夕方に家に帰ると、居間でお兄さんがテレビを見てた。
「帰ってたんですか」
「おう。お前の会社大丈夫か?こんな早くに終わるとか」
「その言葉そのままあなたに返します」
うちの会社、個人の小っちゃいとこだから結構融通効くんですよー、と説明すると興味なさそうに、ふーんとかはーんとかほーんとか言われた。…ほーんって。
そういえば、
「今日は十四郎さんが買い出しですよね」
「…あーなんか書いてあったな、当番表に」
「まだ行ってなかったんですか?」
「買い出しって言われてもなぁ。この辺来たばっかで何も」
「そういうときは聞いてくださいよ…良いです。いきましょ、今から」
恋せども乞いせども
第五話
なんだかんだで買い物に付き合うことになったその帰り道。今日初めてお兄さんと行動を共にして気づいたのだが、荷物は黙って持ってくれるし、さりげなく歩道側を歩くし…
。モテるんだろうなぁ…
商店街を歩いても、男前連れてるねー!と八百屋のおばちゃんと魚屋のおじちゃんにからかわれた。恥ずかしいからやめてくれよ!
「十四郎さんは普段買い物とかどうしてたんですか」
「あー大体部下に任せてたな。煙草とかは出先で買うけど」
「煙草すごい吸いますもんね。早死にしますよー」
「臨むところだよ」
「ロックな生き方してんなぁ」
「お前程じゃねぇと思うぞ」
「えー?どこがですか」
「……すっぴんでその辺買い物行くとことか?」
「め、面倒なんです!いちいち化粧直すの!」
「お前くらいの歳って普通気にするよな」
痛いとこつかれた。朝化粧したら基本的に直さないもんな…
「分かりましたよ!明日から十四郎さんに会うときはフルメイクで挑みます」
「いや、いんじゃねーのそのまんまで」
「何しても無駄ってことか…」
「んー…つーか、俺はこっちのほうが好き」
まさかの返答にどんな顔をしていいのかわからない。しかも顔を覗き込まれて、うわ、近い近い…!
「化粧してると大人っぽくなるな。今は取れかかってっけど」
「そう、ですかね」
「俺の部下にもお前くらいの歳の奴いてよ、お前見てると思い出すわ」
「へえ、どんな人なんですか」
「あぁ。この上なく腹立だしいガキで俺と相性最悪なんだ」
「そんな人と重ねられてたんですね私!」
十四郎さんとの初めての買い出し以来、私に対する態度が前よりも親しげになったというか、何というか…とにかく距離が縮まった気がする。最初はからかってくるし嫌な人なのかと思ってたけど。目付き怖いし。
あ、怖いってのは変わってない。今でも時々怖い。(特に寝起き)
「なまえー買い出し行くぞ」
「え、今日十四郎さんの当番じゃないですか」
「だからだよ」
「理由になってませんけど」
なんだかあれからずっと十四郎さんの買い出しに付き合ってる。慣れるまでは付き添うって言ったけど、いつになったら慣れるんでしょう。
「そろそろ道覚えましたよね?」
「全然ー」
「………」
この人ほんとに社会人なのかな