「花宮ー英語の宿題やったー?」
「ねぇ花宮ー。芯ある?HBじゃなくてBのやつ」
「あっ花宮、グミ食べる?これ、驚きのマズさ」
「花宮ー、さっき購買のレーズンパン買ったらさー、見て。レーズン入ってなくて」
「花宮ー寝癖付いてるよ。数学寝てたでしょ」
「‥‥」
「そういえばさ、なんで朝からずっと不機嫌なの?」
「…うるせぇよ」
手に持っていたBのシャー芯が、ぱきっと音を立てて折れた。
こいつは今までの人生のなかで、恥ずかしいとか気まずいとかいう感情を持ったことがないんだろうなと思った。オレに告白をした次の朝、平然といつものような日常を紡ぐナマエに、苛立ちを通り越して、呆れ返ってしまった。そりゃシャー芯だって折れるってもんだ。
「つかお前だって寝てただろ」
「なんでばれてんの」
「付いてんぞ」
これ、とナマエの頬にくっきりと付いたセーターの跡を指でつっついた。
ぷに、と柔らかい感触のあと、ナマエの白い肌がみるみる赤く染まっていった。
「……」
そのままナマエは俯いてしまった。いつもみたいにへらへら言い返してこなくて、こっちとしても調子が狂う。なんだよ急に。
「なんか言えよ」
「…あのさ。そうゆうこと、軽々しくやんないでよ」
「そうゆうことって何だよ」
「その…触ったり、とか」
「は?なにお前照れてんの」
「……ちがう」
ナマエはまた俯いてしまった。二人の間に流れる沈黙が、なんだか落ち着かなくて、なんでオレがこいつの気分にいちいち振り回されなきゃなんないんだと腹が立った。でも苛立ち任せてこの頬をつねったら、紅潮した顔の言い訳にされそうだから、やめた。
鳴り響いた五限開始のチャイムによって、会話はそこで終了した。
素知らぬ顔で前を向いたけど、横目で盗み見たナマエの頬がまだ真っ赤になってたから、ちょっとだけ可愛いと思ってしまったなんて、悔しいから絶対に言ってやらない。
130413