さてもさても、それから。

ドアが壊れた為に洗面所に籠もって着替え、喧嘩し続けている皆から神様達を引き剥がし、厨房へ。

厨房の皆は私達が入るとギョッとして目を見張ったが、変わった精霊でーす、と適当に誤魔化した。
お話ししちゃ駄目だと言っておいたから、神様達は何かある度に私の耳元へ寄って来て囁く。


『神子、全部切りましたよ!』

「おー、早いね、流石フラップ」


かまいたちにて野菜を素早くみじん切りにしたフラップの頭を撫でる。
厨房コックさん達の感嘆の声があちこちで上がるのは、神様達が素晴らしい働きをしているからだ。

鍋に水を張るのにも、とびきり綺麗な水をアクアが出して。
塩が足りないならと、トリトンが上質の塩を振りまいてみせたり。
力仕事はもっぱらゴールドの仕事だったり。

いつもより早く仕上がった朝食はいつもより美味しく出来た。
ついでにお昼の仕込みまでこなせた程だ。


「今日はお弁当持って原っぱに行こうか」

『『『やった!』』』

「ふふ、いいわね」


ワゴンを押しながら、スイちゃんとアレクの部屋へ向かう途中、今日の予定を立ててみる。
神様達は自然が好きだ。
のびのび外で飛び回る彼らを思い浮かべて、頬が緩んだ。

アレクと神様達は中々楽しそうに会話を交わし、自分達の朝食中もいつもより賑やかに過ごし、今朝用意したお弁当を持って。


「本当に着いて行かなくて大丈夫か?」

「こんだけ神様連れて危険も何もないですよー。なんかあったらキビトさん達にも直ぐ解るんだし」

「うーん、それはそうだが………」


皆には今回、着いて来なくていいと言った。
契約者が居ない所で、神様達に過ごして貰いたかったから。
彼らに少しだけ、知って欲しい事があったから。
皆には渋い顔をされてしまったが、特にキビトさんは最後まで納得いかなそうにしていた。

それでも、私が何とか勝利を収めて、のんびり近くの原っぱへと出掛ける事に成功した。


でもなぁ、多分なぁ………。


「誰が来た?」

『私は違いますね』

『妾も違いまする』

『ん、わしじゃな』

「あ、アダムなの。てっきりシオンあたりかと思った」


もしくはクロスとか。シオンまだ寝てんのかな。

神様達に聞いてみたところ、案の定着いて来ていた。心配性なんだから、と息を1つ吐いて、お弁当多く持って来て良かったと少し微笑む。


「好きにしていーよ。私此処に居るから。あ、あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ?」

『『『はーい!』』』


揃った返事に吹き出して笑う。
なんだか子供を沢山連れているみたいだ。
各々が好きに過ごし始めたのを見ながら、振り返る。

因みに私は木陰の下、1番甘えん坊なトリトンと、陽の下が苦手なシャドーは私と一緒だ。


「アーダムー!」


来た道に向けて声を張り上げ、暫く待つ。


「……………え、シカト?」

「ボルトが喋ったな」
「もはぁ!?」


何の音沙汰も無い事に首を傾げた時、ガサーッと上から降って来た銀色に大きく肩が跳ねた。

ふっ、普通に現れろや!


「び、びびった………1人?」

「オズが後で来る」

「? なんで一緒じゃないの?」

「……………おとりだ」

「何の」


おとりって貴方何かに追われてんですか…………って、えっ、追われてんの!?
そうなの!?


