「俺様がびょーきしたら、メグミちゃん優しくしてくれる?」

「うん」

「……………あは、それも即決なんだね」

「? 当り前じゃない」

「あは、トリトンとの契約の後、スッゴい優しかったもんねぇー」

「何その普段優しくないみたいな言い方は」


むむっと口を尖らせた私に、Dは吹き出して笑う。
し、失礼だな君ぃ!


「あははっ、メグミちゃんは普段から優しいよ。うん、優し過ぎるくらい、ね」

「そ、そう?」


優しくないと言われたら気分を害すのに、優しいと言われたら、それはそれで困ってしまった。
急に誉められると照れてしまう。


「特に弱った相手にはスッゴい甘いよー。実際、口移しまでしてくれそうだったじゃん?」

「ギャー! 黙ってD!」
「ぶっ!?」


蒸し返すなっ!
頬がカッと熱くなるのを感じながら、慌ててDの口を塞ぐ。
と言うか慌て過ぎて両の手のひらを顔面に押し付けた為、口だけでなく全体を塞いだ感じになった。


「あっ、ごめん」

「痛いなもー………」

「う、うん、ごめん」


急いで手を退かしたが、赤くなってしまったDの顔に目を逸らして謝った。
やべ、うっすら指跡ついてた。


「?」

「た、食べようか。ね、うん」

「うん………?」


ぎこちなく料理へ向き直り、そして、


ぅをかぁしらぁああああ!!
「ぶふー!?」
「わぁっ!?」


ドガガシャーッ! と、食堂の扉をぶっ飛ばして、怒髪天そのものの大声が響いた。
その際、
私は口に含んだばかりのパスタを勢い良く噴き出し、目の前のアルトさん(狙撃手36歳独身)に命中、という何ともいえない事態を引き起こしていた。


「っ、すいま、グゲホッ! ゲホッ、ゴホッ、オェッ!」

「メグミちゃん、女としてどうなのそれ」

「う、ゴホッ、ありがと………アルトさんすいません」


むせてむせて吐きそうになった私の背を、憐れみの眼差しでDが撫でてくれた。
その眼差しに凹むも、涙目で必死にアルトさんへ謝罪する。
彼は少し顔を引きつらせているものの、首を振って「いや俺はいいがメグミちゃん大丈夫か?」と私の心配までしてくれた。
うう、いい人だ。


「つか、今のって」
「お頭ぁあああああ!」

「ネ、ネルさん?」

「あは、思ったより早かったね」


私の声を遮ぎる怒声にビクリとし、振り返る。
普段の彼らしくない怒りに満ちた表情はかなり怖いが、全身からボタボタと水を滴らせている事が間抜けだ。

私、ちょっと失礼かな………いやでも頭にワカメ乗ってんすよ。普通に面白いんですよ。


「おっ、俺がっ、俺が必死で海に潜ってる時にっ! 酷いッスお頭!」

「あははー、ごめーんね。お腹空いちゃってー」

「反省の色全く無しスか!?」

「そんな事より、ネル、ペタゴスは?」

「俺の事よりペタゴスッスか!?」

「あ、あの、あの、ネルさん」

「っ、メグミさん、貴女はそんな酷い事しないと思ってたのに………うう、ひでぇッス」


あまりに酷い仕打ちを受けているネルさんへ、そっと声を掛けると、彼は俯いてしまった。
涙声だし、肩が震えちゃってるしで、本当は気遣ってあげるべきなんだろうけど、如何せん、
ワカメが

そろそろ耐えられないんですけど………!


「っ、ご、ごめんなさいネルさん」

「いいんスよ………俺なんてどーせ、どーせ」

「くっ、い、いやだなネルさん、そんなっ、ブフッ、っ、」

「あ、ちゃんと持ってんじゃん。無事採って来れたんだねー偉い偉い」

「嬉しくねぇッス!」

「ブフー! ちょ、やめてっ!」

「へ?」


ネルさんの横で、Dが示した場所に、確かに蛸に似た生き物、ペタゴスが生きたまま居た。
それのせいで、私はついに吹き出した。

だって、なんで背中に引っ付いて……!


「やだっ、も、ウケる………!」


どうしてそうなった。


「わ、笑われたッス………」

「あは、ある意味喜んでんじゃないの? これも」

「うはははは! ワカ、ワカメとタコのコ、コラボレーションがっ!」

「………喜んでるんスか?」

「あは、流石に悪い気がするね。ごめんねネル」


周りは最初ビビっていたけど、私の大爆笑はその微妙な空気を巻き込んで、結局最後に、食堂は笑いの渦と化した。




















(も、俺死にたいッス……)
(ネルさんっ! ふふっ)
(なんスか………)
(ペタゴス有り難うございます!)
(っ! う、あ、いや)
(ご馳走するんで、)
(今日宮に来て下さいね!)
(は、はいッス)
(ネルさんの為に料理します!)
(お、俺の為、に………?)
(頑張りますね!)
(っ、メグミさん! 好、)
(調子乗んないでよね?)
(……………シクシクシク)

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