何故こんな事になったのか。

それを問うたところで、今は変わらない。
時間はこの世で唯一平等に、誰にでも訪れる。


私は今日、
16歳の誕生日を迎えた。





























此処が何処かと聞かれたら、私は迷う事なく答える。


「そんなの私が聞きてぇよぉおおおおお!!」


ザッパーン、ザザザー

よぉー、よぉー、とこだまする、私の声が波間に消えて行く。
その寄せては返す波音が、余計に哀愁を誘った。

ビクッ!、と全く同じ反応をした色彩豊かな面々がちょっと鬱陶しい。


「あ、あはー、メグミちゃん? どうしたのかな? 急に」

「どうしたもこうしたも、此処は一体全体何処なんですか。え?」

「い、いやー俺様に聞かれてもー…………すいません」


ほっそーい目で日差しに煌めく笑顔を見ると、Dは視線を逸らして謝った。

私達以外、だーれも居ない、白い砂浜。
穏やかな海に背を向ければ、鬱蒼(うっそう)としたジャングルが広がっている。

そう、ジャングルが。


「これなんていうサバイバル?」

「………此処でこうしていても仕方ない。行くぞ」


私の疑問は華麗にスルーされ、アダムはジャングルへと向かい歩きだした。

ぇえー……行くのー?
だってジャンゴー(英語風味)だよー?
私間違いなく生き残れないよ?


「現代っこをなめんなよ」

「なんで神さまの力が使えないのかしら」


そうなのだ。
何故か神々の力が使えない。

この見知らぬ場所に着いた訳は、早い話が船が難破し、海に放り出された私達は流されて、気付いたら此処に居た。
って訳なんだが、私達は別に慌てる事なく、神々の力を使って移動しようとした。

そしてボルトもシャドーもフラップも、喚びだす事も出来なくて、そこでやっと私達はこの状況に顔を青くしたのだ。

所謂、これは、つまり、

遭難だ、と。


「大体誰だよ、小型帆船に乗ろうなんつったの」

「お前じゃねーか」


面倒くさそうにアダムの後を追うオズの脇腹をドスッ、とどつく。
棚に上げ過ぎだろお前。


「あははー、自分が言い出しっぺだって忘れたのー?」

「お前もノリノリだっただろ」


ぐはっ、と脇腹を押さえるオズを笑うDにも拳をお見舞いしてやった。


「お、お前も喜んでたじゃねぇか………」

「黙れオズ」

「メグミがひでぇ………」

「逆らうな赤の皇子。今のあいつは無敵だ」

コクコク
「……………!」

「聞こえてんだよ阿呆ども」


大の男が揃いも揃って遭難。
嘆かわしいったらありゃしない。
というか意外と余裕あんなこいつら。


「ハァ、いい加減にしろよ」

「おわぁ!?」


いつまでたっても進まない私達に痺れを切らしたのか、アダムは私を後ろから抱き抱えた。
こう、ヒョイッ、と。


「離してっ! 歩ける!」

「暴れると見えるぞ」

「よりによってなんでスカートチョイスしたんだ私ぃいいいいい!」


私の馬鹿っ! 無理でも予測しろよ!
こんなんなるって予測しろ!

って無理に決まってんだろアホンダラァアアア!!


「医者はもう行ったぞ」

「えっ……………ほんとだ、居ない」

「つか離せよ馬鹿」

「ねぇ、アレクシア皇子はどうして屈んでるの?」

「あは、純白が刺激的だったんだよ」

「貴様には道徳心と言うものが無いのか」


オズとアダムが喧嘩を始めた為、私は解放されたけど、キビトさんが1人で先に行ってしまった事に気持ちが焦る。

好き勝手に言い合う皆がなんでそんな落ち着いていられるのかも謎だし。
まぁ私も私で、アイリスの言葉が気になり、チラリと視界を動かして、アレクが前屈みになっているのをばっちり見た。

何してんのあの犬は。

あと純白発言は聞かなかった事にした。


「は、早く追い掛けようよ」

「っと、貴様、押すな、おい」

「……………メグミどうしたのかしら」

「……………怖いのだろう」

「メグミが? メグミなのに?」

「どういう意味かしらアイリス」

「き、聞こえた?」


ぐいぐいとシオンの背中を押し、緑深いその入り口に足を踏み入れる。
後ろでこそこそ言っていたアイリスを笑顔で振り返ると、そのお人形さんみたいな可愛い顔を引きつらせていた。

私だって普通に怖いと思うわ!

