「水神の敬日?」

「そうだ。絆と友愛の神、水神に敬意を表し、家族や友人などに普段の感謝の意を伝える。古くからの習わしだ」

「へぇ、それが今日?」

「うむ。そこで、だ」


朝イチ、サラに呼び出された私は彼女の部屋で今日が特別な日であると説明を受けた。
他にもこの国1番の盛り上がりをみせる祭日“水神祭”とやらもあるらしい。


「普段の感謝を込めて、わたしから友人のそなたに、ささやかながら贈り物をさせて貰いたい」

「………え」


サラが2度手を叩くと、ササ、と侍女が長方形の箱をテーブルに置いた。
丁寧にリボンが巻かれ、生花があしらわれたそれが、私へのプレゼントだと容易に解る。


「そんな、私何も」
「よい。感謝の意だと言っただろう。そなたはわたしの唯一無二の親友だ。受け取ってくれメグミ」


今聞いて、私には勿論なんの用意もない。
それでもこのそこらの男よりも断然男前なサラに、こんな風に言われてしまっては受け取らない訳にはいかない。

なんでこの子はこんなに格好良いの。押し倒すぞ。


「有り難う……開けていい?」

「うむ」


普段なら受け付けない贈り物も、特別な日なら。
満足気に微笑み頷くサラに、私も顔を綻ばせた。
崩すのが勿体ない包装を恐々と解いて、現れた中身に感動の声を漏らす。


「綺麗………」

「そなたはドレスを持っておらんだろう? いつか来るお披露目用にな」


淡い水色のドレス。所々にちりばめられた小さな白い花がアクセントを加え、上品な華やかさ。
いつか私が救世主だと明かす時、これを着て欲しいとサラは笑った。


「あり、ありがと」

「ふふ、泣かせてしまったな」


ドレスに涙が落ちないよう、拭いながら「嬉しい」と言えば、サラはまた笑ってくれた。


「私も何か考えるね」

「おお、では1つ、頼みがあるのだが」

「うん? 何なに?」


ちょいちょい、と手招きするサラに寄って耳を傾けると、こそっと彼女は囁く。


「今度、お忍びで城下町へ行きたい」

「………まずいんじゃ?」

「だからそなたに頼んでいるのだろう」


上目に伺った私に、サラはつまらなそうな顔をして、紅茶に口を付けた。


「えー……そんなの駄目だよ。危ないよ?」

「そなたに言われたくない」

「なにそれ」


真顔でしれっと言いながら、静かにカップをソーサーに戻す。カチャ、と相当控えめに音が鳴った。因みに私が置くとカチャン、と控えめでもなんでもなく普通に食器が鳴く。これが平凡と上流階級の違いである。

