「今のところはねー」

「………手伝うか?」

「出来れば俺様見てるだけがいーなー」

「偶には動け。鈍るぞ」

「へぇへぇー、頑張りますよー」


チョコチョコ、と移動してDとクロスを交互に見ているが、彼らの会話には全くついていけてない。

なに、貴方たちツーカー?つーとかーな仲なの?私ちんぷんかんぷんなんですけど?


「メグミちゃん、俺様の勇姿をちゃんと見ててねー」

「へ、勇姿?」


パチン、とウィンクを飛ばしてきたDに、ちょっと今時ウィンクってあんた、と思ったのは置いておこう。
急に話を振られても私の困惑は増えるだけだ。


「さぁて、何が出るかねぇ」

「………………」


な、なにこの空気。
なんでこんなピーンと張り詰めちゃってんの。

そしてつられるように私も緊張する。隣に立ったクロスが小さく「来る」と言ったのが辛うじて聞こえた時。

グォオオオ………と唸り声が聞こえた。
ビクッとその声がした方、密林を凝視する。

そしてバキバキと枝の折れる音が近付き、ゴク、と喉を鳴らした直ぐ後、
それは雄叫びと共に登場して下さった。


「ひっ!? な、何あれ!?」

「……………熊だ」

「ああ、なーんだ熊か。熊ねー………ってくまぁああああああ!?」


なんでジャングルに熊!?
つかあれ熊!?


「熊じゃない。あんなの熊じゃない」


ガクガクブルブルを身をもって実践しながら、熊だと言う生き物を仰ぎ見る。

色々おかしい所は多々あるが、まず色があり得ない。
何故か緑。
深緑、というか暗い感じではあるが緑。

そして毛がふさふさしてる所とか身体全体的には普通なのに、何故か鼻がコアラ。

立ち上がり、大きな口で吠えて威嚇する2メートルはあるであろうその熊らしき獣は、
鼻がコアラ。


「いやいやいやいや」

「君も運が悪いねー。俺様、今超不機嫌なの。手加減出来ないかも、あは」


これを熊と言っちゃうのか。


「邪魔してくれちゃって………殺しちゃっても恨まないでよね」


獣の叫び声はマジ怖い。
その声は怖いんだ、がしかし!


「緑のでかいコアラ………」


にしか見えない。

だけどほけっと見つめていた私はDが熊………熊? く、熊に攻撃し始めたから、クロスに視線を移して聞いてみた。


「コア、熊って普通こんなとこに居るものなの?」

「? では他に何処に居ると言うのだ?」

「うんごめん。普通の基準が違った」


ジャングルには熊が生息。
これ普通。
よし私、頑張れ。


「っあ!」


変に意気込んだ私が、熊の叫びに驚いて視線を戻すと、熊は血を流し暴れていた。
苦しそうに腕を振り回し、木々を倒す様は見ていて痛々しい。


「っDだめ!」
「っ!! メグミ!」


野生の生き物は大概、その食物連鎖を崩さず生きる。
食べる為以外に命を奪うのは、人間だけだ。

だから熊は悪くない。

悪いのは彼のテリトリーに入った私達なのだ。


「へっ、メグミちゃ!?」


Dを止めて、熊を放置して逃げようと思っていた。
飛び出して、転ぶまでは。

結構なスライディングをかました私は運悪く、熊の目の前に転がった。
やべぇ、私今日、まじでついてない。最悪だ。


「っ、馬鹿!」

「ぐぇっ」


今日は朝から難破して海に投げ出されるわ、変な所に流されるわ、落ちるわ、奪われるわ、でかいコアラに襲われるわ、

散々なのだがどうなってるんだ。


「く、苦し………」

「文句言わないの! メグミちゃんが悪いんでしょ!? なんであそこで飛び出して来んの! 無口君が居なかったら怪我してたよ!?」


担がれて、怒られて。

見れば熊とクロスは戦闘中。


「熊、だめ、逃げよ、」

「っ……………ハァー、りょーかい船長。無口くーん! 退去ー!」


手負いの熊からは簡単に逃げる事が出来た。
結構な距離を落ちた私達は、その後紆余曲折しながらも無事に皆と合流。

皆結構なボロボロ具合で、解った事と言えば此処が無人島だと言う事だった。

もう、何か運命的な力が働いているとしか思えない。


「いかだとか作る?」

「人数的に1つじゃキツい。もう暗くなり始めてるし、此処で一夜明かす事になるな」

「うは、マジ最高ー………」


キビトさんの発言に、薄々解ってはいたものの、項垂れずにはいられない。

だって無人島でお泊まりだよ?
ドキドキ初体験だよ?


「うふふふふ」

「メグミが泣きながら笑ってるわ………」

「こ、こえーんだけど………」


私、怖くて眠れない自信があるんですけどー。


「メグミ、しっかりしろ。オラ、さっき採ってきた果実だ。コレ食って元気だせ」

「うえーキビトさぁん、ありがとうござい………何これ?」

「か、果実だろ?」

「何故目を逸らす」


優しいおとんに泣き付きたくなりつつ、受け取ったそれ。

果物と言い張る、いや多分採ってきた本人も疑ってかかっているそれは、見た目、

人の耳だ。


「きもっ! 限りなくきもっ!」

「いや見た目はともかく味は普通だぞ?」

「食べたの!?」


キビトさん、あんたなんて強者なんだ!
これを口にしようとは絶対思わないよ!?
それでも医者なの!?


