ちょっぴり涼しくなった今日この頃。水の国は短い冬に入った。
それでも半袖で十分過ごせるけれど。

そんなある日、皆に付き合って、町の鍛冶屋さんへとやってきた。

私も護身用に1つ持っておけと言われ、棚に並んだ小さな剣を眺めている。
しかし、見たからといってどれがいいかなんて解らない。
鉄を打つ、カーンカーンという音を遠くに聴きながら、もうコレでいいやと、適当に手を伸ばした。
だが剣に届く前に掴まれてその手は止まった。


「……………」

「クロス」


私の手を掴んだ手を辿ると緩く首を横に振っているクロスが目に入る。
何の事やらと首を傾げると、私から剣に視線を移し、吟味するように眺め出した。


「何してんだ?」

「あ、オズ」


剣を眺めるクロスを眺める私。
そこに、怪訝な顔で私達を交互に見るオズが加わる。


「いや、剣見てたんだけど、クロスが………何してんのこれ?」

「聞いたの俺なんだけど」


クロスは短剣を2つ、3つ、と手に取り、計4本を別の棚に置いた。
そこでオズに視線を投げ掛けた。


「あー……そっか」

「?」


オズには通じたらしく、クロスが別にした剣を鞘から抜いて、それに真剣な目を向ける。
常に無言のクロスと、珍しく無言のオズ。
その間から、さっきまで店主と話していたDが顔を出した。


「ああ、メグミちゃんの?」

「ん、メグミは小せぇからなぁ………こっちはちょっと長いだろ」

「え、なに、私の?」

「腕ほっそいよねぇ。持てんのかね?」

「え? 私の?」

「……………」

「ああ、これが1番軽いよな」

「ねぇ、これ私の選んでんの?」

「軽過ぎてもねー」

「持たせた方が早いか」

「なにこれ虐め?」


虐めいくない!私を見なさい!
ほら、半泣きだぞこのやろう。


「あは、その顔そそるね」

「キビトさぁあああん!」

「ちょ! 俺様まだ何にもしてないでしょ!?」


発言もセクハラに含まれます。


「なんだ?」

「先生、虐めです。叱ってやって下さい」

「せ、先生………?」

「先生って………メグミちゃん、ちょ、それ俺様に言って?」

「お前それ変態の発想」


いやオズ、Dは変態なんだよ?

と、キビトさんと一緒にシオンも加わって、アレクとリディアさん以外はわらわらと集合。
因みにアイリスとアダムは鍛冶屋に用は無いのでそれぞれ好きに過ごしている。


「……………」

「え? 何、持つ? あ、持て?」

コクリ
「……………」


クロスが短剣の1つを差し出す。頷いたところを見ると私にこれを持てと、そう言いたいらしい。
素直に手に取って、ずし、とした重さに片手で受け取ったそれを危うく落としそうになった。


「わ、結構重いんだね」


今度は両手でしっかり持って、手に全く馴染まない剣をまじまじ見つめた。
刃を手にするその責任を、私はもてるだろうか。何よりも、私はこれで人を傷つけられる?


「難しい事を考えるな」


右から伸びた手が2、3度雑に頭を行き来して、最後にグイ、と左側に押される。
今のは頭を撫でて、軽くこづかれた、であってる筈。


「乱暴だなー。シオンはもう」

「自分が危険だと思ったら迷わず抜け。解ったな?」

「………うん」

「ま、メグミちゃんがそれを使う事は無いだろうけどね」

「?」

「俺様が護るから」

「D………」


Dの言葉に皆がピクリと反応したのに、私は気が付いていなかった。
弱くてすいません。
そんなふうに思って。

怖がってばかりじゃ駄目だ。

強くならなくちゃ。

Dから短剣に視線を落とし、唇を引き結んだ。


そしてまた視線をDに戻した時、



そこは戦場でした。


「ぇえー………」


店主がカウンターの後ろで叫んでいる。それはもう真っ青な顔で。

そりゃそうだろう。
それぞれが店の商品を手に、壮絶な喧嘩(?)を繰り広げているのだから。

きっと私の顔だって青いはずだ。
迷わず耳を塞いで現実逃避を計る事にした。
ガシャー!とか、バキィ!とか、そんな音私には聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

そんな抵抗は無情にもやってきたリディアさんの手によって無駄に終わった。


「メグミさん?」

「わわわわ、私はジョディよ。恵なんて知らないわ、ですよ」

「ジョディでもいいわよ。ねぇジョディ? あれを誰が止めるのでしょうねー?」

「ア、アレクシア皇子?」

「はあ? なんでおれが!」

「お、皇子だから?」

「おま、皇子を、つかおれを何だと思ってんの!?」


だだだだって!見てみなよ!

