊ねる、従業員のように。よくある社交辞令のように。他意はない、そういう声だ。
遮られたけれど、他意はない、そう思いたい。


「家は、」
「クロウ、力抜けって。もちっと気楽に行こうや」


また遮られたよ……。お前らあれか、私に喋らせないつもりか。何故そんな意地悪を………もしかしてさっきの無力宣言で見限られたのかそうなのか、えっ、そうなのか……!?


「メグミんち、遠いんだよ。なあ?」

「え、え? うん? えーと、あれ? 何かな? その先に帰んなきゃなんない友達を庇うようなノリ」


乗れと? それに乗れと?
そーなの電車なくなっちゃうからさあー、まじごっめーんとでも言えと? あんま無茶言うなオレンジ?


「だってあんた、自分で最初に言ったじゃねぇか。家遠いって」

「それとこれとは違う気が……あ、うん、もういいです。とても素面だったって事は解ったんでもういいです。えー、はい。私の家は遠くてですね、どうやっても普通には行けないので、セーレシウスの迷惑行為にもめげず、巻き込まれた感にもめげず、神様の解放とやらを成し遂げて、見事家帰る所存です」

抱負か


キリッと顔を引き締めて言い切った私は、素晴らしくど真ん中を射たツッコミに、あれほんとだ、と首を捻る。あれー、なんでこんな、おかしいなあ。


「えっとだから、私のおうち、此処にないんです。この国って意味じゃなくて、この世界に、って意味で」


なんと……、風影様の呟きが聞こえたすぐ後、ぶふう、とオレンジの人が何故か吹き出した。えっ、なんで笑ってんの………?





























(腹抱えだしたよ……)
(ヒーヒー言ってるよ……)
(何なんだ一体………)


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