ドガン、と爆音。
それに伴って、建物全体が揺れた。

目が覚めて、ぼけーっとベッドに座っていたところ、思わぬ事態に一気に覚醒した。
なんだ今の、と、寝間着のまま慌てて部屋を飛び出して。


『『『神子ー!!』』』
「うべへぇっ!?」


ちっさい生き物に飛び付かれた。




















「ふご、ふごふご」

「てめコラ! フラッ………」

「っアク…………」

『神子! 神子!』
『神子殿ー!』

「ふご! っ、ふごごーっ!」


えー、現在、
前が全く見えません。
ついでに息苦しいです。

周りが騒々しいが、取り敢えずじたばたと悶絶する私。
誰か助けて。


「フラップー………」

「アクア」

『『ああっ!』』


右肩と、左頭上。
が、軽くなりました。

だがしかし、相変わらず前方確認出来ず。
呼吸確保微妙。


「ふごぅ!!」

「何処行きやがったクソ神!」

「おー、アダム、此処だ此処」

「てめぇ! ボル、ト………お前なぁ、ったく」

『はっ、離せ!』

「ふご?」


お、右目回復。
片方の瞳が映したのは、呆れ顔のアダムと、首根っこを摘まれ、暴れるボルト。
と、その脇からぴょこんとDが顔を出した。
私を見るなりにっこーと笑顔満開で手を伸ばす。


「トリトンってば、俺様に喧嘩売ってんのー?」

『いやぁ! 神子ー!』


縄で縛られたみたいに、動かせなかった腕が自由を得た。
頭左側から左目に掛けて視界を覆っているものと、口を塞ぐものを両手で摘む。


「ブハァ! ハァ、ハァ、苦しかった………」

『『神子っ!』』
『やぁん! 神子抱っこー!』
『離せアダム!』
『オズワルド! 吹っ飛ばしますよっ!』
『神子不足で死ぬ! いいのかクロス!』


わぁ、うるさーい………。


てんめぇ何処行きくさったゴラァアアアア!
ギャァアアアアア!?


魔王降臨したぁあああ!?

両手に掴んだのは、ゴールドとシャドーだったのだが、思わず投げた魔王に向かって。


『みっ、神子!』

「あ」


投げたゴールドをがっちりキャッチした魔王、もとい、おと、あ、違った。キビトさん。
恐ろしい笑顔でニヤリと笑った。


「オレに岩を落とすたぁ、どういった了見だ? ぁあ?」

『うっ、離せキビト! 我は、我は我慢出来なかったのだっ!』

「無理矢理出て来られると、俺様達はかんなーり、つらいんだよ。理由は解り易く、完結に述べてね、トリトン」

『だってぇー!』


朝から爆音が鳴ったのは、どうやら勝手に神様達が出て来てしまったかららしい。
因みにシャドーは空中でブレーキを掛けて、再び私に飛び付いて来た。
今度は胸に受け止めて、そのまま抱っこしている。

そして、良く見れば、Dとクロスはびしょ濡れ、アダムは焦げているし、キビトさんとオズは傷だらけである。

それぞれ怒っているのは明解。


「あ、あれ、シャドー居るのにシオンは………?」

『部屋に居る』

「お、珍し、じゃなくて。シオンはなんでシャドーを迎えに来ないの?」

『…………………』

「何故黙る」


周りの喧騒を無視し、ちょっとばかし嫌な予感がした私は3階へと向かう事にした。


『ああっ神子が!』
『神子ー!』
『後生じゃ! 離せクロス!』

「………ああ、もう」


階段に足を掛けたまま、ため息を吐いた。


「居間に居て。後で行くから」


それぞれパートナーに悪戦苦闘している神様達に「ね?」と諭すように言って、私は階段を駆け上がった。

シオンの部屋まで早足で来ると、ノックしようと腕を上げた時点で中から声が掛かる。


「早く入れ! 何とかしろ!」

「うわ………開けるの怖い」


明らかに怒っている。
恐々とドアを開けて、そっと顔を覗かせてみると。


「……………う、うわぁー」

「早く! 何とか! しろ!」


腰から下を影に沈め、憤慨するシオンの姿が。
言っちゃ悪いが存外間抜けだ。
笑いそうになるのを堪え、シャドーに「駄目でしょ、出してあげて」と言うと、彼は『うー』と唸った。


