「えーと…」
「おかえりー」
いつものように仕事から帰ると、家に知らない人がいた。
「………誰?」
「リョウタ」
「うん…名前とか聞いてないんだけど」
四畳半の小さな部屋に窮屈そうに置かれた大きめのベッドに、これまた窮屈そうに大きな男が寝そべっていた。我が家の如く雑誌を読んで片手には私のマグカップまで持って。
その男はとても不法侵入者とは思えないような人懐っこい笑みを浮かべて私を見上げた。…だから誰なんだって。
「なに…してんですか」
「ミルク頂いてたっス」
「それは見ればわかるけど…しかもなに?これ…コスプレ?」
「あっ、そこは…」
男は頭に何かの動物の耳みたいなのを付けていて、その怪しさに拍車をかけていた。触ってみると人肌よりも少し暖かいそれは、本物の毛皮みたいにふわふわだった。
「やっ、だめだ、って」
「…気持ち悪い声出さないでくれないかな」
「だってアンタが触るからっ!」
頬を赤らめてもじもじする獣耳の大男は、よく見ると私の部屋にあった彼氏用のスエットを着ていた。おいおいふざけんな。しかも丈が足りなくて八分丈みたくなってる。
私はもう間もなく電源の切れそうな携帯をコートのポケットから取り出した。ええと、警察って何番だっけ。