これは一体どうしたことか。

目覚めた私は困惑の中にいた。
















最初見た時は、あ、夢か、って思ってまた瞼を落とした。
で、鈍った頭で考えて、も1回薄目で見てみても、変わらなかった景色。

いやいやいや。


「………………え、何これ? これ何?」


私はまた寝ぼけて部屋を間違えたのだろうか。

だって私の目の前に、すやすやと寝息を立てる端正なお顔がありますよ。
何で一緒に寝てんのよ。
しかも悲しいかな、寝起きに見慣れてしまった人達と、違う。


「シ、シオン………」


彼は私の寝床に潜り込むなんて事しない。
でも現在進行形で、眠るシオンは私の隣に居る。
いやでも現実を見なくちゃならないようだ。

と言うかシオンの寝顔初めて見たな。
この人絶対寝顔を他人に晒さないイメージなのに。
無防備な寝顔はまあ、可愛いんですけどね。
イケメンは寝ててもイケメンか。
って、見惚れてる場合か!

向き合っていた私はここぞとばかりにシオンの寝顔を堪能していたが、それどころじゃないとはっとし、もそもそと寝返り、ベッドから出ようとした。
シオンが起きたら怒られる気がするからだ。


「ん……………」

「!?」


身を固くする。
背後のシオンは小さく呻いたかと思えば、私の腰をガシリと捕まえた。

ちょ、なんで引っ付く!?


「何これ何これ何これ」


項を寝息が擽っている。
朝からなんだ、何プレイだこれは。
てか暑い! 暑いなおい!


「暑………暑い?」


シオンとくっ付いている背中がなんか異様に暑い。
いや、熱い。


「シオン?」


気付けば、寝息も少し荒い。
まさか、と私は勢い良く起き上がった。

色白のシオンの頬が、僅かに紅潮している。
おもむろに額に手を置くと、シオンは身動ぎした。

熱い、と思う。多分。


「ぅ…………ん」

「あ、ごめん起こし、っ!」


薄く開けた瞼と、焦点の合わない目。
なんかこう、色々な要素が重なって、ただ事じゃない色気が発散されているんですが。
思わず顔を背けた。


「だ、大丈夫?」

「…………?」


鼻を塞いでチラ見する。
鼻血出そうなんですよ……!

シオンはまだ状況が解らないのか、ぼんやりと私を見上げている。
起き上がって解ったのだが、此処は間違いなく私の部屋だった。
部屋を間違えたのは、シオンの方だ。


「あの、シオン、熱ある?」

「……………メグミ?」


擦れた声で、名前を呼ぶ。
それだけ。

それだけなのに、心臓が跳ねた。


「っ、えと、うん、はい」


顔に熱が集中して、ドキドキして、上手く口が回らない。


「……………メグミ」

「ちょー!?」


やややややめてー!
心臓が! 心臓が爆発する!
そしてそこはだめー!!

腰に回ったままの腕に力を入れて、シオンは私のお腹に顔を埋めた。
お腹は、お腹だけは勘弁して下さい。そこはコンプレックスの塊なんです。


「ん……………」

「ん………じゃねーよ! ちょっシオン、オッホゥ! すっ、スリスリすんな!」


猫か! 擦り寄って来んな!


「メグミ………寒い」

「え」

「………熱い」

「どっちだよ!」


突っ込んでからため息を吐く。
熱くて寒い、風邪かな。
最近私達の間で流行ってたし、例に漏れずシオンにも巡ってきたのだろう。
熱あるんだろーな。
お腹に感じるシオンはやっぱり熱いしな。


「シオン、水飲んで。キビトさんを呼んで来るから」

「………嫌だ」

「子どもか」

「メグミ、行くな」

「……………きゅんが、きゅんがスゲェ」


なんだこのシオンは。
何処から来たんだ。

普段のつんけんした態度からは予想もつかない、子どものように甘えるシオンが可愛い。異様に可愛い。果てしなく可愛い。



「シ、シオン、水は飲まなきゃ駄目だよ。汗凄いよ」

「いや、だ………」


腕に弱々しい力を込めて、ギュウ、と腰にしがみ付く。

ぁああああぁああああぁあ!
私をどーしたいのこの子ー!
弱ったシオンがここまでの破壊力を持つとは………侮り難し、風邪!


