「私って花宮のこと好きかもしんない」
ある日の掃除時間のことだった。
思い出したように呟いたナマエのこの一言で、全ては始まったのだ。
「へー。初耳」
「初めて言ったからね」
淡々と言葉を紡ぐ彼女は告白してるというのにいやに冷静で、でも嘘を付いてからかってるという感じでもない。初めて自覚した自分の気持ちを、ただただ報告しているような印象を受けた。
それに対してオレはというと、なんとか体裁は保ったが、運んでた机は落としそうになるわ、得意のポーカーフェイスは崩れそうだわで、散々。
「で?」
「でって?」
「オレにどうしてほしいの」
こいつのペースに乗せられまいと、焦っている自分に気づいた。いつものように話してるはずなのに、精一杯の虚勢に見えてしまって格好悪い。
室内用ホウキを両手で握り締めて、ナマエはそんなオレを真っ直ぐに見ている。
「‥‥別に、どうも」
「‥‥」
プラトニックだとかいう、中学生くらいの女が夢見そうなくだらない恋愛観が頭を過ぎった。ずっと握ってた机の端に、汗で手形ができてる。らしくもなく追い詰められてることへの焦りなのか、先程の告白に動揺してるのか、あるいはどちらもか。
机の脚に付いた埃をホウキでいじりながら、ナマエはオレの異変に気づいているだろうか。こいつは、本当に掴めない。
「みんながみんな、好きな人に何か求めるとは限らないじゃん」
「‥‥‥あっそう」
「それとも花宮は私にどうかしたかったの?」
キレイな瞳でまっすぐにオレを見るナマエ。
こいつのこういうところ、オレは大嫌いだ。
お前オレのこと好きなんだろ。じゃあオレのほうが優位なんじゃん。なのに、なんだよこの敗北感。
「花宮、早く机運んで。掃けない」
ここで改めて思うのだ。
やっぱりオレは、こいつが苦手だ。
130405