08





さいあくだ。まさかこんなベタな失敗するなんて。



前の夜から嫌な予感はしてたんだ。着ていく洋服に悩んでいるうち深夜になっていて、慌てて布団に入ったけどなかなか眠れなくて。
目を覚ましたら電車が出る時間だった。泣く泣くばっちりメイクは諦めてマスカラとリップだけ塗って、由希子に選んでもらったワンピースに着替える。

駅までの道すがら由希子に電話して、先に会場に向かってもらった。うちの高校は強豪校だけあって、決勝でもないのにやたらと観客がいるというのが、クラスの子達から仕入れた情報だった。せっかく行って選手たちの顔が見えないなんて許せない!ということで、先に会場に行って見やすい席を取っててくれるらしい。やっぱり黄瀬くんを見に来る女の子とかも多いんだろうか。


「よかった、間に合いそう」


もともと早めに家を出る予定だったから、試合には間に合いそうだ。ものすごく早めに目覚ましをセットしてたのが不幸中の幸いだった。会場は総合体育館。たしか北口から出て、少し歩いたところにあったはず。スマホの地図にかじりつきながら歩いていたら、改札を出た所で後ろから走ってきた人にぶつかった。


「っと、わり」

「わっすいません ・・あ」


この人、見たことある。
紫原くんの隣の席で、コンビニで黄瀬くんとグラビアを立ち読みしてた人。


「あ?」


その人は、私の顔を睨むみたいに目を細めて顔を近づけてきた。しまった、私が一方的に知ってるだけで、彼は私のことなんて知ってるはずない。


「ごめんなさい、何でもな、」

「あーお前」

なんとかごまかそうと言葉を絞り出すと、遮るように彼が大声を上げた。

「うちのガッコだよな」

「う、うん!」

よかった、彼も私を見かけたことあったのかな。変な子だと思われないで済みそう。

「あれだよな、紫原の彼女」

「うんう、 ・・え!?」

「ちげーの?」

「ちが、ちがうよ!ともだち!」

「そーなの?でもたしか黄瀬が・・」

「黄瀬くん?」

「あー・・ これだめなヤツか。わりぃ忘れて」

「えぇ・・・」


そう言うと一番気になるとこで言葉を切った。黄瀬くんがどうしたの?紫原くん?


「あ」

「どうしたの?」

「時間やべーんだった、行かねぇと」


私にもやもやだけ残して、彼は早くも立ち去ろうと踵を返した。ほんと、嵐のようなっていう例えがぴったりくる人だ。俯く私に、彼は「そういや、」と思い出したように言った。


「お前はどこ行くんだったの」

「私はバスケ部の応援に行こうかなって」

「まじかよ。一緒じゃねーか」

「ほんと?バスケ部の応援?」

「アホ。誰が応援すんだ、選手だよ」

「選手!」


よく見たら、っていうかよく見なくても、彼はジャージにエナメルバッグといういかにも運動部な格好をしていた。そうか、彼も紫原くんや黄瀬くんと一緒のバスケ部だったんだ。


「そうだったんだ、じゃあ一緒のとこだね」

「おー。 ・・・つーか、時間!」

「あ!忘れてた」

「オイ、走るぞ」

「え?私は別に、」


そんな急がなくて平気なんだけど、と、例のごとく言い終わる前に遮られて、結局体育館まで全速力で走らされた。会場に着いて、ヒールにも関わらず必死に走った私に対して彼は「お前とろいな」と言い放った。こんなのあんまりだ。
彼がうちのバスケ部のエース、青峰大輝くんだとわかったのは、試合が始まった後だった。


スプラッシュネス
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