その上流階級の頂点さんは、私の言葉をまるっきり無視して、突然態度を変えた。

「なあ、頼む! 宰相共は煩くて適わん。わたしもたまには羽を伸ばしたいんだ! メグミには解るだろう?」


隣の私に、少々身を乗り出すようにして、サラは必死な表情を浮かべている。そんな顔で言われたらなあ……。眉が下がる。


「もう、仕方ないな……その代わり、護衛に誰か、そうだリディアさんがいい。彼女に頼んでおくから一緒にね」

「メグミ!」


パァ、と顔を輝かせ、嬉しくて堪らないのか私の首に抱き付いたサラをヨシヨシ、と撫でる。私も大概サラに甘いよな……。


「水神の敬日ねぇ………じゃあ皆にもなんかしたげなきゃなぁ」

「む……あやつら等、その辺の草でも与えておけばよい。メグミからなら何でも喜ぶぞ」

「この子さらっと毒吐いた!?」


サラには執務があるので、ちょっと怖い発言には目を瞑ってドレスを胸に抱え、宮へと戻った。

歩きながら考えたのだが、金銭的な物は上げられないし、何かして欲しい事を直接聞く事にした。
私に出来る事だから、限られて来るけど。


「メグミお帰り! 何それ?」

「ただいま。サラから貰ったの。そか、この国の行事だからアイリスとかは知らないのね」


帰ってくるなり飛び付いて来たアイリスに慌ててプレゼントを上に抱える。
両手を上げたまま、腰に抱き付くアイリスを見ると不思議そうな顔をしていた。


「お帰りー……何してんの?」

「なんだその荷物」

「メグミ、お帰り」

「のあ!」
「「「!」」」


ぞろぞろ顔を出す皆。
最後、アダムは両手がふさがって、アイリスがいる為に動けない私の頬に口付けを落とした。
ここここのやろう!
私が動けないからって!


「ちょ、ナチュラルにセクハラしないでよっ!」

「なんて言ってるのか大体解るようになったな。せくはら、とやらはいい意味じゃないだろ」

「ほ、ほれはろーから」


頬っぺたが、痛いですよアダムさん。


「クク、喋れてねぇよ」

「いひゃいいひゃい!」

「エロガキ、女の顔にそういう事すんな」

「いてっ! 貴様!」

「おとーさぁあああん!!」
「誰がお父さんだゴラァアア!」
「すんませんしたぁあああ!」


ふぅ、口は災いのもとね。


「それなんか違うよメグミちゃん」

「読心術は禁止した筈です」

「お前、口から思ってる事を出すのを直さねぇとそれは無茶だぞ」

「おぅ、またやっちまったぜ……ちょ、ため息混じりかオズ!」

「……………」

「あ、あんがとです」


いつまでも万歳している私から、箱を取ってくれたクロス。
嗚呼、気遣いの人クロス。
いつでも紳士クロス。


「まぁた花飛ばしてる」

「んで、これなんだ?」

「サラ王からだって。メグミ、お茶しながら話そ」

「あいあいさー」

「あいあいさ?」

「ぁあん! アイリス超可愛い!」


激萌え! あなたに激萌え!


「お、黒っち」

「入り口を塞ぐな馬鹿共が」

「いたぁっ! ちょ、ぶたないでよ! シオンの茄子!」

「なす? ………何故だ。不快だ………」

「あだだだだだ!」


アイアンクローきたぁあああ!


「スイー! スイー? お茶ー」

「っはぁーい! ただいまー!」

「いだだだ! ちょ、なんでそのまま移動!?」

「オラ、クソガキ、メグミで遊ぶじゃねぇよ」

「……………フン」

「おと、キビトさん、ありがとうございます」


危うくまた殺人光線を食らうところだったよ私。

そうしてリビングみたいに皆がなんだかんだ過ごす事の多い大部屋で、私の侍女なのに皆のお茶を入れてくれたスイちゃんにお礼を述べて、ソファーに座る。

今日という日の説明をして、クロスは知っているのは解るけど、アダムとシオンもそれを知っていたのには驚いた。


「で、私からも皆に日頃の感謝を伝えようと思って。物とかはあげられないから、して欲しい事とかあったら教えて欲し」
「「添い寝!」」

「……………それ以外で」


思考回路が同じなのか、セクハラコンビは声を合わせて立ち上がった。

馬鹿じゃねーの。
おま、馬鹿じゃねーの。


「ワタシ、兄さまとメグミが結婚してくれたら」
「それ以外」

「「一緒に風呂!」」

「キビトさんは?」←シカト

「オレ? うーん、そうだな………み、耳掃除、とか」

「耳掃除?」

「………いい年こいて赤くなるな気色悪い」

「ウルセェ!」


耳掃除して欲しいって………
赤くなるキビトさんとか………


「はぅ! 悶えそう! ちょ、反則的な可愛さだよ!?」


ぐはぁ!あなたにも激萌え!


