みっともなく大泣きして、何だかすっきりした。
私が泣き止むのを、何も言わず待ってくれた男の人を改めて、きちんと見た。
uneasy 会話
鮮やかな燈色の髪を後ろへと流して、それでも、癖毛なのか、毛先が跳ねている。私をじっと見詰める瞳はとても綺麗な翡翠色。ちょっと強気そうな、切れ長のスッとした瞳に、目力を感じる。
顔立ちは整っていて、背が高い。
がっちりとした体型だが、別に筋肉隆々という訳ではなく。なんというか、ワイルド系イケメン、といった感じだ。
外国の人にしても、その風貌は眩しい。うん、眩しいわ。なんつー目の保養。
「オズ 、だ。正式には、オズワルド=カナデルース=3世」
「え……?」
私が容姿に気を取られている内に、不意に口を開いた男の人を、何のことだかわからず、きょとんと見詰める。
「名前、だ。……オズでいい」
「あ、私は、恵……メグミ、キサラギ、……です?」
疑問系になったのは、名乗るのにアメリカ式でいいのかわからなかったからだ。
「え、何で質問?……変わった名だな」
「そう、なんですか?」
あんまり認めたくはなかったけれど、ここは私の世界と別の場所。名前1つでも、ジェネレーションギャップが発生するらしい。
てかせーなんとかマジでお前ふざけんなよ精霊だったら何でも許されると思うなよ。
「あぁ。で、なにやら訳ありみたいだが、話す気はあるか?」
おっと、いかんいかん、せーなんとかに恨み事を言ってる場合か。今は目の前の会話だ。
「あ、はい。え、と………」
困った。
話す、と言っても何をどうやって伝えればいいのか。
私は異世界から来ました?
やばい。確実に頭を疑われる。病院紹介される。私ならそうする。
途方にくれていると、溜め息をつかれた。
「はぁ、あのな? あんたを家に帰すとしても、俺はニホンなんて国、知らねぇし、どうしてここにいるかもわからねぇ。それじゃ帰してやれねぇぞ?」
「う……なんてゆうか、家は、ものすごく遠くて、簡単にはいけない場所にあってですね……、私がここに来たのは、落ちて……きたんです? う? 落とされたんです?」
探り探り過ぎて、果たして何を言いたいのか、自分でもよく解らない。つかだって無茶じゃね? どう上手く言っても、世界越えちゃったのうふ、なんて事実、伝える手段なんてない。説明下手とかじゃない、決して。
「いや、だから何で質問……なんだ、あんた北からきたのか? 飛竜からでも落ちたのか」
「ひ、りゅう? って何ですか?」
なんか、また解らない単語が出てきた。
腕を組む彼、えっと、オズ? さん? は、質問に質問で返した私を、ちょっと訝しむように眉を寄せて見下ろす。
「知らないのか? あんた、何処の辺境にいたんだよ?……なんかあんた何にも知らねぇよな。まさか、記憶喪失……?」
いやそんなはっとしたような顔されても。名前言ったじゃん私。
「いや、そうじゃないんですけど……似たようなもので、ですね……そう! 精霊! 精霊に落とされたんです!」
「精霊に……?」
あ、精霊とか言ったら怪しい?
「あ、あの、なんか、セールス? 何とかっていう……た、確か流星の名前で……」
あ、あれ? やっぱ頭可笑しいとか思われてる?
だって、オズ、さん、は、目を見開いて、口を何度も開閉させているから。
駄目だ、今の無しにしよう、うん、フォローしよう。
「や、今のはですね……」
「セーレシウス!?」
「はぅわぁあ!?」
オズさんは急に私の両肩を掴むと、強く揺さ振った。
かなり吃驚した、かなり吃驚しましたけど!
「セーレシウスか!? あんた、セーレシウスに会ったのか!?」
「う! ぐ、ちょ、ちょ、……!」
首がガックンガックンしている。
ちょ、出る! なんか出しちゃいけないものが出る!
花の女子高生にあるまじき行為が行なわれるよ!
腕をペシペシ叩いて訴えた。
割りと必死に。
「あ、わ、悪りぃ」
と、漸く我に返ってくれたらしいオズさんは、直ぐに手を離してくれたけど、私はと言えば、視界を思い切り揺らされ続けたせいで、気分は最悪。
お前なにさらしとんねん! とか文句を言う気力もない。お前なにさらしとんねん。
「き、気持ち悪い……」
ぐったり項垂れると、オズさんは背中を摩ってくれた。
うん。いい人。
でもこれ君のせいだからね。
「つい、興奮して……悪い、大丈夫か?」
興奮したら首ガックンガックンするんですかあなた………。でも心配そうに顔を覗き込んでくるオズさんは、やっぱり、いい人なんだろうな。
「うー、ん、なん、とか」
ほら、私が頷いて見せれば、ほっとした顔。いい人決定。
でも私、あなたを2度と興奮させないと誓います。出したくないからね。モザイクかかるような物出したくないからね。
「……それで、あの、精霊とか、その……」
オズさんは、精霊が存在することには、見た感じ、違和感がないようだ。
セーレ、シウス、って言ったか、彼はスルリと名前を述べてみせた。
つまり、この世界では精霊がいることは普通なのか………。
ファ、ファンタジー……!!
「星の精霊に落とされた。あんたは、神の落し子。そうなのか?」
「え、何ですかそれ。違います。ただの不運な女子高生です」
嫌な予感。
直ぐ様否定したほどに、嫌な予感がする。
否定しないと、嫌な事が起こる。多分、いや、絶対。
碌でもないことが。
「ジョシ、コーセイ?………て、救世主の新しい呼び名か?」
「違います」
否定しないと。
不思議そうに首を傾けたオズさんに、女子高生通じないのかとか、救世主ってものっそい私に縁遠い、それこそあんた銀河系飛び出しても縁なんかなさそうな言葉だよオイとか、思ったけれど置いといて。
兎に角。
「あぁ〜? いや、あんた、今セーレシウスに落とされたって、そう言ったよな?」
「そうです」
否定しないと、いけない。
あ、
肯定、しちゃった。
(わー、オズさん変な顔)
(今失礼な事考えたろ?)
(超能力!?)