カラ松と朝ご飯
カーテンを引くと、気持ちの良い朝日が差し込んできた。 休みの日に早起きするとなんだか得した気分になる。隣で寝息を立てる彼を起こしてしまわぬように、カーテンを元に戻しそっと布団を出た。
カラ松が起きてくるのはどうせお昼前だろうから、たまには時間を掛けて一食作るのも悪くない。さて、とエプロンを付けてさっそく中くらいの鍋を火にかけた。10センチ角に切った昆布で出汁をとり、頃合いを見て粗削りのかつお節をどっさりと中に入れる。
具材は大根に豆腐、わかめ、それと玉ねぎも入れよう。他にも何かなかったかと野菜室を覗いていると、寝室から音がしてカラ松が起きてきた。
「おはよう。今日は早いね」
「うん」
朝が弱い彼は言葉少なに返事した。不機嫌そうな顔は毎朝のことで、付き合いが長い今では慣れたものだ。カラ松はのそのそと私の隣まで来ると、おでこにおはようのキスをした。眠いなら無理しなくていいのに。律儀に毎朝繰り返されるそれに、いつしか今日はまだかな、と楽しみにしてしまってる自分がいる。
私のまとめた髪をぽんぽんと触ってカラ松は「髭剃ってくる」と洗面所に消えた。
◆
「何作ってるんだ?」
「お味噌汁だよ。今日はこれに紅鮭を焼きます」
「おーいいな。手伝うぞ」
顔を洗ってやや目が覚めたカラ松が、腕まくりをしながら隣に来た。朝ご飯を待たせてしまうのが忍びなかったけど、一緒に作ってくれるなら心強い。
ご飯は仕掛けたし、鮭は最後に焼けばいい。あと残ってる作業は…。
「お豆腐切れる?私はこっちで玉ねぎ切るから」
「任せておけ」
カラ松に包丁を渡して、隣にもう一つまな板を出して私も切り始める。とん、とん、と包丁がリズムを刻む。低いシンクに合わせて背中を丸めるカラ松は、なんだか可愛いかった。
「待て、あい」
「へ?」
「どうした、指切ったのか?それともどこか痛いのか?」
包丁を持っていた私の手がすごい力で握られた。突然で驚いたし、どちらかというと握られた手のほうが痛い。
「どうもしてないよ…?」
「嘘だ。だって泣いてる」
「え、あ…」
「隠さないで言ってくれ」
真剣な眼差しにこちらが騙してるような気がしてきた。違うのカラ松くん、これはね。
「玉ねぎ…だよ」
「あ」
結局「たとえ玉ねぎだろうとハニーを泣かすのは許せない」とかわけのわからない理由で、残りはカラ松が切ってくれた。ひーひー泣きながら最後まで玉ねぎと闘った雄姿、しかと目に焼き付けたよ。
「魚がもうすぐ焼けるので、先にお味噌汁を持ってってください。カラ松くん」
「はーい」
お味噌汁を零さないように慎重にテーブルに並べる様子を、さながらおつかいについていく母親の気分で見守った。最初は食事を並べるのすら満足にできなかったのだから、成長したよ、カラ松。
お揃いの茶碗にご飯をよそって、焼きたての紅鮭を皿に乗せる。そこにお新香もプラスして食卓に並べると、すっかり朝食らしくなった。
「美味しそうにできたね」
「さすが俺のハニーだ」
「カラ松が頑張ってくれたおかげだよ」
手を合わせて、それじゃあ いただきます。
アンケートより
160310
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