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じゃあ、オズワルド様、って呼ばないといけないんじゃないっすか。
何気なくそう言った私に、じゃあ俺もメグミ様って呼ぶ、としたり顔をされて、はぁ? と顔を顰めた。
立場ちげーだろお前私の庶民度今目の当たりにしただろ。無駄にそわそわしてんだよ今! 現在も!


「あんたに様なんて呼ばれると、何か、こう、気持ちわりぃんだよ」

気持ち悪いって面と向かって始めて言われた!


それはね、言葉の暴力って言うんだよオズワルドさん。私のハートも強くないんで、やめてください。






風×私=破廉恥











いやそう言うんじゃなくて、あんたって言い慣れてないだろそういうの。
言い慣れてたまるか。私は完全なる庶民なんです! 生まれも育ちも普通で平凡な一般人なんです!
ははっ。
何故そこで笑う。

とか、座ったまま笑うオズと立ったまま憤慨する私が言い合うその間に、穏やかで静かな声が挟まれて。


「話を進めましょう」


ですよね! とはっとする。クロウさんの一言で、ようやく思い出した。
そうだ、この自棄にフレンドリーな王子に構っている場合ではない。
呼ばれて来たはいいものの、何の用なのか。もし救世主と名乗ったのはどんな奴だ、とかだったら………あれそれヤバくね?
いやいや、え、何か私ヤバくね? いや救世主とか自分で名乗ってないんですけど、それで呼ばれたんだったらどうしよう。どう見たっておま、絶対、何こいつ救世主とか言ってんの明らか嘘じゃん王様ナメんなよ小娘が、ってなるじゃない。私の全てに置いて不安要素しかないじゃないどうしよう。


「そうじゃのぅ。ふぅむ……」


風影様にじっ、とみつめられる。直立不動。カチンコチン。目だけが忙しく泳ぐ。やべ、冷や汗出てきた。


「見た目は普通の少女だと聞いておったが……」


ぁああああ普通ですんませんんんん!


「いいいやあの違うんですすいません! 何て言うか、私も何かの間違いだと思ってて! てか間違いです! はい!」


この人が間違えたんです、この人が! って指を差してから、てかこの人王子だったぁあああ! と自分で掘った墓穴に逃げ込みたくなった。
何だもう! 自分を追い込んでどうすんだもう!


「間違いって、俺のシルフが言ったんだ。間違いようがねぇだろ。あと落ち着け

無理!


即答!? と声を裏返したオズに目もくれず、とにかく間違いなんですと風影様に訴える。ちょっと泣きそう。


「まあそう慌てんで、オズの言う通りじゃ。精霊は嘘を吐かん」

「あ、ちっ、違うんです、嘘だと責めたわけじゃなくて………」


色々と目まぐるしくて、付いて行くのに必死で、テンパり過ぎてて、自分の失言がどんどん増えて。
ああもう、何してんだ私。
情けなくなって、俯く。


「うむうむ。わしも責めた訳ではないぞ。では今一度、確認しようではないか」


のう、と嗄れた優しい声で問われ、そろと顔を上げる。
小さく、確認、と呟けば、風影様は皺だらけの顔を更に皺だらけにして、にこりと頷いた。


「わしも救世主を文献でしか知らんのじゃ。しかし精霊には、解ると言う。魂を見抜く精霊にはな」


煙管を脇の、何か重箱のような箱の上に置く。洋風の着物のような、ゆったりした服の袖を、バサリ、払い、風影様は居ずまいを正した。
正座になった彼に、つい背筋が伸びる。


「シルフ、力を貸しておくれ」

「あ」


風影様の後ろからヒョコッと3匹のシルフが現れた。肩から、袖の下から、脇腹辺りから。
相変わらず可愛い。特に袖の下! 頭に袖を乗っけるとは何ごとだ! けしからん! うっかりときめいたじゃないか!


「ぅあっ!?」


なんて、うっかりキュンとしていたら。
目も開けられないほどの強い風が吹いた。とっさに顔を腕で覆う。
次いで、ぐいん、と体が持ち上がる感覚がして、ふ、と風が弱まった。


「!!」


恐る恐る腕を外す、と。


浮いて、る?
浮いてる!?


「なななな、」


う い て る !


なんじゃこりゃぁああああああ!!


あばばばば、なんじゃこりゃ、なんじゃこりゃぁあああ!?
下から真っ赤な顔で目を見開いて口を開けっぱなしのオズ、ほんのり頬を染めて、「薄紅色……」と呟いたクロウさんが見える。

………薄紅色?

ふと彼らの視線の先を辿る。

私は今浮いている。だから何でやねん、は今は飲み込んで。

彼らは視線の下。天井高いから結構な距離。
そしてドレスを着ている私。ドレスはスカート。

私は今日、ピンクの下着を着けているのではなかったか。

……………………。


「みみみ見ちゃだめっっ! 見ちゃだめぇええええ!! え、え? ぇええええ!?」


急いで手で押さえたけど、気休めにしかならない。
そんな私を嘲笑うかのように、今度はくるりと視界が回る。

逆さまだ。

ひぃいいい! 何これ!? 諸にスカートが、ちょっ、これ何の刑罰ぅううう!?


「おろっ、おっ、おお降ろして! すっ、すか、ぎゃあああそのままは駄目そのままは頭が潰れたトマトに!」

「はっはっ。これこれ、お前達はしゃぐでない。降ろしてやりんさい」


また半回転して、ゆっくり地面に降ろされる。
地に足が着いたと同時に、へたりとその場に座り込んで、両手をつき項垂れた。

こ、怖かった………潰れたトマトが思い浮かんだ時には本当にどうしようかと……しかし、しかしだ。それを上回って、めちゃくちゃ恥ずかしい。今なら恥ずか死出来る。パンツを、パンツをさらしちまった。


「なんで、こんな目に………」


私は今迄、普通に生きてきたはずなのに。


「すまんのぅ。ちと、やり過ぎた。どうも精霊達があまり言うことを聞いてくれんでの」


言いたい事はままあった。しかし、なんとか返事するだけで精一杯。


「うぅ、はい……」

「メグミ、じゃったな? そう、呼んで構わんか?」

「あ、はい……構いません」


気を取り直す。顔を上げる。目が合った途端に、ピュッと精霊が風影様の影に引っ込む。
精霊さんよ、可愛い顔して中々デンジャーじゃないか。今更隠れても隠れたいのは私だからね。とんだ恥を晒した私のが隠れたいからね。


「精霊が喜んどる。成る程」


風影様の頷きに、ふる、と頭を振る。それからゆっくり口を開いた。


「喜んで……?」


さっきのは無かった事にしよう。いや、無理だけど。私の中では無かった事にする。
強引にでも。
私はやれば出来る子だ。











(おお俺は何も見てないぞ!)
(薄紅色……でし)
(わぁあああああ!!)
(言うな! 言うな言うな!)
(私はしっかりと)
(心に焼き付けました)
(黙れ変態ぃいいい!)


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