04





今日は3クラス合同の選択授業の日。由希子は私とは違う教科選択なので一人で教室移動をする。
私の教科は隣のクラスを使ってやるらしい。他のクラスに入るとき無償に緊張してしまうのって私だけかな。由希子もいないし、尚更心細い。

教室に行くともうほとんどの人は席について友達とお喋りしていた。
わかってたけど、知ってる人が全然いない。どうしよう…。


「あ、みゆちんだ」


聞き覚えのある声に振り返ると、窓際の一番後ろに座っていた男の子がひらひらと手を振っていた。


「紫原くん!」


紫原くんも選択教科一緒だったんだ。よかった、顔見知りがいて一安心だ。


「席無いの?」

「うん…」

「ここ空いてるけど」


購買のプリンを食べながら紫原くんは自分の隣を指して言った‥‥けど、空いて…る?
その席は人こそ座っていなかったけど、食べかけのコンビニ弁当や教科書がこぼれ落ちそうなほど乗っかっていた。


「…えーっと」

「あ、そっか」


私が困惑しているのに気づいた紫原くんは、コンビニ弁当だけ救出し、一切の迷いなく教科書類を床に落とした。ばさばさっと音を立てて落ちていく教科書たち。近くの席の何人かが振り返った。


「どーぞ」

「え、うそ、いいの?」

「いんじゃねー?」


絶対よくはないけど、せっかく空けてくれたんだし、他に座る席も無いし、ご厚意に甘えることにしようか。隣の席のひと、ごめん。


「…ありがとう」

「うん」


コンビニ弁当から甘そうな卵焼きをつまんで紫原くんは言った。(勝手に食べていいのかな)


「あれー?紫原っちのお友達っスか?」


突然の背後からの声。振り向くと、明るい髪をした背の高い男の子が立っていた。紫原くんほどじゃないけど、その立ち姿はかなり目立つ。


「黄瀬ちんもここなんだ」

「そうっスよ。紫原っちいてよかったー!」


いかにも女の子に人気ありそうな感じのその彼は、人懐っこい笑顔を振り撒きながら紫原くんの前に座った。


「あーこれ黄瀬ちんね。で、みゆちん」

「みゆっち!よろしくね」

「よ、よろしく!」


黄瀬くん、すごいな、社交的というか人見知りしないというか。そういえば彼が席についてから、教室の女の子たちがちらちらとこっちを見てくる気がする。やっぱり見た目通りすごい人なのかも。


「オレと紫原っちはバスケ部で一緒なんスよ」

「そうだったんだ。黄瀬くんも背高いもんね」

「紫原っちに比べたら全然っスけどね」

「あはは、確かに」


一見性格が正反対に見える二人だけど、やっぱりスポーツって友情を育むんだなぁ、なんてちょっぴり感動した。青春っぽくて羨ましい。文化部の私には到底無縁の世界だ。
すると、今まで黙ってポッキーを食べていた紫原くんが口を開いた。


「黄瀬ちん、授業始まる。前向いて」

「えー紫原っち冷たいー」


紫原くんに押されて、黄瀬くんは渋々前を向く。時計を見ると、たしかにもうチャイムが鳴りそう。私もペンケースから消しゴムとシャーペンを出して授業の準備を整えた。

黄瀬くんには悪いけど、紫原くんが会話を中断してくれて内心ほっとしていた。だって周りの女の子たちの視線が痛いのなんのって。
そして前を向いた途端他の女の子たちに囲まれた黄瀬くんはやっぱりすごい人だった。











「じゃあ、また。席ありがとう」

「ん、じゃーね」

「みゆっちまたね」


授業が終わり私は席を立つ。教室を出ようとしたところで、入れ違いでこれまた背の高い男の子が入ってきた。
彼は一直線に紫原くんたちがいるほうに行き、私が今まで座っていた席に荷物を置いた。…まさか。


「…なんかオレの机荒れてんだけど」

「青峰っちの机が汚いのはいつものことじゃないスか」

「おい紫原」

「オレ知らなーい。黄瀬ちんじゃね」

「黄瀬ぇ…」

「えー!違う違う、オレ知らないっスよ!」


隣の席のひと、やっぱり怒ってる…!私は心の中で黄瀬くんに謝りながら急いで教室を後にした。





キャンディカラー
2013129 ::ashelly
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