「ただいまー。…って、なに寝てんでィ」
「おかえりー」

玄関のほうから鍵を開ける音が聞こえてきて、次いでリビングの扉が開いた。ソファに横になる私をちらりと見てから、沖田は冷蔵庫に顔を突っ込んで「黒烏龍茶ねぇのかよー」とぼやいた。

「お前豚になるぞ。ただでさえ豚なのに」
「うるさいなぁ。お腹痛いんだよ。…今日も残業?」
「んー今日はちょっと飲んできた」

沖田がペットボトル片手にこっちに来たので、ずりずりと這ってソファの端っこを空けてあげる。どかっと豪快に座るもんだから、痛むお腹に響いた。無神経なんだから。ちょっとは気づかってほしいなぁ。

「また土方さんたちと?」
「酒代浮くからな。仕方なくでさァ」
「そんなこと言ってさー。なんだかんだ仲良いよね、土方さんと」
「仲良くねぇよ。つーかこのお茶まじー」
「ジャスミンティーだね」

綺麗な白い花をあしらったおしゃれなボトルを、忌ま忌ましげに眺めている。よっぽど口に合わなかったらしい。一度フタを閉めかけたけど、冷蔵庫まで立つのが億劫だったみたいで仕方なさそうに再び口をつけた。眉間のシワが消えない。

「…で、大丈夫なのかよ」
「なにが?」
「痛いんだろ、腹」
「…うん。痛い」

お酒のせいでちょっとだけ赤くなった手の平が、私の頭を撫でた。

「痛くて死にそう」
「そんなにかよ」
「そうだよ。辛いんだよ、生理痛って」
「それはごしゅーしょーサマです」

ジャスミンティーをマズそうにすする沖田は、のけ反るように背もたれに寄りかかった。酔ってるせいなのか眠いのか、いつも以上に何も考えないで喋ってる感じ。

「ひざ、貸してやろうか」
「なに言ってんの」

本当になに言い出すんだ、こいつは。私が呆れていると、ほら、と自分の膝を叩いてみせる。

「いたわってやるって言ってんでさァ」
「これってふつう逆でしょ」
「あーお前の寝心地よさそうだもんな。脂肪で」
「うっさい」

とか言って、断らないのが私。おずおずと太ももの上に頬っぺたを乗っけてみると、ズボン越しに、お酒で火照った熱が伝わってくる。実は満更でもないってこと、バレないようにしなきゃ。

「横になるとラク?」
「少しはね」
「ふーん」

素っ気ないふりしてるけど、そんな態度とは正反対に私の髪を撫でる手は優しい。前に自分で切ったらぎざぎざになってしまった前髪は、だいぶのびてきた。また自分で切らなければいけないかもしれない。そしたら、また馬鹿にされるだろうなぁ。

「お前もさ、具合悪いなら言えよ」
「え、いいよ。別に大したことないし」
「でも夕飯作るくらいはできる」

ちら、と沖田のほうを見上げてみた。なかなか素直に優しくしない沖田が、どんな顔してこんなこと言ってるんだろうって。

「……」
「心配?」

頭を撫で回していた手が一度止まって、また動きだした。

「…わりぃかよ」

赤くなった耳はお酒のせいなのかわからない。ぐい、とジャスミンティーのペットボトルを傾けて、沖田はやっぱりまずそうな顔をした。




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