おそ松とおでん


定番の大根にもち巾着、結び昆布、それに牛すじ。どれも汁をたっぷりと吸っていて、箸で持ち上げるとずしりと重い。幸せの重みだ。
まず初めは昆布から。口に入れた途端じゅわ、と旨味が口いっぱい広がり、出汁の香りが鼻を抜けていく。食感も申し分ない。昆布は出汁という人もいるけど、私はぜひとも具材として推していきたい。
続けてぐいっと生を煽ると、仕事の疲れなんてすっかりふっとんでしまう。

「すいませーん、俺もこの子と同じの」

隣のカウンター席の椅子が音を立てた。

「真似しちゃった。お姉さんあんまり美味しそうに食べるんだもん」

ラフな格好のお兄さんはへへっと笑って鼻の下をこすった。




△○◇





「この店よく来るの?」
「うーん、まあ、来るかな。職場の帰り道なので」
「へぇ〜!俺も常連なろっかなー。あ、生来た、はいかんぱーい」

まるで高校の同級生と久しぶりにあったような感覚だ。一人飲みをしてると常連のおじいちゃんと仲良くなることはあったけど、あまり若い人が来るような店でなかったから少し驚いた。

「一人で来たんですか?」
「弟誘ったんだけどね。断られちったー」

どうせ暇なくせにさぁ。とぶーたれる。兄弟で飲みに行くなんて仲良いんだ。この人の弟だったら、どんな人なんだろう。まだ見ぬ弟を好き勝手に想像しながら、良い色に染まった大根に箸を入れる。箸が半分くらい沈んだところで、丸い大根がひとりでにふたつに割れる。うん、中までしっかり染みている。

「ていうかさ、おねーさん敬語やめね?同い年くらいでしょ」

牛すじの串を口から引き抜きながら、お兄さんがいった。

「俺おそ松ね」
「あいです」
「あいちゃん!あいちゃんね、覚えた覚えた」
「なんか恥ずかしいな…」
「えー?なんでよぉ、いいじゃん。じゃあほら、俺は?」
「お、おそ松…くん」
「よし。ごーかく」

ご褒美のつもりなのか、おそ松くんは私の小皿に枝豆を乗せてくれた。ていうかこれ私が頼んだやつなんだけど…。

「俺さー昆布って出汁だと思ってたんだけど」

最後に皿に残った結び昆布には歯型が付いていた。

「けっこう美味いね。好きかも」

なんだか自分が褒められたみたいで、少し嬉しかった。そうだよ、美味しいんだよ。私がよほど得意げな顔をしてたみたいで、おそ松くんに笑われてしまった。


160309

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