因みにアレクは何故かDに引き摺られている。
そしてオズとアダムは海岸に置いてきた。


「黒っち、おっさんどっちー?」

「自分で探せ」

「えー、めーんどくさーい」

「……………」

「シオンさん刺さない刺さない」


Dはいつでもどこでもマイペースだ。
イラッ、ときたのだろう。
シオンは自分の武器を何本かDに投げつけた。

怖いんだよお前ら。
一々武器出すな。

あ、アレクが巻き添えだ。


「ジャングルよりもこいつらのがヤバいわ………うん、なんかごめんねジャンゴー」

「メグミが森と会話してるわ」

「えっ! そうなのか!? す、すげぇ………」

「感心してるぞ………馬鹿としか言い様がないな」

コクリ
「……………」


なんか今なら君と共存出来そうな気がするよ、ジャンゴー。
君は普通だよ、いたって普通。
そりゃジャンゴーは鬱蒼としてて不気味で当り前さ。


「君は普通でいてくれて嬉しいよ」

「ぉお………流石は救世主」

「ねぇ、これ誰か突っ込んだ方がいいんじゃない?」

「放っておけ」

「なーんかなっつかしー。昔は無人島とか探検したなー………」

「……………!」


今から私と君は友達だ!


「って、ほぎゃぁあああああ!?」

「「「メグミっ!」」」


私とジャンゴーの友情は、ジャンゴーの裏切りによって直ぐ様壊された。

足場が、無い。

そう思ったと同時に落ちて行く身体。
私はアレか、転落難の相とかあんのか。どじっ子設定か。
あっはは、どじっ子もへる!
但し自分萌えない!


「いだだだだだだ!」


急な坂を滑り落ちながら思った事だ。


「あうっ! ……………い、いた………くない?」

「ハァー、マジ心臓止まるかと思った」

「……………ミラクル?」

「みらくる?」


途中までは痛かった。確かに痛かった。
見ればあちこち擦り剥けていて、私は1人坂を落ちてきたのが解る。
でも着地地点で何故か私はDを下敷きにしていた。

……………ミラクルだ。


「ミラクルとは奇跡の意である」

「あは、俺様奇跡って信じてないの」

「いやいや、奇跡あるよ。奇跡。聞いてよこないだお風呂で滑っちゃって、そしたらなんとお尻が、って何それ今関係なくね?」

「あはー、お尻気になる」


抱き合う形でDを絨毯にしている私は手を着いて上半身を起こし、なんでだどうなってんだ、と頭が混乱中だ。
口が勝手に動いているが、飛び出す言葉達はどうでもいい事を並べている。


「間に合って良かったよ」


にっこり笑ったDが「あーでも傷作っちゃった………」と指先で頬をなぞるのを首を傾げながら見て、それから罪悪感に襲われた。


「痛い?」

「ちが、ごめ………」

「君の予測不可能さはいつもの事だからへーき。ほら泣かないのー」

「な、泣いてない………ごめ、わわ、ちょっ」


実際泣いてはいないけど、泣きそうにはなった。
Dの上に乗ったまま謝っても全然謝罪になってないと、退こうとして逆に腕を掴まれ引き寄せられた。
バランスを崩してまたDの上にドサリと転がる。


