メリクリー、と単調かつ冷たく述べて、直ぐ様電話を切った。どうにも甘い物を食べたくなったので、昨日のポッキーを一袋開けた。そしてポッキーをモシャモシャする私は、考えていた。


「クリスマスかぁ……」


兄の迷惑な電話はともかくとして、今日ならケーキくらいは用意できる。昨日はそれどころじゃなかったけど。
私の呟きを耳聡く拾ったのは、シオンだ。聞いていないようで聞いてたりするから侮れない。


「そう言えばそんな日があるとか言っていたな。今日だったか」

「うんそう、今日と言うか昨晩からと言うか」

「ああ、だからアキラが」

「うんそう、無駄にテンション高いの」


Dの納得の声にぼんやりと答えながら、何処のケーキ屋に行こうか考える。駅ビル地下のケーキ屋さんが中々美味しいんだよなー。残ってるかな、毎年割と早く売れちゃうんだよね。夕方まで保つかどうかってぐらい。


「急いだ方がいいかも。ケーキが、」
「けーきが?」
「物凄い早さで反応したよこの人」


シオンさんの甘い物への過敏な反応速度には毎度びっくりです。
せっかくだから、と述べると、何がだ? と聞き返された。あれ、せっかくだから何だろう。


「せっかくだから、ケーキでも食べとこう?」

「訊くな。だから何がせっかくなんだ」

「………せっかくクリスマスだから?」

「訊くなと言うに」


椅子にふんぞり返るシオンは、もういい、と溜め息を吐いた。これ以上話を続けたくないとばかりに、お茶を傾ける。それから眉を顰めた。緑茶は苦くて、彼の舌には合わないのだそうだ。好き嫌いはよくないぞシオンくん。


「まあいいじゃねぇか。けぇきなんて、滅多に食べられねぇもんが食べられんだぞ? いつも買って欲しそうにしてんじゃねぇか」

「おう、そうそう、すーぱーに行くといつも」


スタン、と歯切れの良い音を立てて、床に座ったオズとアレクの間に、フォークが刺さったと同時、2人の口がピタリと閉まった。
青ざめた私と同じく、言い出しっぺのオズも、乗っかちゃったアレクも、びよよよーんと振動するフォークを横目に一瞥してから、顔色を無くした。
あぶ、あぶねええぇ! うっかり私も乗っかりそうだった今……!


「な、なんだよ、ほんとのことだろー!」

「食べたくないのかよ!」


そして一拍おいて、2人が抗議の声を上げた。それをシオンは子どもらしからぬ冷たい目で流し見る。


「誰も食いたくないとは言っていない」


うん、相変わらずのツンデレでいらっしゃる。
昨日の素直なシオンもいいけれど、やはり此方の方が馴染み深い。これぞシオン。
なんだよなんだよと不満を曝す2人に、溜め息吐きつつ、立ち上がる。アイリスが子どもねぇと漏らしているのが、滑稽以外の何物でもない。


「てことで、一緒に行く人ー」


はい! と手を上げたのは略全員である。シオンの無言ながらの挙手に吹き出さない私の自制心すごい。床に綺麗に正座したクロスの華麗な挙手にも耐えた私の自制心半端ない。
しかし全員は無理だ。キビトさんとアイリスは挙げていないけれど、それでも私1人でこんなにわんさか子どもを連れて歩くのは、荷が勝ち過ぎる。


「いやせめて半分にして」

「じゃんけん!」

「オズが可愛いどうしよう」


え、中身戻ってるよね?
グーを高々と上げたオズは、どう見ても可愛い少年である。言動が。
名残? 戻りきってないのか?
私が目を凝らして見つめる先で、じゃんけんが始まった。が、え、普通にかくれんぼでも始めそうな感じなんですが。何この微笑ましい絵。ときめく。


