見慣れたアスファルトの道に二人分の影が黒々と伸びる。ナマエが歩くたびリュックに付いた変なぬいぐるみが揺れて、足元の影がぴょこぴょこ動いていた。
図書館で時間を潰していたせいか、一斉に帰路につく生徒達からは出遅れたらしい。往来に人影はなかった。
「一緒に帰るの一昨日ぶりかぁ」
「あれはお前が勝手に付いてきただけだろ」
「えー、方向一緒なんだからしょうがないじゃん」
横断歩道に差し掛かって立ち止まると、暖かみを帯びてきた夕方の風にナマエの細い髪が小さくなびいた。
触ったら気持ち良さそう。そう思った。
「風あったかくなってきたね」
「ん」
「初めて一緒に帰ったときは雪降ってたっけ」
「よく覚えてんな」
「忘れないよ」
「へぇ」
「…やっぱ今の無し。恥ずかしかった」
気づいた時には身体が勝手に動いていた。
ナマエのうなじに手を伸ばす。指先に絡まった細い髪はやっぱり柔らかくて、気持ち良かった。
「どうしたの、」
そのままオレを見上げたナマエの唇に、自分の唇を押し付けた。一瞬すぎて自分でも触れたか触れないか、わからないくらい。
「……」
「……」
「…な、」
「なに急に」
この前頬を触られただけで顔を真っ赤にしていたナマエは、生意気にも照れるどころか怪訝な顔でオレを見つめていた。
「…お前さ、もっと喜べよ」
「……」
「オレのこと好きなんだろ」
「好きだけど…」
「なんだよ」
「意味わかんないと思って」
「あ?」
「花宮は、私を喜ばせたいの?」
「…うわ、面倒くせぇ」
信号が青に変わった合図、場違いなほど軽快に鳴り出した音楽に、どちらともなく会話は終了し歩き出した。
もくもくと、歩き続けた。ひたすらに歩き続けた。
「花宮」
「……」
「花宮ってば」
「…んだよ」
「家通り過ぎてるよ」
振り返ると、自分の家が十メートルほど後ろに見えた。このことだけは今でもはっきりと覚えている。しにたい。
130424