サーチパーティー

 ――でかいな。

 私が買った服を着たフェルさんと、長いローブを纏った金髪を、後ろから眺めながらそんな事を思った。
 薄着だからフェルさんの逞しさがよく判る。逆に地味なグレーのローブに覆われた金髪は、その髪の美しさが際立っている。
 そして二人ともでかい。私の身長は標準だが、縮んだような気になる。
 今が夜で良かった。悪目立ちしなくて済む。そう言えば、暗いとフェルさんの髪は黒に見えるから、金髪と対照的だなあ。
 と、つらつら考えいれば、人ひとり分間を空けて歩く二人の内、黒髪が不意に振り返った。慌てて周りを見ているふりをする。こっそり観察していたなんて知られたら、家具を探しに来た筈ではと突っ込まれかねない。

「ミホ、疲れたのでは?」
「えっ」

 実は密かに、身体がダルかった。だって殆んど寝て過ごしていたのだ。落ちた体力は早々戻らない。あばらだって完治していない。正直今日はもう動くのが辛かった。
 意識して隠していたとしても、常人完璧にポーカーフェイスとはいかない。見え隠れしていたんだろう。
 しかし只でさえ責任を感じているフェルさんを心配させるのは忍びない。緩い笑みを返した。

「大丈夫ですよ」
「……そうか」

 何となく言い足りなさそうだったが、フェルさんは一応納得し、金髪をチラリと見やった。

「辛くなったら言え」
「はい」

 フェルさんの言葉が固い。二人で会話していた時と違って、言葉に余裕が無いように思う。
 前までだったら、言え、ではなく、言ってくれ、ぐらいには解れていた。それはきっと金髪の所為なんだろう。彼をこうも警戒させる金髪は、何者でしょうね。幸先は不安である。

「あ、そこ左です」

 行き先は、一番近い公園である。この辺りは住宅街で、割と大きな公園がある。
 そこそこ開けた空間がある場所が可能性として一番高いのだと、金髪が教えてくれたのだ。道すがら駐車場や空き地等を覗きつつ、広い場所と真っ先に思い付いた公園に向かっている訳である。
 私が先頭を行けば早いと思うのだが、何故かフェルさんが許してくれなかった。あ、金髪さん、それはマンホールです。
 金髪さん、どうも私が帰って来る間に一人で出歩いたらしく、一々車とかに反応したりはしない。いや訊かれたけど。疑問に思った物や事は根掘り葉掘り訊かれたけど。
 で、その彼が一番知りたがったのがマンホール。
 あれは何の魔法陣かと。
 だから魔法無いっつってんじゃん!
 変なステッキ片手に、マンホールを見掛ける度につんつん突く。変なステッキは金の杖に宝石があしらわれた実に魔法使いらしい物なので、置いていって貰いたかったのだが、妖艶な笑顔で「それは無理な相談ね」と言われたので無理らしい。色気ある笑顔がこんなに怖かったのは初めてです。

「ねえ、何でただの蓋に色々描くわけ?」

 まだ疑ってんのか……。

「あ、見えましたよー。あそこです」
「ねえ、本当は蓋じゃないんじゃないの?」

 あれですか、そっちの世界の御仁はしつこいのが標準仕様なんですか。
 無視して公園に入ろうとし、フェルさんに制止される。

「ミホは此処で待て。金髪に偵察させる」

 いや偵察て! ただの公園です!
 金髪に声をかけるフェルさんを慌てて止める。

「や、大丈夫です」
「ん、しかし、見たところこの辺りで一番緑が深い。獣が居らぬとも限らない」
「居ません!」
「……ミホ、夜は獣の領分だ。油断してはいけない」
「いやだから居ませんて!」

 何真剣に諭してくれてんだ。獣とか街中に居ないから。

「ね、騙そうとか、そういう考えは捨てた方がいいわよ?」
「おい、貴様は偵察だ」
「はあ? なんであたしが。それより本当に魔法は無いわけ? あたしが使えるのに?」
「くどいぞ白の。それより獣の襲撃に備えろ」
「いやよそんなの面倒臭い。あんたが片付けなさいよそれくらい」
「その杖は飾りか?」
「あら、試してみる?」

 おいおい……。溜め息が出る。全く信用されてないな私。
 ちょっと一緒に住んだ相手と、今日初めまして相手だ。そりゃあ信用できなくて当たり前かもしれない。
 うん、よし。

「杖無しと有りじゃ威力に格段に差が出ると、身を持って体験したい訳ね?」
「は、貴様こそ魔法だけが全てではないと身を持って知れ!」
「言うじゃない。後悔しても遅いわよ!」
「それは此方の台詞! ミホ、下がって……ミホ?」




