02





大きい人にチョコを拾ってもらって一週間。あの日以来、彼の姿は一度も見ていない。同じ色の上履きだったから、同じ学年だとは思うのだけど。
あの長身なら何十メートル先の廊下にいても気づきそうなものなのに、やはりあれは夢だったんじゃないだろうか。


ぼんやり考えながら購買への廊下を歩いていると、購買の周りにやけに人が少ないのに気づく。…嫌な予感。
一応行くだけ行ってみたけど、案の定「売り切れ」と書かれたプレートが物悲しくそこに置かれていた。


「さいあくだ…」


今日お昼何も持ってきてない日なのに。
やっぱり4時限目の後すぐに来ないと売り切れちゃうんだな……覚えとこう。

とぼとぼと教室に戻ろうとしたところで、後ろから突然間延びした声が聞こえた。


「あー」


振り返るとあの大きい人がまいう棒を持った手でこちらを指差していた。
顔には出てないと思うけど、けっこう本気で驚いた。だってちょうど彼のこと見ないなーって思ってたんだから。


「チロルの子だ」

「ど、どうも」


覚えててくれたことに更にびっくりだ。ていうか、私、チロルの子なの。


「お昼買えなかったのー?」

「うん、来たら売り切れてて」


すると彼はズボンのポケットをごそごそしだした。なんかこの光景前にも見たような。
しかし出てきたのはチロルチョコではなく、イチゴ味のキャンディーだった。


「ん」

「え、くれるの?」

「あげる」


これがご飯の代わりになるとは到底思えなかったけど、気を遣ってくれたのはわかった。この前会ったときといい、彼は見た目によらず優しい人なのかもしれない。
私は大きな手からピンク色の包みをそっと受け取った。


「ありがとう」

「ん。じゃーね」


そう言うと大きい人は行ってしまった。
話しかけられたこととか、私のことを覚えてたことには驚いたけど、不思議と恐くはなかった。飴くれたし。
見た目に反してのんびりした話し方のおかげかもしれない。あとお菓子を持ち歩いてるギャップとか。

去って行く大きい後ろ姿を見送りながら、この人も廊下にチロルチョコ落ちてたら絶対拾うだろうな、とぼんやり思った。





チョコレートセンセーション
130121

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