「敵!?」

「はぁ?」

「オズ平気なの!?」

「……何を勘違いしてんのか知らないが、別に危険性は無い」

「え、じゃあ、何のおとり?」


取り敢えず危ない事は無いらしいと安堵するも、解らない点に再び首を傾げる。


「何の………うーん、何の、か…………甘美な花に囲まれるよりも、見た事の無い1輪に辿り着く為の、おとりだ」

ぜんっぜん解らん


私が悪いわけじゃないと思う。
なんだその、花やら1輪やら、一体何が言いたいんだお前。


「クク、なんでだかなぁ。珍しいだけならこんなに執着しないだろうに………まあ今日はオレ達の事は気にすんな」

「前半がさっぱり解らないけど、まあいいや。アダムもボルトと遊んであげたら? 喜ぶよ?」

「ァア? なんでオレと。あいつらはお前と居てぇんだろ」


おとり話は流された為、私もこだわらない事にして、せっかくだから提案したのだが、アダムは面倒そうに首筋をさすった。


「う、いや、そうでもないと思うよ」


その仕草1つがやけに艶めかしいので、私は視線を原っぱを駆けるボルトへと移した。
うう、ドキドキした、つかしてる………。


「え、えーと、ボルトはアダムが好きなんだよ?」

「は?」

「あのね、ずっと一緒に居てさ、人間も捨てたもんじゃないってボルトが言うの」


腕に絡み付くトリトンが、スリ、と頭を擦り付けた。


「アダムと居てね、もう少し、こちら側に居たいと思うようになったって」

「…………………」


静かになってしまった隣を、チラと横目に見て。


「ふ、」

「……………笑ってんなよ」

「ふふ、だってアダムってば」


零れてしまった笑いに、アダムは不機嫌そうな声を出したけど、さっき見た横顔は不機嫌には程遠い。
眉を下げて、口元には微笑み。

ボルトだけじゃない。
海を汚す人間は嫌いだと、トリトンは昔そう言った。
Dはそれを聞いた時から、海で血を流す事は絶対にしない。
トリトンは人間も色々だと、見直してもいいかもしれないと、嬉しそうに今はそう言う。
神様達は皆似たような事を言って、人間に触れたその喜びを偶に私に漏らすんだ。


『神子………帰りたい』

「シャドー………ふふっ、恋しくなった?」

『っ、別に………』


私が皆を契約者から離した理由。

知って欲しいと思ったの。


「シオンに会いたい?」

『そ、それは………』


いつも喧嘩しているように見えて、そこに信頼関係が築き上げられている。
しっかりと。
契約で繋がれた貴方達は、今は契約以上のもので繋がれている。

不満はあるだろうけど、もう互いに言ってもいいじゃない。
私に言わず、本人へと。


「ボルトー! おいでー!」

『?』


何故か自分の尻尾を追い掛けて、ぐるぐると回っていたボルトを呼ぶ。
犬みたいだな、と思ったのは秘密だ。
バサバサと羽ばたいて飛んで来た彼を、にっかり笑って見つめる。


『なんだ?』

「アダムが遊びたいって」

「はぁ!? お前何言って」
「照れない照れない」

『…………そうなのか?』

「う…………」

『お前がそう言うなら、あ、遊んでやってやらん事もないぞ!』

「……………ハァ。メグミ、後で覚えてろよ」

「さあ? 私物覚え悪いから」

「てめ………鳴かしてやる」

「あははっ! 逃げるよボルト!」


駆けながら、シャドーにそっと囁く。


「シオン呼んでごらん。きっと直ぐに来てくれる」

『神子…………』


ボルトとアダムが戯れているのを見ながら、きっと君達は羨ましく思う筈だ。

私を慕ってくれるのは嬉しい。
でも知って。

君達は私以外に、心を寄せている相手がいる事を。


「ボルト! もう少し大きくしてやるからオレを乗せろ」

『嫌じゃ! 神子以外は乗せたくない!』

「んだとてめぇ! このっ、」

『ふはははは! 鈍臭い奴よ!』


その後オズが何故か怒って登場し、フラップに体当たりされ、吹っ飛ぶ様に私が腹筋を鍛えられ、素直になれない君達が、やっと求める事が出来るまで。

そんなに時間は掛からなかった。












(最後はDかぁ)
(何、皆呼ばれたの?)
(トリトン意地っ張りー)
(う、だって神子ぉー)
(フフ、偶には素直になんなさい)


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