何となく見つめてしまっていると、シオンはふと顔を上げた。その表情は、何故か不満気で。


「……………何故2つしかないんだ」

「ぇえー……普通1つづつだと思うじゃん。もっと食べたかったんならそう言っておいてよ」


どんだけ甘党なんだよ。


「そうじゃない。金は余分にやったのに通りでおかしいと思えば………」

「ああ、だからあんなにおつりが………ってだから先に言っとけっての!」


ケーキと一緒に渡したおつりはまだあと2つぐらいは買えそうな額だった。


「だからそうじゃない。貴様の分だ」

「えっ!?」


な、なんだその気遣い。

ぱちぱちと瞬きを繰り返す私にシオンは盛大なため息を吐く。


「座れ」

「あ、うん………シオンありがとね。でもいいよ。私の分はまた今度給金で買うから」


さっきから嬉しい驚きの連続だ。

顔がだらしなく緩んでしまっているが、もはや直す気もない。


「……………フン、やる」

「へっ!? ちょ、うそっ! シオン熱あんじゃないの!?」


甘味はシオンにとって命の次に大事な物だと私は認識している。

それを、人に寄越した。

あのシオンが、

命の次に大事な甘味を、

人に、

人に、


「しつこい」
「へぶっ!」


顔面を叩くなぁああああ!!


「食わないなら返せ」

「わぁ! 食うっ! 食います!」

「フ、」


密かに食べたかった。
いいとは言いつつ、欲望に負けた私は素直に残ったフランに噛り付いた。


「おいひー………」


人間、美味しい物を食べれば戦争なんかしなくなるんじゃないかと思う位、幸せな気分だ。


「ガキか」

「んん?」


クク、と喉を鳴らして笑ったシオンを見て首を傾げる。

あれ今貶された?


呟きを拾って多分貶されたと判断しようとした私だったが、シオンの顔が段々近付いてくる。

目を見開いてなんだなんだと上体を後ろへさげ、距離をとろうともシオンは止まらず、
後ろにひっくり返りそうになった瞬間、


「のあっ!?」


片手で素早く私を支えたシオンの唇が頬に触れた。

そのまま、ぬるりとした感触が頬を撫で、一気に顔に熱が集中した。


「なな、な、今っ、」

「ソートが着いている」


ソートって何だっけ。
あ、クリームだ。
そうかクリームが頬っぺたに着いてたか。
それは恥ずかしいわよね。


「ってちげぇえええ!」

「っ喧し………」

「ななな舐めた! 今シオン舐めたでしょ!」


なにそれ勿体ない精神!?
甘味はそれほどまでにシオンを魅了してんの!?


「煩い黙れ」

「だっ、んぅ!?」


あと2口残ってたフランは私の手から滑り落ちた。

ベンチから落ちそうな体制のまま支えた手は使えなくて。


「んー! はっ、や、ふぁ!?」

「ハ……………」


突然過ぎて私の口は僅かに開いていた。
そこにすかさず滑り混む何か。

口の中に残る甘味を堪能するかのように、
口内を動く、

これは、シオンの………?


「んあ、んっ、」


キスされた、それは解ったがこれは初体験だ。
吃驚して逃げる私の舌を追いかけて、絡め取るシオンの舌に背筋がぞわぞわする。

息苦しくて、フランを持っていた手で胸を押し返したが、それは弱く、
身体を支えていた筈のもう片方の手も力を失って、ベンチの背に乗せているだけになっていた。

息、できない。

なにこれ、
あたま、
ぼーっと、してくる。


「ふ、………ん、ぁ」


さんけつ………?


「ん、ふはっ! ハァッ、ハァッ、」

「ハァ、メグミ………」


もう限界だ、と頭を過ったと同時に呼吸を奪っていたシオンの唇が離れた。

最後に啄むように音を立て、熱い吐息が私の唇に掛かる距離で呼ばれる。

肺に酸素が、兎に角求めてやまなかった酸素が取り込まれ、大きく胸が上下する。

くらくらするし、今のが何だったのかも理解出来ない。
ただ荒い息を繰り返し、勿論身体に力なんて入らない。
ぼーっとシオンを見上げるだけ。


「っ、い、息継ぎぐらいしろ阿呆」


シオンの片手が私を起こしたけれど、力なくそのままシオンの胸に寄り掛かってしまった。

そして鈍った頭が段々とその役目を取り戻し始める。


「ハァ、ハァ、い、今………」


大変だ。

今の私ならお湯を沸かせる。

笛つきヤカンのピー!という音が頭の中で響くのが感情とリンクしている気さえする。

一際高く、大きく、脳内を音が占めたと同時に、
私の感情も爆発した。


「いっやぁああああああ!!」


なんか奪われた!
何か解んないけど私の何かが奪われた!


「っ! おいっ!」

「なんかもう死ねるぅうううう!」

「待てメグミ!」


ごちゃごちゃのぐちゃぐちゃのまま駆け出して気付けば、私はスイちゃんに泣き付いていた。


















(うわぁあああん!)
(な、何があったの?)
(失ったのよ!)
(何かを失ったのよぉお!)
(お、落ち着いてメグミ)


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