『シオンが居ては神子と過ごせん………ずっと外に出れん』

「シャドー………今日は私から言ってあげるから、シオンを出して?」

『……………解った』


暫く神様達に会ってなかったもんなぁ。
偶には遊んであげないと、神様だってストレス溜まるのかも。

動けるようになったらしいシオンが、床に手を着いて影から出てきた。
むっつりと黙り込んだまま、私の前に立つ。


「シオン、あまり怒らないであげて」

「フン、話を聞いていたら怒る気も失せたわ」


ドア枠に腕を置き、見下ろすシオンは疲れたように息を吐いた。


「今日は、私にシャドーを貸してくれる?」

「好きにしろ………己れは寝る」

「今から寝るの?」

「ああ」

「そっか………お休みなさい」


1歩下がって笑い掛けると、私を追うようにしてシオンが身を乗り出して来た。
空いた左手で、私の頭を引き寄せて。


「!?」

「………朝飯は要らん」


頭の頂あたりにキスを落とした。
そして短い言葉を残して、彼は部屋の扉を閉めてしまい、廊下に残された私は口を半開きにしたまま立ち尽くす。

な、なんという不意討ち………。


『あやつはまた………神子、もう1度影縛りするか?』

「ふへっ? あ、いや、駄目よ駄目。居間に行こう」


シャドーのおかげで我に帰った私は、熱を冷ますように小走りで階下に降りた。

途中、アイリスが気になって部屋に寄って、ノックをしたが返事がなかった。
居間に着けば彼女の姿もあったので、起きてたのか、と挨拶を交わした。


「さて、シャドーから聞いたけど皆同じような理由かな」

『そうだ。皆神子に会いたかった』

「か、可愛い事を………」


キュンだよもう。キュン。


「うん、皆もさ、今日は大目に見てあげてよ。神様達を私に貸して?」

「………仕方ねぇな。俺も最近出してやんなかったもんなぁ。フラップ、今日はメグミを譲ってやるよ」

『オズワルド………!』

「ゴールド、今回だけだぞ? オレもこれからは偶にはメグミに会わせてやっから」

『キビト………すまなかった』

「…………………」


やれやれといった風ではあるが、空気が和やかになった。
そんな中クロスは私に近付いて、手の平に乗せたアクアを差し出した。
私もシャドーを抱いていない方の手を差し出すと、のそのそとアクアが移って来る。


「…………………」

「ありがと、クロス」

コクリ
「…………………」


無表情ではあるが、なんとなく瞳が優しい。
察したアイリスがオリジンを喚び出している横で、Dが首に巻き付いたトリトンの頭を撫でていた。


「これから朝ご飯の用意だよー。皆手伝ってね」

『任せて下さい!』

「足引っ張るなよ。ほら、行け」

『足を引っ張るなどせん………アダム、悪かったな』

「クク、気持ち悪い事言ってんなよ」


オリジンは半身な為、無理に出て来る事が出来ないらしく、ボルトがフヨフヨと飛んで来て私の頭に乗ったと同時に、煙と共に現れた。
皆揃った所で、スイちゃんの声が聞こえ、私は自分が寝間着だった事に気付いた。


「いけな、着替えないと!」


急いで居間を出て、スイちゃんを呼ぶ。


「今部屋行くー!」


駆け出してしまったから、背後がどうなっていたかは知らなくて。


「メグミ、おは………どうしたのそれ」

「おはよースイちゃん! 今日は神様達と1日一緒なの!」

「まあ、そうなの」

「うん!」


一杯謎の生き物を引き連れて来た私にスイちゃんは驚いたが、直ぐに柔らかく笑う。
着替えをしようと部屋に入り掛けて、スイちゃんの小さな悲鳴が聞こえた。
反射的に彼女を見たが、開けたドアで私には死角になっている先に、青ざめた顔を向けている。
どうかしたかと彼女を呼びながら私もドアから顔を出し、先程の彼女と同じく、「ひっ!?」と悲鳴を上げてしまった。


「「「その着替えちょっと待ったぁああああ!」」」


必死な形相で、廊下を駆けてくる男の群れ。
ビックリ怖い。


「あわわわわわわ」

「ハ! メ、メグミ、部屋に! 部屋に入って!」

「へっ? おっ、おわわわ」


なにあれカチコミ!? とか思っていると、スイちゃんが私を部屋に押し込み、扉を閉めた。


「え? 何今の? え?」

『チッ、気付かれたか』

『早かったですね』

『だがしかし!』

『部屋に入ったもん勝ちじゃ』

『『『神子生着替えー!』』』

「あれ? 私なんか涙出そう?」


神様達は齢幾つか解らないぐらい時を過ごしている。
でも人の姿じゃないからか、失礼だがペットみたいと言うか、動物と接する感覚でいた。

だからまさかそんな下心満載の台詞が飛び出して来るとは夢にも思ってなかったわけで。


「開けろメグミ!」
「トリトン! 俺様より先にメグミちゃんの裸体見たら沈める!」
「ボルト! 今すぐ引っ込めるぞてめぇ!」
「……………退け」


皆が慌てるのと、神様達がほくそ笑んでいるのと、スイちゃんが混乱しているのを見ながら、私は唖然と立ち尽くすしかなかった。

そして次の瞬間。

マイドアが吹っ飛んだ。


「…………………」


マイ、ドアが、え、ドアが…………?
あれ? ドアって何かしら?


『『『ギャー!』』』

「てめぇら! 人が優しくしてやりゃあ!」
「アクア!」
「全員さっさと出ろ!」

「……ふ、ふふっ、ドアって何? 何の為にあんの? 開けたり閉めたり? ふふふ、開けたり閉めたりね、開けたり閉めたり………」

「メ、メグミ?」

「ふふっ、ふははははっ!」

「「『『!?』』」」


ドアってのはなぁ………


開けたり閉めたりするもんだろうがぁああああ!

「「『『ギャァアアアアアア!?』』」」


火事場の何とやら。
惨めな姿のドアをぶん投げた。




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