「耳掃除ばっちこい! うし、クロスは?」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「お前ら顔がこえーよ。なにガン飛ばし合ってんだよ」


クロスの眉間の皺が深くなって行くにつれ、私まで顔を顰めてしまった。
オズはもはや突っ込みエキスパートだな。


「じゃあ、クロスはゆっくり考えてて下さい。オズは?」

「………俺は、その、こいつらみたいに変態じゃねーからな!?」

「え、うん。誰もそんな事言ってないけど」


なんでそんな顔赤くしてんだこの人。


「う、その、おま、お前、」

「何ビクビクしてんの」

「っ、お前! お前をくれっ!」

「「「……………」」」


空気が、ピシリ、と鳴った気がした。


「……………なんて?」

「え? 俺今なに言っ………」


元々赤みを帯びていた顔を一気に真っ赤に染め上げ、「ちがっ! 今のは違くて!」と慌て出したオズだが、もはや私は思考の欠片も動かせずにいた。


「あは、大胆だね」

「お前が言うとはな」

「だだだだから違うんだって! 俺はメグミの時間をくれって、そう言いたくて!」

「あ、それいいね。逆にやらしい」

「ちがっ! 俺はそういう意味で言ったんじゃ!」

「メグミは別に要らないと?」

「んな訳ねぇだろ!? 1番欲しいに決まって!……………ぁ」

「やっぱあわよくば? いい事しようとか? じゃなかったらあんなに切羽つまらないっしょ。
まあ、メグミちゃんはあげないけどー」

「メグミ、オズなんかいいからオレにお前を寄越せ」

「……………」

「駄目ね。メグミには刺激が強過ぎたんじゃない?」

「……………」

「医者、なんとかしろ」

「おめぇらな、ったく。メグミ、大丈夫か? がきんちょの言う事真に受けんな」

「…………ぷろ」

「あ?」

「ぷろ、ぷろほーず受けたぁああああ!?」


なんもかんもすっ飛ばしていきなり最終段階に!?
ちょ、誰か!恵さんてば、最大のモテ期突入の予感!?


「ぷろほーずって何?」

「玉の輿!? ちょ、待って、私セレブ生活ついていけないんだけど大丈夫!? ねぇ大丈夫!?」

「おおお落ち着けメグミ!」

「オズ!!」

「うへぇ!? な、なんだ」

「私も一応女の子なんでお付き合いからでお願いしますで候!」

「はっ!?」

「そりゃ段階踏んでくれないとやっぱお互い結婚してから嫌になったりして成田離婚なんて事になったりしなかったり!?」

「けっ!?」

「ちょ、メグミちゃ、落ち着いて! 結婚て何!?」

「ハッ! でもでも今しとかないと私これ人生棒にふるんじゃないの!? 一生独り身、なんて、
いやぁあああああ!!
そんな寂しいのはいやだぁあ!」

「……………っ!?」(オロオロ)

「馬鹿が………メグミ」

「あべしっ!?」


顔面に衝撃。
涙目で見上げると、そりゃもう虫でも見るかのような蔑んだ目をしたシオンが。

お、乙女の顔になんて容赦のない………! 鼻潰れんだろーが! 元々高くないのにどーしてくれんのコレ!!


「己れは甘味がいい。山ほど作れ」

「………ふへぃ」

「山ほどだからな?」

「シオン、甘味ごときに目を血走らせるのはやめようね」


本気だからねこの子。
スイーツ無いと生きてけないみたいな目をしてるからね。


「あ、あれ? そういやなんかさっき私変な事口走って………」

「オズはメグミの時間をくれだとよ。オレもそれでいい」

「え、あ、そう? じゃぁ、それで」

「俺様添い寝がいいー!」

「だから出来る範囲で言ってってば」

「やだやだやだー!」

「ちょ、子供か。………変な事しないならね。したら2度と口きかないからね?」

「ぃよっしゃぁあ! 変な事はしない! 約束する!」

「む! オレは諦めたんだぞ!」

「もーうるさいっ! キリがないからおしまい!」


ぐだぐだ話で1日が終わるだろうが。まとわりつくDに仕方なく許可を出した意味がなくなる。
箱を抱え、まだ何かを言うアダムから逃げるように部屋に戻った。


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