「ディーノさーん?」


なんだこれ。
ドキドキが止まんないんですけど。

Dの腕は背中に回っているので動けず、頭だけを上げて顔を伺う。
因みに、試しに手を突っ張ってみたが効果はなかった。


「悪いと思うなら、身をていして庇った俺様にご褒美ちょーだい?」

「あんたこんな見知らぬ土地で私が何かあげられる物用意出来ると思ってんのか」


自分の不注意には反省した。
Dに悪いとも思ってる。

でもあなたそんな無茶を言わないで下さいよ。


「ちゅーしてくれたらいいよ」

「……………そんだけ?」

「ん、したら許したげるー」


な、なんだそれくらいなら………てっきり金品要求されるかと思ったじぇい。


「って待てよ私!」


いやいや、何普通に了承しようとしてんの!?
毎日のように繰り返される過激スキンシップに頭麻痺してんのか!?


「ダメなら、そーだなー………今履いてる下着とか、」
もーまーんたーい!
私の唇の1つや2つがなんだって言うんだドチクショー!」


あぶねぇ!
何かもう色々あぶねぇ!


「……………し、仕方ない」


コレはそう、戒めよ。
気を抜くとこういう事になるんだぞっていう、自分への注意よ。うん。

ぇえい、女は度胸!


「……………」

「……………あは」


頬っぺたに軽く触れて直ぐ離す。

音はしない。
当り前だ。リップ音なんか立てた日には恥ずかし過ぎて死ねる。


「も、もういいでしょ」

「んー、物足りなくはあるけど………」


無理だから! これ以上は爆発するから! 心臓が!

背中の手は今は腰にある。
今度こそ退こうとして、私はピクン、と反応して固まった。

だって恥ずかしさに直視出来なかったDが言ったから。


「お誕生日おめでと、メグミちゃん」


どうして知ってるのかな。

そのままむくりと上半身を起こしたDを呆気に取られ見上げる。
凄くまぬけな顔をしてたと思う。

だって知ってるはずない。
誰にも言ってない。

今朝、誰も居ない部屋で呟いただけだ。
――お父さん、お母さん、私16歳になったよ。思い出してくれている?

Dの太ももを跨いで乗っかった、その向かい合わせの状態で、
緋色が嬉しそうに細くなる。


「なんで知ってるの、って顔してる」

「う、だって、なんで………」


目を泳がせる私に、近距離で僅かに吹き出したDの息が額に掛かる。
てか、ち、ちかっ!

急いで腰を浮かし、掛けて、
腰と背に回った腕に邪魔された。


「わっ!」


力強く引かれて、
その思わぬ行動に顎が仰け反り、

何かを思う暇さえなく、唇が塞がれた。

ちゅ、と短く触れて、離れる。

変わらずぽかんと見上げた後、かぁっ、と顔が熱くなるのが解った。


「なな、な、」

「今のは、さっき物足りなかった分」


悪戯に笑って、また距離を詰めようとしたDに慌てて身を引く。
否、正解には引こうとした、だ。

いつの間にか後頭部に移動していたDの手に阻まれて。

1cmも動かせなかったから、目と唇をぎゅう、と堅く閉じた。

だけど、予想していたあったかい熱は、私の額に触れた。
思わず目を開けて、変な声が漏れ出た。


「これが、俺様からのお祝い。……………期待した?」

「しっ、してないっ!」


妖艶に微笑む彼はあり得ないほど色気がある。
真っ赤になりながら怒鳴って、見惚れそうな自分を無理に誤魔化した。

ちくしょう鼻血出そうだ。


「あは、期待に応えよーか」

「してないって言ってんでしょうが!」


大慌てでざかざか這って、変態思考から離れる事に成功したのだが、それが結構意外だった。
やけにすんなりいったな、と。


「ざーんねん。今はこれ以上出来そうにないや」

「いやいやなんだこれ以上って、これ以上ってなんだよ」


これ以上は無いよ。うん。
今が羞恥マックスだよ。


「メグミちゃん、じっとしててね」

「え、なん、わぎゃっ!?」

「……………無事か」


Dの声がなんだか真剣味を帯びていて、改めて彼を見た後、その視界が降ってきたクロスによって遮られた。





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