 砂利道を進み、遠くに目を凝らす。やっぱり夜の公園は暗いなあ。でも緑が多いと涼しい。虫の声が余計に涼しい気分にさせる。

「ん?」

 ふと植木のシルエットの中で、角張った形の影が目に止まった。近づいてみるとそれはローテーブルである事が判った。
 おお、これは紛う事無きマイテーブル! こんなとこに居たのかー。よしよし、今お家に連れて帰ってあげるからね!
 見渡せば、周りにはテレビ台やらカラーボックスやらの大きな物から、雑誌やぬいぐるみや写真立て等の小物まで、芝生の上に所狭しと転がっていた。
 ああっ、食器棚が!
 倒れた食器棚が無惨な姿を晒していた。よく見れば、テレビの画面もヒビが入っているし、他にも使えなくなった物がちらほら。買い直し、か。

「ミホ!」

 黄昏ていると、遠くからフェルさんに呼ばれた。が、今ちょっとあれなんで、そっとしといて……。

「一人では……、ああ、見付かったのか」

 ええ、見付かりましたよ。見付かりましたけども。

「あら、良かったわねえ」

 のんびり声に、遂に頂垂れた。痛い。この前まで休職中だった私には痛過ぎる出費だ。
 頭の中を通帳残高が過る。あれを引いてこれを引いて、テレビの新調は無理だ。諦めよう。
 冷蔵庫は無事なのか。洗濯機も。これは早く帰って確かめなければ。下手すれば生活がままならないなんて事に。

「なりかねない!」
 ひい!

「え、何が?」
「ちょ、急いで持って帰りましょう!」
「何よ? なんなわけ?」

 ベッドが何事も無かったのは救いだ。良かった! 怪我人には寝床が大事!
 だがこのシングルベッド、当然一人では持ち上げられる筈もない。冷蔵庫だって洗濯機だって無理だ。ここは済まないが男手に頼る事にする。
 私はマットを抱え、うおう! あばらが痛い!

「ミホ、待て、運ぶのは私が」
「ん、いや、うん、フェルさん達は大きな物をお願いします」
「それは、承知の上だが……無理はするなよ?」
「はい」

 マットは重かった為、タオルケットと枕を抱える。空いた手でクッション二つも拾った。ゴミ袋持って来よう。細々した物は最後にして、荷台が欲しいな。チャリを出動するか。

「白の、そっちを持て」
「ねえ、何やってるの?」
「何って見れば判るだろうが。冷蔵庫は見た目より重いんだ。さっさと手伝え」
「いやだから……」
「道判ります? 私先に行ってていいですか?」
「ちょっと待ちなさい」
「え?」

 道、判らない? と首を傾げた私に、金髪は溜め息で答えた。

「あたし、あんたんちはもう判る」
「あ、なら」
「聞きなさいって」

 足を踏み出そうとした私を、金髪は何故か呆れたように制した。

「つまり場所の特定が出来るってわけ」
「ああ――」

 納得した声を上げたのはフェルさんだけだった。私には疑問符が飛んでいる。
 それが伝わったか、金髪がやれやれといった風に首を振った。なんか、すいません?

「飛ばし直せばいいのよ、あんたの部屋に」
「ああ!」

 ぴっと来た道を親指で差した金髪は、漸く合点のいった私を見て、ほんの少し、笑った。

「可笑しな子ね」

 綺麗だ。自然に漏れた笑みも、さっきまでの挑発的な笑顔も、人を魅了してやまない。こういう人って実際に居るんだなあ。いやこっち世界の人間ではないんだけどさ。

「術式は要るのか?」
「これくらいなら要らない、と言いたい所だけど無理ね。試したんだけど……こっちで魔法なり魔術なり使おうとすると、不安定で、威力もかなり落ちるみたい。さっきのあんたにやったあれ、杖無しの限界よ。やんなっちゃう」

 よく判らないが、魔法が上手く使えないらしい。聞こえるがまま情報を受ける私と違って、フェルさんは驚いた顔をした。何に驚いたかさえ、私には判らない。

「……いいのか?」
「争ったってしょうがないじゃない。寧ろここは手を組まないと。でしょ?」
「え、はあ、そう、ですね……」

 何だか知らないが、金髪に心境の変化があったみたいだ。協力的な発言って初めてじゃないか。唐突感はあるが、何にせよ、良い事だ。

「うん、そうですね」

 頬を弛ませ頷く。
 何とかなりそうだと希望を抱いた私はその後、盛大なマジックショーが待ち受けているのを忘れていた。


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