「腹減った。飯」
「おはようございます十四郎さん。それと私は飯じゃありません」

昨日の夕方からずっと部屋に篭っていた十四郎さんが居間に出てきた。すごくげっそりしている。

そりゃそうだろな。昨日は夜通し仕事の電話をしてたみたいだった。さぞお忙しかったのだろう。壁越しに、通話する声が聞こえてきて、私は寝れたもんじゃなかった。
おかげでヘッドフォンをしながらのどうぶつの森がすごく捗った。わぁ、桃の木が育ってる!

「あれ、ばーさんは?」
「今はパートに出てますよ」
「日曜なのにか」
「日曜だからこそ出るんじゃないですかー。うるさいのが家にいるから」
「お前のことか」
「どっかのニコチン騒音野郎のことです」


「とにかく何でもいいから食いてぇ」
「しょうがないなぁ」

私は持っていたゲームを置いて立ち上がった。

「え、なまえお前…」
「なんですか」
「……料理できんの?」









恋せども乞いせども
第六話








林田さんが作ってくれた朝食を食べ終え、十四郎さんは新しい煙草に火を点けた。

「おめー今朝の残り物チンしただけじゃねぇか」
「加熱も立派な料理の一部です」

洗い物をしながら十四郎さんのほうを見ると、暇になったのか私のもりもり村(村名)を覗いていた。

「勝手にいじらないでくださいねー」
「これ何やってんの」
「それは平和ボケしたもりもり村の村人を、いかにして絶望のどん底に突き落とすかを競う心理戦のゲームです」
「そんな殺伐としたゲームなのか」

このファンシーな絵柄で…と真面目に液晶を眺める十四郎さん。ソファーに横になってるのがなんか可愛い。お行儀悪いけど。

「……お前今日暇か?」
「暇ですけど」
「どっか行くか。これから」
「えっほんとですか!」






半月ぶりに開けたクローゼットは懐かしい着物ばかりだった。ちゃんとした私服来て出掛けることなんて、最近ないもんなぁ…。いっつも来てる薄汚れた部屋着を脱いで、よそ行きの着物に袖を通す。髪は……いいかこのまんまで。

「おまたせしました」
「おう。別にわざわざ着替えんでもいいのに」
「何言ってんですか。デートでしょ、一応」
「…恋人というより保護者の気分だぞ、俺は」
「ひどいー」
「で、どこ行くか?つーかこの辺何かあんのか」
「そうだなー映画館ならひとつありますけど」
「じゃあそこ行くか」
「はい!」

映画館までの道中、私達は色々な話をした。十四郎さんが江戸にいたときの話とか、困った上司と部下に頭を痛めてることとか。でも結局、何の仕事をしてるかはわからず仕舞いだった。
やっぱりアブナイ仕事してるんじゃ…と疑ったりもしたが、愚痴を言いながらも、仕事の話をする十四郎さんは生き生きしていて、本当に好きでその仕事をやってるんだというのがわかった。だからどんな仕事をしてても、十四郎さんが楽しそうだから私は良いや。

楽しく話しているとあっという間に時間は過ぎて、映画館に着いた。

「何か見たいのあるか。なまえ」
「あ、」

目に入ったのは、最近公開されたばかりの話題の恋愛もの。ポスターの中の男女が幸せそうに微笑んでいる。

「これ、見たいです」







_____








「っう、ああ…っぐず」
「…」
「ずびっ…ひっく、ぅう…」
「…」
「っ…っうう」
「………お前さ、」

「泣きすぎじゃね」

映画も終わって、私達は映画館前のベンチに座っていた。

「十四郎さんちゃんと見てたんですか!?…ずび、だって!最後のとこ…ひっく、うぅ、エイドリアアアン!!」
「いやうるせぇよ!しかもあれ邦画だぞ!お前こそちゃんと見てたのかよ!」

未だに鼻をぐずつかせる私に、十四郎さんはポケットティッシュをくれた。優しい。

「ほら、鼻かめ。顔すごいことなってんぞ」
「っすびばせん…ひっく、」

私がいつまでも泣き止まないでいると、背中に十四郎さんの手が回ってきた。背中をさすってくれるみたいだ。

「それ、きもちいです」
「落ち着くまでな」

十四郎さんのおかげで少しずつ涙も止まってきた。よかった、さっきすごい顔とか言われたもんな。でも、背中に置かれている手が優しくて、離れてしまうのが惜しくなる。

「優しいですね、十四郎さんは」
「そうかよ」
「さぞおモテになるんでしょうね」
「なんだ、惚れたか?」
「やめてください自信過剰が」

すると、規則的に背中を撫でていた手が下へ下へとおりていった。そして腰の辺りを行ったり来たりする。私は十四郎さんを睨んだ。

「…やっぱりさっきの発言取り消します」
「俺に惚れたってやつか」
「十四郎さんは優しいって言ったことです」

ゆるゆると這う手を肘で押すと、笑いながらあっさりと手を引いてくれた。…私、おちょくられてる気がする。

「俺は優しくねぇか」
「いじわるですよ」

十四郎さんの手が今度は私の頬に伸びてきて、涙で張り付いた髪を耳にかけた。私が戸惑っていると、薄い唇を少し開いてにやりと笑った。

「泣き顔って、なんかやらしいよな」












…って言うあなたの顔のがえろいですよ
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