「水、水持って来るだけ。すぐ戻って来るから。ね?」


尚も顔を埋めたまま離れないが、まじで汗が凄い。
着替えもした方がいいかもしんない。

病人にあまり強くは出来ないので、やんわりと腕を外そうとしたが、意外に離れない。
さて困った。
この可愛いシオンをどうしたもんか。


「今何時だろ………げ、4時」


違和感に早く目覚めてしまったらしい。
スイちゃんを頼りにしようかと目論んでいた私は、あと1時間以上は彼女が来ない事に項垂れた。


「もーどーするよこれ………うひぃ!? ちょ、シオン何して、ぎゃぁ!」


ため息混じりに呟いていると、もぞもぞと肌に手が這う。
シオンは服に手を突っ込んで、腰辺りを撫で上げている。鳥肌が立った。


「何、何してんの!? ちょっ、擽ったい!」

「寒い」

「聞いた! それさっき聞いた! わわ、ばか、擽ったいんだって!」


身を捩る私が鬱陶しいのか、シオンは「動くな」とわざわざ身を起こして言った。
そしてあろう事か、そのまま、


「え、病人? 病人だよね?」


私を押し倒したのだ。

押し倒した、なんてちょっと甘美な響きだが実際、ベッドの弾力で頭が弾み、舌を噛んだとあっちゃ甘美も何もあったもんじゃない。
そして私を組み敷いているこの黒髪美男子は、本当に風邪をひいているのか疑わしい。
病人の力じゃねーよこれ。


「寒い」

「3回目ー!?」


解ったよ! それはもう解ったから!

ずし、とシオンの体重が私にのし掛かる。
お、重い………。


「あったかい」

「たがら服をまさぐるなー!」


私で煖を取るなー!

もうこの頃には必死だった。
病人だとかそんなのは頭から抜けて、全力でシオンを押し返していた。
ま、微動だにしなかったけどね!

で、必死で抵抗する事暫し。

そうだな、むにっ、と音で表したら解りやすいだろうか。


「ぎ、ぎゃぁあああ!」


そう、シオンの手は私の胸に辿り着いたのだ。
その手は私が掴んでそこから剥がそうとするのも意に返さず、ゆるゆると動き続けている。
私は寝る時下着は着けない派なのだが、この時ばかりは後悔した。
だって直に………それにこう、なんか変な感じがすると言うか。むずむず、と言うか。擽ったいのとはちょっと違くて………とにかく妙な感じ。


「シシシシオン! んっ、やめ、っ、ふぁっ!?」


ビクン、と身体が跳ねて、一瞬何が起きたか解らなかった。
自分の口からは鼻に掛かったような変な声が出て、自分で自分に驚いたせいもある。

だけどシオンの手が、いつの間にか服を捲り上げていて、私の胸を掴むその様が視覚に直接届き、突起を摘んだのだと解った。


「シオ、っ、や、んんっ!」


耳元では、荒い息。
シオンの手は動き続け、
私は口元を覆っていて、
頭はゴチャゴチャに混乱している。


「ハァ、メグミ………柔らかい」

「っ!」


だがこのシオンの発言が、私の冷静を呼び覚ました。
これがなかったら、このまま抵抗という抵抗を出来ずに、シオンの好きにされるがままだったかもしれない。
だけど言ってしまったのだ、彼は。
私の温度を一気に下げる、一言を。



へっ、変態ぃいいいいい!



宮中に轟かんばかりの絶叫を上げて、最初からこうすれば良かったと思う。

だってシオンは慌てて私の口を塞いで、チッ、と舌打ちしたのだから。














(チッ、て! チッ、て!)
(何の事だ)
(貴様正気かぁああああ!)
(…………何の事だ)
(シオンの嘘つき! 嫌い!)
(!!)


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