またナマエが仕事を押し付けられていた。
「貸せ」
「え、いいよ。私が頼まれたんだし」
なんでも試験前で忙しいからと、委員会の奴から名簿をまとめる作業を任されたらしい。試験前なのはナマエも変わらないだろと思うのだが、こいつは断るという選択肢があることをいいかげん学ぶべきだ。
「いいから。オレやったほう速えー」
部活は?とか聞かれたけど、試験一週間前は部活動停止、と答えるのすら煩わしい。
変なマスコットが付いてるせいで重心がおかしくなるシャーペンを走らせて、名簿に並んだ名前を書き写していく。
「ありがとう」
「ん」
「字きれいだね」
「……お前ってさー」
「なに」
「優しくされるとすぐ好きになるタイプだろ」
「...え。花宮、私に優しくしたことあった?」
「‥‥」
▼△
「わ、もう終わってる。さすが」
「このペン書きづれーよ」
「でも可愛いでしょ」
間抜け顔のマスコットが付いたシャーペンを机に転がして、オレは小さく伸びをした。
びっちりと書き込まれた用途不明の名簿をしげしげと眺めるナマエは、シャーペンに付いてるマスコットに負けず劣らずの間抜け面だ。
そんなナマエを見て、オレがいなかったらこいつは生きてけるのだろうか、なんて考えてしまうのは、やっぱりちょっと自惚れすぎだろうか。
名簿をナマエの手から奪い取り、鞄を持って立ち上がる。窓から差し込む西日が眩しい。外ももうじき暗くなるだろうし、さっさと出すもん出して、帰りたい。
「もしかして出してくるの?」
「担任でいいんだろ」
「うん、そう。ありがとう」
ナマエも荷物をまとめて、立ち上がる。
「じゃあ私帰るね。ばいばーい」
「おいちょっと待て」
良い笑顔ですたすたと横を通り過ぎようとしたナマエのリュックをすかさず掴む。バランスを崩してかなり驚いた様子だったが、確実に、オレのほうが驚いてる自信がある。
「お前も行くんだよ」
「え?出してくれるんじゃないの」
「…そうだけど。お前も来い」
「なんで」
「なんでって…」
「一人で職員室行けないの?」
「‥‥」
そろそろ怒ってもいいだろうか。
130419