うわ、また来てる。
甘味屋の看板娘らしからぬ苦い顔で、私は一番奥の席に座る栗色の頭を見た。
彼は特にうるさいクレーマーというわけでも、お茶一杯で長時間居座る迷惑なお客というわけでもないのだが。
しいて言うなら、私が個人的に苦手なだけ。

「おーい、注文」

しかも最悪。私が丁度出てきたときに呼ばれた。他の子に押し付けらんないじゃん。

「いらっしゃいませ。お決まりでしょうか」
「どうすっかなー」

いや決まってから呼んでよ。なんで今から決めるの。メニューすら開いてないし。

「では決まりましたらまたお呼びくださ…」
「まぁ待てよ」
「はぁ…」
「あんたのおすすめは?」

早々に逃げようと思ったら引き止められてしまった。内心で舌打ちと溜め息が同時に出た。しかしお客さんとのコミュニケーションも仕事のうち。頑張って耐えねば。嫌だけど。

「えーおすすめですね。今ならこちらのお団子がよく出てます」
「へぇ」
「私も食べたんですけど美味しかったですよ」
「じゃああんみつで」
「は?」

思わず素が出てしまった。
この男、あんなに決まりそうもなかったのに、即決である。

「だからあんみつで」
「……」
「なんかアンタに勧められたら、萎えた」

その一言で、引きつっているであろう営業スマイルがさらに引きつった。代わりに、今まで無表情だった奴の顔は驚くほど柔和な表情に変わった。なんでだよ。

「…ではすぐお持ちしますね」
「はいよ」






¨¨







厨房に引っ込んで、中の柱に八つ当たりするのもこれで4回目だ。古びた柱には私の爪痕が痛々しく刻みつけられている。

「あらなまえちゃん。またやなことあったのかい」
「おばちゃん…私あの人無理だよ」

柱に寄り掛かった体勢のままやってきた甘味屋の店主に愚痴をこぼしたけど、軽く笑い飛ばされてしまった。

「なーに言ってんだよ。仲良くやってるじゃないか」
「あれのどこが」
「ほら、あんみつできたみたいだよ。運んできな」
「えぇー…」

私の戦いはいつまで続くのだろう。






130919
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