…………………


カ オ ス

ちょ、シオンとか片っ端から武器投げて、ぁああああ、いつも大人のキビトさんが槍を!槍をブンブン、ブンブン、ちょ、何なんだよこれ!!


「無理ですよ!」

「頑張って下さい」

「死ねと!? 私に死ねと!?」


可愛い笑顔で死刑宣告かリディアさん!


「アレク!」

「馬鹿、おれ1人でなんとかなるかよ!」

「つかなんで戦ってんですか!?」

「知らねぇよ!」


こ、こうなったら!
奥の手よ!


「リ、リディアさん、損害は折半ですからね……?」

「ば! 馬鹿、お前それは!」

「……………なんですって?」

「だから早く止めましょう」

「せっ………ぱん?」

「リディアさん?」

「メグミっ! 逃げろ!」

「へ? わぁっ!? ちょ、引っ張らな、」
「クソガキどもがぁあああ!!」
「!?」


なんか降臨したぁああああ!!
リディアさんに何かが!!

私の手を引いて、アレクがササッとテーブルの下に潜る。


「ななな、リリ、リディ、リディアさんがっ!?」

「お前がリディアにあんな事言うからだ。暫く止まんねーからな。死人が出るぞ馬鹿」

「そんなに!?」


どんだけお金好きなんだよ。


「もうほっとけ」

「ほっとくと言うより既に私にどうにか出来るレベルじゃないからね」


狭いテーブルに縮こまって寄り添う。
あいつら後で説教だな、うん。


「ったく、お前の周りはいつも騒がしいぜ。煩いったらね…………」


呆れ返ったような顔を私に向け、言葉を変に区切って何故か微動だにしないアレク。


「? なに、」
「〜〜〜〜〜っ!!」

「ぇえ!? 何!?」


高速で後退り、テーブルから出てしまった。その顔は茹でダコみたいに真っ赤だ。


「アレク、危ないよ?」

「ううう煩いっ! おっ、女とそんな、くっ、くっついて居られるか! はっ、はしたねーだろ!?」

「………し、新鮮だ」

「ぁあ!?」


どこまでも初々しい。
はしたないって………はしたないって………!!


「純情………!!」

「な、なんだよその目」


肩が触れ合っただけで恥ずかしがるその純真さ!
素晴らしい!なんか癒されたよ!有り難うアレク!!


「うう、過剰なスキンシップが普通じゃなかったのね! 私はおかしくなかった! 私は正しかったんだわ!!」

「お、おい?」

「あ、アレク」

「あ? あがっ!?」

「危ない、よー………遅かったけど」


なんだろう盾? なんか鉄の塊がアレクシア皇子の顔面に命中した。
あ、鼻血。


「ここは我慢して、大人しくテーブルの下に居た方がいいよ」

「そう、だな、いや、やっぱ駄目だろ。お前も女なら少しは恥じらいってもんをだな、」
「あ、アレ」
「ぃぎゃぁああ!?」

「ごめんなさい。遅かった」


間一髪、アレクの頬を掠めた剣。真っ赤だった顔は一瞬で青ざめて、もうはしたないとか恥ずかしいとかの問題じゃなくなったらしいアレクは、ザカザカザカー!と素早く這って、テーブルに戻って来た。

