とってもお天気のいいある日の午後。私は食堂に皆を集めた。


「第1回、夕方になっても見つけて貰えなかったらそれは影が薄いって事じゃないのか、あれ? 目から心の汗がでちゃうよ大会ー!!」


ババーン! と効果音を背負っているかのように高らかに言い放つ。


「………なんて?」

「いやだから、夕方になっても……かくれんぼです」


冷たい視線に恵、心が折れてしまいそうです。
ようはかくれんぼしようよ!って事です。はい。


「かくれんぼって何?」

「子供の遊びです。皆で隠れて、探す人が1人居て、あ、鬼って言うんだけど、んでもって鬼に見つからなかったら勝ちっていう遊び」

「へぇ、面白そうだね」

「そうでしょー? さっすがD! 解ってるぅ!」

「それもメグミの世界の遊び?」

「うん! 今日は皆でかくれんぼしようと思って!」


今朝、ご飯食べながら思い付いたんだよね。
まだ皆と馴染みきっていないキビトさんとか、シオンとか、アレクとか、シオンとか、アレクとか、シオンとかが交流を深めるのに、いいかなって。


「意味が解らん。己れはやらん」

「またシオンはー、我が儘ばっかり言ってるともうプリン作ってあげないよ」

「っ! そ、それは………」


以外にも甘党のシオン。プリンは彼の大のお気に入りなのだ。
てゆーかあんたの為の企画みたいなもんだからね!?
不参加とか意味ないじゃない!


「チッ、仕方ない。その代わり晩飯にぷりんを出せ。それで手を打ってやる」

「うん、偉そうだけど、たかがプリンに釣られてるのは恥ずかしい事だからね?」


拙い言い方の“プリン”には激萌えだけどね。うん。自重しようか私。

よし、シオンをクリアしたなら次に嫌がりそうなのは………、


「お、」
「アレクシア、侍女さんに頼んで向こう3日間接触を自重させる」
「……………」

「メグミすげぇ………」


一言の反論の余地も与えず、アレクを黙らせた。積極的な侍女達に、初な彼が日々参っているのを知っている。
因みに感心の声を上げたのはオズだ。


「他にやりたくない人は? 居ない? 居ないね?

よし、舞台はこのお城全部! 範囲が広いので鬼は2人! 神の力も精霊の力も使用禁止! 以上!」


ばらつきはあるものの、返事が返ってきて、満足して1枚の紙を差し出す。

あみだくじを作ったのだ。
私って用意がいい!


「はい、どの線がいいか選んで」


それぞれが名前を書いて、次に折り曲げてあった紙の下部分の鬼の印から線を上に辿っていく。

結果、


「はい! アレクとキビトさんが鬼です! じゃあ、100数えて下さい。その間に皆は隠れまーす!」

「鬼、ね」

「若干キビトさんが怖いけど、第1回夕方に、もういいや。かくれんぼ大会開始ー!」


ウキャー! と部屋を飛び出す。オズとDとアイリスは楽しそうだ。
付き合ってやっている感バリバリのアダムと、無表情のクロスもちゃんと参加。

どこに隠れようかなー!
かくれんぼなんて何年ぶりだろ。
小さい頃はよくやったなぁ。


「私が隠れそうもない所がいいよね………サラのとこ、厨房、鍛練場、は駄目ね」


既に散り散りになって、私は1人、廊下をひた走る。
私が行きそうもない場所、と言えば身分の高い、例えばサラの血縁関係の人達が居られるような所だが、そこに行くにはちょっと勇気がない。

と、たまたま中庭で談笑する兵士と侍女が目に入った。


「丁度いいかも! おーい!」

「あ! メグミさん!」

「おはようございます。今休憩中ですか?」

「ええ、メグミさんは今日は何をなさってるんですか?」

「かくれんぼです!」

「かくれんぼ?」

「はい! 何か隠れるにはもってこいな場所ありませんか?」


顔を見合わせた兵士と侍女。
次いで侍女の方が頬に手を当て、「そうですねぇ………」と思案顔をする。兵士の方も腕を組み、「隠れる場所………うーん」と考えてくれて、此処の人達は皆いい人だな、としみじみ思う。


「あ! そうだわ、私達の休憩室はどうでしょう?」

「確かに行った事ないです」

「おい、メグミさんをあんな所に連れて行っていいのか?」

「あんな所ってどういう意味よ! まあ、確かに、使用人用だからメグミさんには相応しくないかも知れないけど……」

「そんな事ないですよ! 行ってみたいです。でもお邪魔になりませんか?」

「とんでもない! 皆喜びます」

「じゃあ、お願い、してもいいですか?」

「はい!」


かくして、私は使用人の休憩室へと身を隠す事になった。
休憩中の侍女達がお茶をしながら世間話をする中で、ちゃっかり私もご馳走になる。
兵士の誰それが侍女の誰それと付き合ってるだの、懸想してるだの、どこどこの花屋のイケメンおにーさんが結婚したなど、彼女達の広い情報網には感心さえしてしまう。


「おい! お医者さまが来た!」

「まあ! メグミさん隠れて!」

「んぐ、あ、あい!」


兵士が休憩室に飛び込んで来て、慌てて咀嚼中だった焼き菓子を飲み込む。
皆が慌ただしく私を木箱に押し込んで、ガタガタと椅子の音が響いた。
そしてノックの音。
一瞬静かになったものの、誰かが返事を返し、次いで扉が開く音。

ドキドキと脈打つ心臓が、私の緊張を表していた。


「失礼。ちょっと中を見せて貰えるか?」

(!)

「ど、どうなさいました?」

「いや、探し人を………メグミを知らないか?」

(なんで私特定!?)