「子どもが集まってると可愛い……」

「っしゃ、勝ったあ!」

「あーあ負けちゃった」

「…………………」

「クロス騎士、悔しいのは解りますが物差しを構えるのはどうかと思いますよ」

「チッ………いいじゃないか。じゃんけん等、こんな生温いやり方で決めるより、やはり勝負は勝負らしく、腕で競うべきだろ?」

「貴様負けたからといって、女々しいにも程があるぞ」

「あん? なんだ闇の一族は自信がねぇのか」

「なんだと……?」

「お、やんのかやんのか」

「やはり一筋縄ではいきませんか」

「いいねー、いっちょまとめて始末したげるよー」



「……………可愛いか?」

「ごめんなさい以後発言には気を付けます」


なんで放っておくとそう血生臭い展開になるんだこいつらは。
キッチン前に並んだ私とキビトさんは、一緒に肩を落とした。脱力するよほんとに。


「あーあー、うっさい、ちょ、まじうっさい。おい聞けようっさいって!」


わーわー言い出したちびっこの群れに、負けじと叫ぶも、全然聞いちゃいないよこんちくしょう。
さっき勝ったのは、オズと、ユーリと、シオンと、アレクか。シオンはもう流石としか言い様がないな。彼の執着心に勝るものはない。全然褒められないが。


「………キビトさん、私支度してきます」

「おめぇ……投げたな」

丸投げです

「きっぱり言うな、オレが悲しくなる」


頑張ってパパ! とばかりに爽快な笑顔で肩を叩き、居間を後にする。背後で雷の落ちた音がしたような気がしたけど、所謂気の所為という事で片付けとこう。

そして支度を終え、戻ってみれば4名を除き、皆床に正座していました。
アイリスの我存ぜぬの態度には慣れたが、何故2名程床に転がっているのでしょうか。正座を見れば、ああお説教されたのねと納得できる――納得できちゃうのもどうかと思うが――けれど、オレンジと赤に何がありましたか。
まるで解らない私は、入り口で止まったまま、彼らの前で仁王立ちするキビトさんを見る。後ろ姿の彼が、振り返る。


「いつでも出掛けられるぜ?」


目を逸らした。
こ、こぇええええ……!
煙草をくわえたキビトさんの流し目には、えもいわれぬ迫力があった。何もしていないのに、うっかり謝ってしまいそうなレベルである。そんな私は、そこにある死体さながらの2人に何があったのかなんて、当然訊けない。見なかった事にしますごめん。


「ええと……あの、はい、じゃあ上着を……」


所在が無くなった目線はうろつき、アイリスの隣で優雅にティーカップを傾けるユーリに行き着いた。そこでふと彼と目が合う。にっこり微笑んだ彼は頷き。


「反省は早ければ早い程良いと思いませんか? 非を認めねば、要らぬ目にも合いましょう」

「…………あ、うん、そうですか」


うん、器用に説教を逃れたんだね。流石だね。何がどう流石なのか解んないけどね。全てを悟った私は、要らぬ目に合ったらしい2人に、心の中で合掌した。


「あと、じゃあアイリス」

「うん?」

「上着を……」


口に出さずとも、顔を思いっきり顰めたアイリスは、自分の服を貸すのが間違いなく嫌なんだろう。しかしそこは我慢して貰いたい。


「良い子にはサンタさんがプレゼントをくれるよ?」

「「「えっ!?」」」
「わあ!?」


重なった声に、びくっと其方を見れば、何故か全員に勢い良く凝視されていた。うわ怖い。なんだお前ら凄い怖いよ! えって、私がえだよ!
目のやり場が無くなり、結局前に向き直った私の前で、アイリスは小さく首を傾げる。因みに倒れてた2人も起き上がってた。おいそんなに何が気を引いたんだ。プレゼントか。プレゼントが欲しいのか。


「メグミ……、サンタって、誰?

「そこからかい!」


思わず突っ込んだ私に、アイリスはこてんと首を真横に倒した。


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