また赤くなってしまった顔に、忙しいな、とクスクスと笑い、ハンカチを差し出した。


「鼻血、拭いて」

「う、受け取ってやろう。感謝しろ」

「はいはい。光栄ですよー」


俺様なのに、純情なんだなー。
はは、可愛いかも。


「………小せぇ……」

「ん? なに?」

「い、いや……お前さ、北で1人だったよな」

「うん。誘拐されたの」

「………は!?」


お、至近距離で見ると肌超綺麗だな。


「誘拐って………白の女王か?」

「うん。怖かったなー。あ、そういやシオンと会ったのもあの時だっけ」


すんごい気味悪いなコイツ、とか思ってた。
………ごめんねシオン。
だってぶっちゃけキモかった。


「………刺されそうだから黙っとこう」

「あ? 何をだ?」

「秘密です。アレクのすけべ」

「すっ、すけっ!? おっ、おれのどこが!」

「ぶふ! 嘘、嘘! アレクほど澄んだ心の持ち主は居ないって」

「澄んだ………澄んでる、か?」


とってもピュアで、癒されます。


「私にはそう見える」

「そ、か………」


あ、嬉しそう。

はっ!また耳と尻尾が……!
ああ、ちょ、かわい、


「……嗚呼、アレク、私、私、」

「へ? なな、なんだ? おい? ちょ、なん!? なんで、近づく!?」


耳が……! 耳が!

ググ、と益々寄った私に困惑したのか、耳が伏せられていく。
※幻覚


「アレクお願い………!」

「はぁ!? や、い、いきなり、そんな、順序ってもんがあんだろ……!? いや! おれも嫌じゃないんだ。寧ろ、その、いつかは、って、だぁああ! 兎に角! まだ早い!」

「え………いつ? いつならいいの?」


伏せた耳が震える。
※幻覚(2回目)

怯えてる………!


「いつって、それは、お前……
おれ、期待して、いいのか?」


ああ! もう………!


「私、もう、我慢できないの………!」

「っ! そんなに………?」


た、た、


「気持ちは解った、いいぜ。自分でも驚いたけど、おれ、今、すげー嬉しい」

「アレク!」


たまらんです!


「メグミ………おれ」
「かんわいいー! 可愛い! 可愛いよアレク! よしよし、一杯ナデナデしたげるー!」

「……………」

「撫でられるって意外と気持ち良いんだよね! 解る、解るよー! アレクも撫でられるの好きなんだね!」


この犬っころめ!
可愛すぎるぜ!


「か、勘違い………」

「え? なんか言った? うわ、髪の毛ふわふわー! 男の癖になんでこんな……羨ましいなオイ」

「ちょ、や、やめろよ」

「ええー、いいって言ったじゃーん!」

「あれは、違う。つか、勘違いかよおれ……ハァー」

「気持ち良くない?」

「き、気持ち良いわけねーだろ」

「………よし、尻尾揺れてるわ。アレクの嘘吐きー。嬉しい癖にー」

「ば、馬鹿ゆーな! いい加減にしろ!」

「あ」
「あ」


ふわふわの赤髪を堪能していた私の手は、アレクの手に払われて、パシン、と思いの外いい音を立てた。


「……………」

「うっ………わ、わり」


そんなに……嫌だったのか。
尻尾も当てにならないね……。


「………ごめん。もうしない」

「しゅ、しゅーんてすんな……!」

「え?」

「い、いや、あ、頭、撫でるの好きなのか?」

「んー、ううん。そんな事ないかな。あのね、」


こんな事言ったら失礼かな……。


「アレクだから、撫でたいの」

「っ!」


あと、アイリスとか、サラとか、オズとか、意外な所でクロスとか。
撫でたい衝動に駆られる時が。


「だ、騙されねーぞ。今度は騙されねー!」

「な、何が?」

「あれだろ? さっきみたいに髪に触りたいだけとか、そんなんだろ?」

「違うよー。勿論綺麗で触りたいとも思うけど、アレクは可愛いんだもん」

「可愛いって……男に言う台詞じゃねーよ」

「そうだよね……ごめん」


やっぱり男の子は可愛いって言われても嬉しくないよね……。
私個人はいいと思うんだけどな。可愛い人。


「うっ、だからしゅーんてすんな……!」

「え?」

「い、いや、」


あれ? なんかデシャヴ……?

<< >>
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -