クリスマスについて、知っている事を述べよ。

私は数分前、そう言った。
それって、理解を促す材料になる可能性はあっても、ややこしくなる可能性なんて皆無だと私思うんです。
思っていたんです。
それが――


証言1、オズワルドさんの場合。
なんか知らないけど世間はくりすますとやらに浮かれている。

うん、はい、大体と言うか全然知らないのが解りますね。

証言2、アレクシアくんの場合。
なんか知らないけどケーキが食えるのか。

もうこれはオズワルドさんより酷い例です。お前は世間にどんだけ隔たりがあるんだと呆れずにはいられませんでした。

証言3、クロスさんの場合。
…………………………?
首こてん。

上手が居ました。もうなんか訊いた私が悪いとさえ思いました。

証言4、シオンさまの場合。
ケーキが食える日。

はい、最早腹立たしいですね。私以前にこの人に、近々クリスマスってお祭りみたいな行事が合って、ちょっとしたパーティーでもしたいんだよね、と漏らした事があるのに、ケーキの前に消し飛んだらしいです。既にケーキしか見えないらしいです。

証言5、キビトさんの場合。
そういやぁ、祭りみてえな行事があるって言ってたな。

キビトさあああぁ……!
酷い例の後に感動を禁じえなかったのは言うまでもありません。

証言6、ディーノ親分の場合。
アキラが言うにはぁ、恋人がいる俺は勝ち組だってー。

兄貴爆発しろ。

証言7、アダムさんの場合。
早い話が、恋人と過ごす日なんだろ? だから##name_1##、でーとしようぜ。

思わぬ口説き文句に私うっかり乙女化しました。しかしそこは俺様何様アダム様。続きがありました。不意討ちにドキドキする私にこの俺様野郎は――

どーせ誰にも誘われてねーんだろ? 仕方ねぇからオレが相手してやるよ。

――と宣いやがりました。
当然、誰が貴様なんかこっちがお断りじゃあああ! と持っていた上着を投げつけました。モテ男爆発しろ。

証言8、ユーリさんの場合。
この国では恋人の行事という認識が強いようですが、メグミが言いたいのは、さんたくろーすについてでしょう。確か深夜に忍び込んで来るんですよね。

合ってる、合ってるけど、何故そこを抜粋したんでしょうか。故意? 故意なんですか?

で、まあ、案の定、私以外の皆に、衝撃が走りましたよね。はい此処でサンタ不審者に決定。施錠点検とか始まりましたよね。バリケード作り出したから止めましたが。

何て言うんですかね。時間の無駄って言うんですか。こう、徒労感いっぱいになりましたよね。
それで私は結局、


「アイリス、いい? 今の全てを忘れて、私の話だけを信じて。トラストミー」

「う、うん?」


余計解らなくなった上にちょっとした畏怖まで加わったアイリスの両肩に手を置き、真顔でとくとくとサンタクロースの説明をいたしました。正に時間の無駄。


「なあメグミ、おくりものってのは名ばかりなんだろ? 中身ほんとはばくだんなんだろ?」

「どうしてもサンタをテロリストに仕立て上げたいのかお前は」


回想ですら徒労感に溢れていたと言うのに、私の話まで役立たせずとは、オズの頭はどうなっているんだ。今の話を聞いてどうしてそういう結論に至る。
どうも浮き足立っているオズやアレク、シオンやクロスに、違うとよく言い聞かせた。私の言うところのサンタクロースの、忍び込んで、の部分しか合ってないのに、ほらやっぱりみたいな顔をされて、否定を何度口にしたことやら。違うっつってんだろだからバリケードはもういい! D、なぁんだ詰まんなーいってなに! お前の頭はもっと詰まれ! なんだこの困った人達!
こうなると、ついキビトさんに目が行く。お父さんからも何とか言ってやってくださいよ。私の視線だけの訴えを受け、黙していた彼の口が開く。


「どんな理由にしろ、勝手にうちぃ入って来る時点で不届きもんだ。見付け次第即刻縛り上げて」
一番厄介な人が此処に居たー!


貴方もそっち側とは思ってもみなかったぁ………!
キビトさんの事だ、話を聞いてないって事はないだろう。聞いた上で、冷静に判断し、それ故にサンタイコールやっぱり不審者と答えを出したに違いない。
従者最中にサッと縄を差し出したクロスに、満足気に頷き、受け取ろうとしているこのお医者様が、だから一番厄介。どう説明すればいいんだ。取り敢えず縄ははたいて床に叩きつけといたけども。


「あのですね、サンタはいいんです。サンタは例外。特例です特例。だから捕まえちゃダメです。クロスめっ!」


世の子ども達から非難受けますよ!
なんとかキビトさんに言い募り、ついでに縄を無言で見つめていたクロスが、そろりと手を伸ばしたのに、短く注意も飛ばす。クロスのいつもより低い位置にある身体が、小さくびくっと震えそのまま固まった。
何の説明にもなっていない私の言葉を、きょとんとした顔で聞いていたキビトさんは、そのクロスを一瞥した後で、少し眉根を寄せる。


「特例……」

「そう! サンタは特例! 無条件に家宅侵入可なんです!」


今にも唸りそうなくらい口を曲げ、悩まし気に眉間に皺を刻み、憮然とした表情を作ったキビトさんを見て、改めて一筋縄ではいかないと感じた。全然納得してないよこの顔は。このままではサンタクロースにあらぬ疑いが掛けられたままに……しかし私の説明じゃ説得出来る気がしない。えええどうしようこれ。


「………時間」

「へ?」


不意に挟まれた澄んだソプラノ。振り向けばテーブルに居たユーリと目が合い、彼はにっこりと可憐に笑んだ。きゅん。


「無くなりますよ?」


つい釣られて頬を弛ませそうになる私に、ユーリは微笑顔のままそう言った。瞬きすれば、すっと私の背後、斜め上を指で指し示す。そこには壁掛け時計。短針と長針が示す時刻を見て、わあと思わず声を上げた。


「いつの間にこんな時間に!」

「おまえがくりつますの話をし始めたん」
「アレク置いてくよ」


あの散々な無知具合披露した上にクリスマスも言えないキミに言われたくないわ!
アレクが閉口したのをいい事に、上着を着るよう指示して、急いで鞄を肩に掛ける。ああ、そうだ。


「ユーリ」

「はい?」

「ありがと」


ユーリの助け船がなかったら、私は現在進行形で困っていたと思う。袖を通していた彼が、あどけない顔を更に幼くして瞬いた後、困ったような、それでいて柔らかい、笑顔を見せた。これは……照れている!


「はわわわわかんわいいいい! 見て可愛い! 見てキビトさん可愛い! ユーリが可愛い!」

「ああ、うん……うん」


キビトさんの腕をばっしんばっしん叩いて悶える。若干疲れた顔をしている気もするが、されるがままにしてくれる。惚れそうです。


「メグミ着にくい。着せろ」

「よしきた」

「メグミちゃん今なら何でもしてくれそうだね……」


だって、可愛いって反則だと思う。



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