「じゃあいってくるね」
一泊分の着替えと最低限の化粧道具やらなにやら詰め込んだカバンは、見た目ほど重くない。トド松くんは私の声に渋々といった感じでテレビを見るのを中断して玄関まで来てくれた。
「ごめんね、トドくん置いて旅行なんて」
「別に。一泊でしょ」
「淋しいよね」
「あぁ、うん」
「…感情がこもってない」
どうせトドくんなんて、私なんかどうでもいいんだ。旅行に行く私よりもテレビの続きのほうが気になるし、早く行かないかなーって思ってる。「もういい。行く」カバンをぎゅっと握り直す。楽しみにしてたはずなのに、行く前からこんな気持ちになるなんて。泣きそうになるのを抑えながらドアチェーンを開けようとする。と、「いってきますのちゅーは」

は。

ぐい、と肩が掴まれて無理矢理振り向かされる。乱暴な仕草の割に触れたものはいやに優しく柔らかい。「はい、いってらっしゃい」
トド松くんはぶっきらぼうに言うと、決まり悪そうに頭を掻いた。「いいんだよ、必ず僕の元に帰ってくるって知ってるから」
「……」
「帰ってくるでしょ?」
「う、うん!」
トド松くんは満足そうににやっと笑った。そんなこと言われたら、離れたくなくなってしまうじゃないか。

160625
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