「いえ、見ておりませんわ」

(あああ、侍女さんごめんね!)


嘘を吐かせてしまった。
心苦しい。


「………中を見ても?」

「え、でも………」

「見せて貰うだけだ。駄目か?」

「きっ、〜〜〜〜〜どうぞっ!」

(おい!)


侍女さんは今、明らかに悲鳴を上げかけた。多分、キビトさんの大人フェロモンにやられたに違いない。

あっさり許可出しちゃったし!ちくしょう女の友情なんて!私の謝罪を返せ!


「………ここか」

(ぎゃぁあ! なんで直ぐ解るのよ!?)


ちょっとの間を空けて、間近で聞こえた声。
真っ直ぐに、木箱に向かって来たと思われる。

そして空いた蓋からの光によって私の姿を露にする。


「フ、隠れるのが下手だな」

「むー! なんで直ぐ解ったんですか!」

「おめぇの気配はだだ漏れなんだよ」

「忍者じゃないんだから、んなもん消せませんよ」


ていうか、それかくれんぼのレベルじゃないんですけど。気配で探すって遊びにならないよ!


「私が甘かった………」

「クク、残念だったな。見つけたらどうすりゃいいんだ?」


そうでした。この人達は常人じゃないんでした。
ため息吐き吐き、箱から這い出る。


「全員見つけたら鬼の勝ちですよ」

「あー、そりゃ面倒だな」

「私も着いて行っていいですか? 皆が何処に隠れたのかちょっと興味ありますし」

「ああ、いいぜ」


ぽーっとキビトさんを見つめる侍女さん達にお礼を言って部屋を後にする。
キビトさんいわく、1番見付けやすいのはアイリス、1番厄介なのはシオンだろうと予想しているらしい。
私を除いて、だが。


「アレクは?」

「……………別行動だ」

「そうですか。まあ、その方が効率いいですからね」


言いにくそうに目を反らしたキビトさんに、気にしてないふりをする。
まだまだ、彼等には距離がある。それでも最近は険悪になったりしないから、少しずつ、縮められたらいい。


「チッ、どいつもこいつも可愛げがねぇ。遊びに本気になりやがって」

「あはは、気長に捜しましょう」

「………フ、ああ、そうだな。それがいい」


ぽんぽんと頭を撫でられる。子供扱いされているけれど、不快には思わない。


「ん? ………クク、解りやすい奴だな」

「え? おわ!?」


バッ!と勢い良く後ろを振り向き、いや、正確には後ろの天井を見たキビトさんにびくっ、と肩を揺らす。


「よう。覗きたぁ趣味が悪いな」

「へ? あ! シオン!?」

「チッ、己れともあろう者が……」


天井の角に張り付いたシオンは、スト、と実に軽い音を立てて床に降り立った。
だから、お前それ法則に逆らってるから。
天井に張り付いてる人初めて見たよ。


「………なんなのこの高度なかくれんぼ」

「おい、クソガキに協力して貰うってのは有りか?」

「うーん。本当は駄目なんですけどいつまでたっても終わる気がしないんで特別に許可します」


このままじゃ明日の朝になっても探し続ける羽目になりそうだ。


「………流石に近くなければ解らんな」

「んじゃこの近くには居ねぇって事だな」


強力な助っ人、シオンが加わってからは立て続けに2人、オズとアダムを見付ける事が出来た。
オズは身体が大きいから、隠れる場所自体少ないだろうと私が予測すると、キビトさんが外の可能性が高いと判断。で、中庭でシオンが気配を辿って発見。
アダムは隠れる気がないのかなんなのか(気配は消していたそうだ)、ハートを飛ばす侍女に囲まれていた所をたまたま発見。


「あんたは何してんのよ」

「クク、嫉妬か?」

「馬鹿ですか。かくれんぼの趣旨を理解してますか。
してませんか。そうですか」

「オレはお前以外いらねぇよ」

「私はかくれんぼをしている人以外今はいりません」


適当にセクハラを躱していると、此処でアレクとアイリスに遭遇。


「メグミ!」

「あー、アイリスはアレクに見付かっちゃったのね」

「これって中々悔しいのね!」

「うふふ、そうね」


ヤバい、にやけるのを止められない。
だって、

アイリスの小さな手を引いているのはアレクだから。


「………オラ、変態女んとこ行け」

「メグミは変態じゃないよ。ちょっと変なだけよ」

「うん。心の汗って塩っぱいね」


サラー!と、心の傷を癒して欲しくて叫びそうです。


「あとはディーノとクロス騎士、か」

「クロスだったら……鍛練場?」


煙草を取り出したキビトさんにクロスが行きそうな場所を述べる。

鍛練場に向かって、クロスは見付からなかったけれど、意外にもDを発見。


「ずっるいよー! 黒っち裏方専属じゃん! 専門家には適わないっつーの!」

「……いや、貴様は中々だった。今までで1番労した」

「え………あ、そりゃ、どーも」


シオンとD。

シオンは少し、口端を上げて。

Dのはにかんだ笑顔は作ったものじゃなくて。

泣きそうになった。


「………メグミ」

「ん?」

「あー、なんだ、その、良かったな」

「………やめてよ、もう」


私を泣かせたいのかオズ。


「では、クロスが勝者か」

「もう日が沈んじまうしな」

「あ」

「?」


アダムとキビトさんの会話にサッと青ざめる。


「大変、私、終了時間決めてない………」

「「「……………」」」

「あは、取り敢えず、宮に戻ろうか。夕飯時になれば流石に無口君も戻ってくるんじゃない?」

「そ、そうよね。うん。そうだよね」

「………」

「誰か頷いてぇえええ!」



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