「樹木に成っていたんだが、鳥が食べていたからな。毒は無いだろう」

「………すいませんでした」


医者の鏡でした。


「あ? 何謝ってんだ?」

「いえいえ。いやー、でも流石にこれはグロ過ぎてちょっと………」

「何か食わねぇと保たねぇぞ?」

「だってこんな、うわぁ、見れば見る程気持ち悪い………ねぇ、みん………な」


顔を引きつらせて振り返った私は、此処が化け物の巣か何かかと錯覚した。


「………ん、美味いなこれ」

「だね、変わった食感」

コクリ
「……………」

「これ、水の国で栽培出来ねぇかな………」

「ね、キビト医師ー。もう1個ちょーだい?」

「っキャー!! 何この猟奇的映像!?」


耳を貪り食う人達。
無駄に美形ぞろいなのが裏目に出て恐怖倍増。
この私が思わず可愛い悲鳴を上げた程に。


「ややややめて何コレ、失神するよ泡吹いて失神する」

「メグミも食ってみ?」

「っぎゃぁあああああ! 耳くわえながら耳差し出すなぁああああ!」


怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

なんの嫌がらせ!?


「うぁああああん!」

「おっと、な、泣くなよ………よしじゃあ、何か別の物探して来てやるから。な?」

「うぐぅ、キビ、キビトさぁん、ひぃーん」

「泣くなって」


無理だよ。夢に出るよ。

頭を撫でるキビトさんの手も今は効力を示さない。


「仕方ねぇ………クソガキ、何か探して来てやってくれ」

「……………チッ、元は貴様が採ってきたんだろうが」

「ひぐっ、そ、そういや、そう、だ」


はっとしたよ。
そうだ、そうなんだよシオンくんの言う通りじゃん!


「ば、馬鹿、てめぇ!」

「キビトさんのおとーさんんんんんん!!」

「っあ、ちょっ」

「メグミっ!」


ジャンゴー、お前は今日から私の敵だ。天敵だ。

叫んで、兎に角逃げた。
恐怖の映像から逃げた。

そして、私にあり得ない事が起きる。

皆の声が遠ざかった時、代わりに聞こえたのは私の本当の天敵の声だった。


『やっほ〜、聞こえるかーい?』

「嫌な予感ばりばりぃいい!!」


何であんたの声が!


『ごめんねー、ちょっと次元の歪(ひず)みを直し損ねちゃったのだよ。君に影響が行くとは思わなかったけどね』

「取り敢えず意味解んないけど、お前が原因なんだな? この散々な1日はお前のせいなんだな?」


足を止めて見れば、真っ白な部屋でにこにこ笑う世界神が居る。


『今セーレシウスに運ばせるから許してね』

「超いい笑顔。白い歯輝くいい笑顔で言われちゃったよオイ」


驚きの白さだよ。


『じゃ、そういう事で』

「はっ!? え、ちょちょ、まっ」


そして勝手にフェードアウトしていく勝手過ぎる神様。


「ちょっ、そういう事ってどういう事ぉおおおお!?」


眩しい光を目を強く瞑ってやり過ごすと、ジャングル独特の蒸し暑さに包まれる。

そっと目を開ければ茜色に染まる瑞々しい葉っぱ達。

暫く放心して、「今からっていつ………?」とポツリと呟くと、ガサーッ!と茂みから何かが飛び出してきた。

勿論飛び上がって驚いた。
が、直ぐに視界を覆われて聞き慣れた声が耳を打つ。


「っの、心配させんなっ!」

「………び、吃驚した」

「俺のが吃驚したわ」

「あ、そうだ、オズ」


私をすっぽり包み込む大きな彼を見上げて。


「今から帰れるってー」

「はぁ?」


怪訝な顔のオズが僅かに発光し始め、何処かで「何これー!?」と叫ぶ声が聞こえる。

移動先に着いた時、そこが何故か中庭で、
皆揃って池に落ちた。

喚く彼らを見ながら笑って。


「あはははは! アダ、アダム頭に蓮が乗ってっ、あはははは!!」


いつも私の傍には君達が居る。


「テメ、笑うなこのやろっ」

「あはは、ぶはっ!? げほっ! く、口に、ごほごほっ!」

「ぶっ! ちょ、俺様にまで掛けないでよ!」


怖かったけど、大丈夫なのは解ってた。

それは君達が一緒だったから。


「あーあ、本当はメグミの誕生日だから一杯喜んで貰おうと思ったのに………」

「え……………」

「魚一杯取って」

「お祝いしようってな」

「な、なんで」


確かに散々な1日で。


「こんな事になっちゃってごめんね?」

「いやこれは元はと言えば世界神のせいで………」

「夜になっちゃったしなぁ」

「……………これからすればいいではないか」


誕生日に遭難なんて最悪かもしれないけれど。


「無口くんに賛成ー!」

「よし、ちょっと待ってろメグミ。美味いもん食わせてやる」

「え、え、」


君達と過ごせた1日。


「「「お誕生日おめでとう」」」


だから悪くない。


いくら最悪が重なっても、君達が居れば悪くないんだ。












(あーあ、泣いちゃった)
(はは、いーんじゃねぇの)
(……………ふ)
(一時はどうなるかと思ったが)
(おい鼻をかめ。見るに耐えん)
(クク、汚ねぇツラだな)
(ふふ、でもこれでしょ?)

(ふぇー………)

(君のその嬉し泣きを)
(見たかったんだ)

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